Kaneda Copyright Agency ホームに戻る
カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

地図・図形著作物の侵害性

【機械設計図】

著作権法において、「複製」とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいう(著作権法2115号)のであり、設計図に従って機械を製作する行為が「複製」になると解すべき根拠は見出し難い。原告は、それに基づいて製作することが予定されている設計図については、複製に建築に関する図面に従って建築物を完成することを含む旨規定する著作権法2115号ロを類推適用すべきである旨主張する。しかしながら、右規定は、思想又は感情を創作的に表現したものであって学術又は美術の範囲に属するものであれば、建築物はそれ自体が著作物と認められる(著作権法1015号)から、それと同一性のある建築物を建設した場合はその複製になる関係上、その建築に関する図面に従って建築物を完成した場合には、その図面によって表現されている建築の著作物の複製と認めることにするものであるが、これに対して、原告矯正機の如き実用の機械は、建築の著作物とは異なり、それ自体は著作物としての保護を受けるものではない(それと同一性のある機械を製作しても複製にはならない)から、原告の右主張は採用できない。
<平成40430日大阪地方裁判所[昭和61()4752]>

【製品図面】

著作物たる「学術的な性質を有する図面」(著作権法1016号)であっても,これに従って製品を製造することは,建築物の場合(著作権法2115号ロ)を除き,複製や翻案には当たらないと解される。
<平成241206日大阪地方裁判所[平成23()2283]>

【建築設計図】

設計図の著作物について著作権侵害の成否を判断するに当たっては、まず、創作的な表現と評価できる作図上の表記の仕方が複製判断の対象とされる設計図と原著作物の間で共通しているか否かを基準としなければならず、原著作物である設計図に具現された企画の内容や、そこから読み取り得るアイデアが共通するからといって著作物としての同一性を肯定することはできない。
しかも、建築設計図は、主として点又は線を使い、これに当業者間で共通に使用される記号、数値等を付加して二次元的に表現する方法により作成された図面であり、極めて技術的・機能的な性格を有する上、同種の建物に同種の工法技術を採用しようとする場合には、おのずから類似の表現を取らざるを得ないという特殊性を有することから、複製判断の対象とされる設計図と原著作物との間で、このような表現方法が共通していたとしても、創作的な表現が再製されたものとして同一性を肯定することはできないというべきである。
また、建築設計図書は、複数の図面から構成されているのが通常であり、本件においても、原告企画書中の建築設計図書は24枚の図面、原告改良企画書中の建築設計図書は7枚の図面から構成され、被告の建築設計図書は18枚の図面から構成されているが、著作物性を有するのは設計図書全体であるから、類否の検討に当たっては、一枚の図面の特定部分とそれに対応する部分を比較するのではなく、その部分が建築設計図書全体に果たしている役割を考慮しなければならない。
<平成120824日大阪地方裁判所[平成11()3635]>

①原告設計図においては,特殊な形状の建物の内部設計について,顧客である被告○○から各専用部分や共用部分の種類,個数,面積,位置関係等に関して詳細な設計条件を付され,これらの設計条件に適合することが必要であるため,設計者が自由に選択できる事項としては,「各部屋及び通路の具体的形状」及び「全体の配置」などに限られていたこと,②原告設計図における表現方法は,極く一般の設計図において用いられる平面的な表現方法であって,表現方法における格別の個性の発揮はないこと,③本件事務所を,南側壁面に沿った3つのエリアと,西側壁面に沿った細長いエリアに分けるという発想は,正にアイディアそのものであって,この点が著作権法上の保護の対象となり得る表現とはいえないこと等の点を総合考慮すると,原告設計図において,創作性のある部分は,FTJ,日本研究所及びエトラリの各専用部分や各部屋及び通路等の具体的な形状及び具体的な配置の組合せにあるということができる。
以上のとおり,原告設計図は,著作権法上の保護の対象となる著作物といえるが,その創作性のある部分は上記の点に限られるというべきである。
そこで,以下,被告設計図が原告設計図の創作性のある部分について,共通するか否かを検討する。
(略)
上記のとおり,被告設計図と原告設計図を対比すると,各専用部分や通路の具体的な形状及び具体的配置の組合せにおいて大きく異なるから,被告設計図は,原告設計図と実質的に同一であるということはできず,また,原告設計図上に表現された創作性を有する特徴的部分である具体的形状及び配置の組合せを感得することもできない。
確かに,被告設計図と原告設計図とは,全体の基本的配置,すなわち,本件事務所の南側部分を,南側壁面に沿った3つのエリア及び西側壁面に沿った南北に細長いエリアとに分け,そのうち西側壁面に沿った部分にショールーム及び会議室を配し,南側壁面に沿った3つのエリアを一番東側から順にエトラリの専用部分,FTJの専用部分,日本研究所の専用部分としたという点において,共通する。しかし,上記共通点は,原告設計図上のアイディア又は創作性を有しない部分であるというべきであるから,前記の認定を左右するものとはいえない。
したがって,被告設計図が原告設計図の複製ないし翻案したものに該当するとの原告の主張は理由がない。
<平成150226日東京地方裁判所[平成13()20223]>

上記住民の希望に沿った建物の全体形状,寸法及び敷地における建物配置並びに建物内部の住戸配置,既存杭を前提とした場合の合理的な位置の選択の幅は狭いとはいえ,各部屋や通路等の具体的な形状や組合せ等も含めた具体的な設計については,その限定的な範囲で設計者による個性が発揮される余地は残されているといえるから,控訴人の一級建築士としての専門的知識及び技術に基づいてこれらが具体的に表現された控訴人図面全体については,これに作成者の個性が発揮されていると解することができ,創作性が認められる。ただし,以上に説示したところからすれば,本件においては設計者による選択の幅が限定されている状況下において作成者の個性が発揮されているだけであるから,その創作性は,その具体的に表現された図面について極めて限定的な範囲で認められるにすぎず,その著作物性を肯定するとしても,そのデッドコピーのような場合に限って,これを保護し得るものであると解される。
そこで,次に,控訴人図面と被控訴人図面とを具体的に比較検討する。
(略)
以上のとおり,控訴人図面と被控訴人図面とを比較すると,建物の全体形状に所以する各階全体の構造や,Aと基本的に同様の配置とすることに所以する内部の各部屋の概略的な配置は類似するものの,各部屋や通路等の具体的な形状及び組合せは異なる点が多くあり,もともと控訴人図面の各部屋や通路の具体的な形状及び組合せも,通常のマンションにおいてみられるありふれた形状や組合せと大きく相違するものではないことを考慮すれば,控訴人図面及び被控訴人図面が実質的に同一であるということはできない。そうすると,控訴人図面と被控訴人図面とが,その基本となる設計与条件において共通する点があるとしても,具体的に表現された図面としては異なるものであるといわざるを得ず,被控訴人図面が控訴人図面の複製権又は翻案権を侵害しているとは認められない。
<平成27525日知的財産高等裁判所[平成26()10130]>

【一級建築士試験の製図問題の図面】

原告各表現はいずれも原告各書籍の一部(文章又は図表)を抜き出したものであるが,原告は被告各表現が原告各表現と同一であるなどとして複製権又は翻案権の侵害が成立すると主張する。ところで,著作権法は思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号参照),被告各表現が原告各表現に依拠して作成されたものであるとしても,思想,感情若しくはアイデア,事実,学術的知見など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告各表現と共通するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないと解するのが相当である。
上記の観点から複製権等の侵害の成否について検討すると,以下のとおり,いずれについても侵害を認めることはできないというべきである。
(原告表現1について)
原告表現1は,原告書籍1に掲載された平成8年一級建築士本試験の製図問題(設計課題「景勝地に建つ研修所」)中の図面であり,原告書籍1には次の①ないし③の点を除いて上記問題がそのまま掲載されている。
原告は,原告表現1と上記問題の図面とは,①湖を表す部分,②等高線の描き方,③方角表示が異なっており,これらの点については原告が独自の表現をしたものであるから,原告表現1には創作性が認められると主張する。
そこで判断するに,①の湖を表す部分が,上記問題の図面ではまだら状の模様であったのを,一部を切り欠いた横線とし,切り欠き部分が斜め方向に連なるような模様としている点,②の等高線の描き方が,線の曲がり方が同図面より緩やかになっている点,③の方角表示が同図面より細い矢印を用いている点で原告表現1は同図面と異なっているが,これらのうち水面を横線で表示することはありふれた表現方法であると解される。また,等高線の曲がり方の相違は僅かなものであるし,方角表示を矢印で表現することは,矢印の太さにかかわらずありふれたことであり,その表現に作成者の個性が表れているとみることは困難である。これに加え,原告書籍1は過去の本試験問題を掲載したものであり,事柄の性質上,図面を含めて問題を忠実に再現することが求められることを考慮すると,上記の各相違点を総合しても,原告表現1につき著作権法上保護すべき創作性を認めることはできない。したがって,被告表現1が原告表現1を機械的に複写したものであるとしても,原告の著作権を侵害することはないと解すべきである。
<平成27716日東京地方裁判所[平成26()26770]>

【観光案内図】

本件地図デザインに著作物性が認められるとしても,観光案内を目的とする地図では,大阪地域の全体を分かりやすく見せる必要があるために,観光上重要でない部分を省略したり,地理上の入り組んだ部分を簡略化することはよく見られる表現であり,観光案内を目的とするものではない公社地図や大阪市全図でも相応に行われている。そうすると,本件地図デザインのシンプルな直線及び曲線の具体的表現及び取捨選択に創作性が認められるとしても,その創作性は,従来の地図には見られない細部の簡略化等を地図全体にわたって総合的に行うことにより一つの地図を創作した点にあるというべきであるから,その創作性の幅は狭く,その複製又は翻案と認められるためには,地図全体にわたって,ほぼ同一のシンプルな直線及び曲線の具体的表現及び取捨選択が行われることが必要であると解するのが相当である。
(略)
このように,原告が主張する共通点のうち,別紙4案内図が本件地図デザインの特徴と共通する部分は咲州及びごく一部の川の形状についてのみであるところ,他に多数の点で相違していること,本件地図デザインが全体的に直線的な線ですっきりと描かれているのに対し,別紙4案内図がある程度地理的な曲線を簡略にせず描いていることからすれば,本件地図デザインの表現において認められるP1の個性が,別紙4案内図においてこれを感得することはできないと言わざるを得ない。
そうすると,仮に,原告が指摘するように,○○が別紙4案内図を作成するにあたり,本件地図デザインの一部を参考にした事実があったとしても,別紙4案内図が,本件地図デザインの複製又は翻案ということはできないから,原告の本件地図デザインの著作権及び著作権侵害に基づく請求は理由がない。
<平成27924日大阪地方裁判所[平成25()1074]>

【実用ソフトの表示画面】

本件において,仮に原告ソフトの表示画面に画面全体として何らかの著作物性が肯定される場合には,これに依拠して作成された他社等のソフトウェア(以下「他社ソフト」という。)の表示画面がその複製ないし翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,原告ソフトの各表示画面における画面全体としての創作的特徴が他社ソフトの対応する表示画面においても共通して存在し,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面の創作的な特徴が直接感得できるかどうかを判断すべきものである。そして,この場合,原告ソフトの表示画面の特徴的構成の一部分が他社ソフトの表示画面においても共通して見られる場合であっても,①共通する当該一部分のみでは画面全体としての創作的特徴を基礎付けるには足りないときや,あるいは,②他社ソフトの表示画面に原告ソフトにない構成部分が新たに付加されていることにより,表示画面の全体的構成を異にすることとなり,これを見る者が表示画面全体から受ける印象を異にすることとなったときは,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面全体としての創作的特徴を直接感得することができないから,他社ソフトの表示画面をもって原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
(略)
一般に,ビジネスソフトウェアは,表計算や文書作成など特定の計算処理や事務的作業を行うことを目的とするものであって,その表示画面も,コンピュータへの指令や数字・文字等の情報を入力するためか,あるいは計算の結果や作成された文書等を利用者が閲覧するためのものである。このような表示画面は,作業の機能的遂行や利用者による操作や閲覧の容易性等の観点からその構成が決定されるものであって,当該ビジネスソフトウェアに要求される機能や利用者の利便性の観点からの制約があり,作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は限定的なものとならざるを得ない。また,本件の原告ソフトにおける「スケジュール」「行き先案内板」「施設予約」「掲示板」「共有アドレス帳」等のアプリケーションについては,コンピュータの利用が行われるようになる前から,企業や学校等においては,黒板やホワイトボード等を用いた予定表,掲示板や帳簿等を用いた施設予約簿などが存在しており,また,システム手帳等も存在していたから,過去に利用されていたこのような掲示板,帳簿等の書式の慣行を引き継ぐ必要から来る制約というものも存在する。
このような点を考慮すると,原告ソフトの表示画面については,各表示画面における書式の項目の選択やその並べ方などの点において,作成者の知的活動が介在する余地があり,作成者の個性が創作的に表現される可能性がないとはいえないが,上述のような多様な制約が存在することから,作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は限定されており,創作的要素が認められるとしても画面における部分的な範囲に存在するにとどまるものというべきである。
そうすると,仮に,他社ソフトの表示画面に,原告ソフトの表示画面において認められる創作的要素のうちの一部が共通して認められるとしても,原告ソフトにおける他の創作的要素が他社ソフトの表示画面に存在しない場合や,原告ソフトに存在しない新たな要素が他社ソフトの表示画面に存在するような場合には,表示画面全体としては,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面の創作的表現を直接感得することができないという事態も,十分に考えられるところである。
これを要するに,原告ソフトの表示画面については,仮にこれを著作物と解することができるとしても,その創作的表現を直接感得することができるような他者の表示画面は,原告ソフトの表示画面の創作的要素のほとんどすべてを共通に有し,新たな要素も付加されていないようなものに限られる。すなわち,仮に原告ソフトの表示画面を著作物と解することができるとしても,その複製ないし翻案として著作権侵害を認め得る他者の表示画面は,いわゆるデッドコピーないしそれに準ずるようなものに限られるというべきである。
(略)
以上のとおり,原告ソフトの表示画面については,個々の表示画面をもって,創作性を有する思想・感情の表現として,著作物に該当すると認めることができるかどうかは検討すべき点があるが,その点をひとまずおくとしても,原告ソフトの表示画面と被告ソフトの対応する表示画面との間で共通する点は,いずれもソフトウェアの機能に伴う当然の構成か,あるいは従前の掲示板,システム手帳等や同種のソフトウェアにおいて見られるありふれた構成であり,両者の間にはソフトウェアの機能ないし利用者による操作の便宜等の観点からの発想の共通性を認め得る点はあるにしても,そこに見られる共通点から表現上の創作的特徴が共通することを認めることはできない。したがって,原告ソフトにおける個々の表示画面をそれぞれ著作物と認めることができるかどうかはともかく,いずれにしても,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案に当たるということはできない。
<平成140905日東京地方裁判所[平成13()16440]>

原告製品は,PIMソフトといわれるものの一種であり,その基本的な機能は,個人のスケジュール管理,アドレス帳及び日記の3つに集約されるものと認められる。しかし,個人のスケジュール管理,アドレス帳,日記といったものについては,それぞれその機能に由来する必然的な制約が存在するものであるし,また,コンピュータの利用が行われるようになる前から,紙製の手帳,アドレス帳,日記帳といったものが存在していたのであるから,このような紙製の手帳等に用いられている書式や構成は,原告製品よりはるか前から既に知られていたものである。さらに,他に多くのPIMソフトが存在するものと認められるから,これらのPIMソフトにおいて知られているありふれた書式や構成というものが存在すると考えられる。そうすると,原告製品の表示画面については,各表示画面における書式の項目の選択やその並べ方,各表示画面の選択・配列などの点において,作成者の知的活動が介在し,作成者の個性が創作的に表現される余地があるが,作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は,上記の理由により限定されているものというべきであるから,被告製品が原告製品の複製又は翻案であるかどうかを判断するに当たっては,以上のような点を十分考慮する必要があるものというべきである。
<平成150128日東京地方裁判所[平成14()10893]>

一覧に戻る