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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

個別事例にみる過失責任論

【カラオケリース業者】

飲食店等の経営者が,音楽著作物である歌詞及び楽曲の上映機能を有するレーザーディスク用カラオケ装置又は音楽著作物である歌詞の上映及び楽曲の再生機能を有する通信カラオケ用カラオケ装置(以下「カラオケ装置」という。)を備え置き,客に歌唱を勧め,客の選択した曲目につきカラオケ装置により音楽著作物である歌詞及び楽曲を上映又は再生して,同楽曲を伴奏として客や従業員に歌唱させるなど,音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるためにカラオケ装置を使用し,もって店の雰囲気作りをし,客の来集を図って利益をあげることを意図しているときは,上記経営者は,当該音楽著作物の著作権者の許諾を得ない限り,客や従業員による歌唱,カラオケ装置による歌詞及び楽曲の上映又は再生につき演奏権ないし上映権侵害による不法行為責任を免れない(最高裁昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第三小法廷判決参照)。
カラオケ装置のリース業者は,カラオケ装置のリース契約を締結した場合において,当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは,リース契約の相手方に対し,当該音楽著作物の著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく,上記相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うものと解するのが相当である。けだし,(1)カラオケ装置により上映又は演奏される音楽著作物の大部分が著作権の対象であることに鑑みれば,カラオケ装置は,当該音楽著作物の著作権者の許諾がない限り一般的にカラオケ装置利用店の経営者による著作権侵害を生じさせる蓋然性の高い装置ということができること,(2)著作権侵害は刑罰法規にも触れる犯罪行為であること(著作権法119条以下),(3)カラオケ装置のリース業者は,このように著作権侵害の蓋然性の高いカラオケ装置を賃貸に供することによって営業上の利益を得ているものであること,(4)一般にカラオケ装置利用店の経営者が著作物使用許諾契約を締結する率が必ずしも高くないことは公知の事実であって,カラオケ装置のリース業者としては,リース契約の相手方が著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことが確認できない限り,著作権侵害が行われる蓋然性を予見すべきものであること,(5)カラオケ装置のリース業者は,著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたか否かを容易に確認することができ,これによって著作権侵害回避のための措置を講ずることが可能であることを併せ考えれば,上記注意義務を肯定すべきだからである。
<平成1332最高裁判所第二小法廷[平成12()222]>

社交飲食店の経営者が通信カラオケ装置を店舗内に設置して,著作権者の許諾を得ないまま,同装置により音楽著作物である歌詞及び楽曲を演奏,上映し,同楽曲を伴奏として客や従業員に歌唱させるなどして,その営業に利用する場合には,社交飲食店の経営者が演奏権又は上映権を侵害している行為主体というべきであるところ,一部店舗において期間等について争いがあるものの,訴外会社からリースを受けたカラオケ装置を用いて原告の管理著作物を利用していた各店舗の経営者は,みな原告からその許諾を得ていなかったというのであるから,少なくともこれらの者が訴外会社からリースされたカラオケ装置を使用して著作権侵害行為をなしていたことは明らかなことということができる。
そして,カラオケ装置のリース業者は,カラオケ装置のリース契約を締結した場合において,当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは,リース契約の相手方に対し,当該音楽著作物の著作権者との間で著作物利用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく,上記相手方が当該著作権者との間で著作物利用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うものと解するのが相当である(最高裁平成13年3月2日第二小法廷判決)から,各店舗の経営者によって著作権侵害に使用されたカラオケ装置をリースしていた訴外会社は,上記注意義務に違反していのたであれば,これによって,各店舗の経営者による著作権侵害行為を幇助する不法行為をなしていたということができる。
<平成27827日大阪地方裁判所[平成24()9838]>

業務用通信カラオケ(製造・販売)事業者】

被告は,楽曲データを,著作権者から複製又は公衆送信の許諾を得て作成し,自らの製造に係るカラオケ端末機のハードディスクに搭載する等した上,通信カラオケリース業者に対してカラオケ端末機の販売等を行う株式会社であるところ,このような業務用通信カラオケ事業者であれば,他人の著作物を利用する際には,その著作権を侵害することのないよう,当該著作権の帰属を調査し,事前に著作権者から複製又は公衆送信の許諾を得るべく万全の注意を尽くす義務がある。特に,本件においては,平成13101日の著作権等管理事業法の施行後は,JASRAC以外の著作権等管理事業者が存在する可能性があり,現に,平成14628日に原告が著作権等管理事業者として登録し,同年8月以降,被告の加入するAMEIを訪問する等して,断続的ながら交渉していたものであり,また,請求対象期間である平成14628日から平成167月末日までの間は,韓国の唯一の著作権管理事業者のKOMCAとJASRACとの間の相互管理契約の締結による著作権の管理も行われておらず,そのことは周知の事実であったのであるから,被告においては,利用しようとする楽曲に関し,事前に著作権の所在等について調査検討し,著作権者から許諾を得る等して,著作権侵害の結果を防止すべき注意義務があった。
しかしながら,被告は,これを怠り,漫然と請求対象楽曲の利用を継続してきたのであるから,被告には,過失があったというべきである。
被告は,原告から楽曲のリストの交付を受けるまでは対象となる楽曲が分からず,その後も,被告が求めても原告は説明・資料を提出せず,平成1821日に根拠資料を提出するに至ったから,請求対象期間すべて,又は,少なくとも平成155月までの間は,過失はない等と主張する。
しかしながら,上記のとおり,他人の著作物を利用しようとする場合には,自ら,著作権者の許諾を得るべく,事前に著作権の所在等について調査し,検討すべきところ,被告は,何ら積極的に権利関係について調査検討した様子はないから,原告の対応が上記のとおりであったとしても,被告が注意義務を果たしたということはできない。
<平成220210日東京地方裁判所[平成16()18443]>

【設計変更の依頼を受けた建築士】

以上のとおり、被告【注:一級建築士】は被告設計図書を作成することにより原告設計図書を複製したということができるので、次に右複製についての被告の過失の有無を判断する。
被告は、H【注:訴外工務店代表取締役】から設計変更の依頼を受けてこれを引受けた際、原告設計図書の原設計者(建築士)に設計変更を要請して断られたが、原設計者に対する報酬は支払済みで、他の建築士が設計変更をすることについては承諾を得てあるので、被告には一切迷惑をかけない旨のHの言明を信じ、何ら確認をしなかつたのであり、原告設計図書のコピーの交付を受けたJ【注:被告事務所員】に被告設計図書を作成させるについても、被告が何らの確認をしたとの事実を認めるに足る証拠はない。
ところで、建築主との契約に基づき設計図書を作成した建築士は、建築主からその変更を求められた場合には、特段の事由のなき限り最終的にはこれに応じなければならないというべきであり、被告本人尋問の結果によれば、被告自身もそのように考えていることが認められ、さすれば、被告は、Hから右のとおり原告設計図書の原設計者に設計変更を依頼して断られた旨の説明を受けたのであるから、そこに何らかの事情があると考えてしかるべきであり、Hに原設計者の氏名を問いただして原設計者に照会し確認するべき注意義務があるというべく、被告がそのような措置に出ることは極めて容易であつたことも多言を要しないところである。
しかるに、被告は、右のとおり原設計者に設計変更を依頼して断られた旨の説明を受けながら、漫然、Hの前記のような言明を信じ、何ら右のような確認をすることなく、設計変更を引受け、その後も何ら確認をすることなく、被告設計図書を作成したものであつて、この点過失を免れない。
したがつて、被告は、過失により原告設計図書を複製したということができるから、特段の事由のない限り、著作権侵害の責を免れることはできない。
<昭和540620日東京地方裁判所[昭和50()1314]>

【エイジェンシー業者(著作物管理業者)】

控訴人A1は、イラストレーターからの委託に基き、料金をとってイラスト作品を顧客に貸し出すことを業として行っているものであり、控訴人A2は、控訴人A1の代理店としてイラスト作品貸出しに係る代理店業務を行っているものであるから、両者は、協力して、その管理するイラストに係る権利について善良なる管理者の注意をもって事務処理をすべき義務を負っているものと解され、顧客から、その管理するイラストであって、本件著作物のように利用申込みの都度イラストレーターにより貸出しの可否の判断がなされることにされているものにつき改変利用の希望があり、これをイラストレーターに取り次ぐ場合には、顧客の希望する改変の内容、方法、範囲について正確に把握し、これを、誤解の生じないように正確にイラストレーターに伝えて承諾の可否について打診し、イラストレーターが了解を与えた場合には、その内容を誤解の生じないような形で正確に顧客に伝えることにより、顧客による著作者人格権等の侵害が発生することのないよう細心の注意を払うべき義務があったものと解すべきである。
ところが、控訴人A2は、アド・エヌから、本件著作物の使用目的、本件著作物をコンピュータで合成処理したいという希望、そのためイラストの一部を切除したいとの希望、具体的な合成の方法等を聴取しておきながら、本件打診書の欄外に、本件著作物を模したイラストを描き、その内の翼竜に対応した部分に丸印を付け、そこから引かれた矢印の先に「P.S.この飛んでいる恐竜を、つぶして使用したいとの事ですが、いかがなものでしょうか?(合成使用したい為)」と付記しただけで控訴人A1にこれを送ったのであるから、アド・エヌの希望する改変の内容、方法、範囲について、誤解の生じないように正確に被控訴人に伝えて承諾の可否について打診するための行動をとったとはいえず、かえって、アド・エヌの希望する改変が翼竜の切除と恐竜自体の改変を伴わない合成のみであるかのように誤解される状況を作り出しているのであり、また、被控訴人から、右付記に対する返答として、「翼竜をカットすることについて、異存はありません。」とだけ付記された本件承諾書の送付を受けたにもかかわらず、その内容を誤解の生じないような形で正確にアド・エヌに伝えず、被控訴人からアド・エヌの希望どおりの改変の承諾を得られたかのような連絡をしたのである。控訴人A2の右行為が前記義務に違反することは明らかというべきである。
また、控訴人A1は、控訴人A2から受け取った本件打診書の記載内容が、翼竜の切除が顧客の希望に入ることについては誤解のおそれはないものの、その理由として、「(合成使用したい為)」との文言も含んでいて、翼竜の切除以外の改変も予定されていることがうかがわれ、しかもその内容が必ずしも明確でないものであったにもかかわらず(「合成使用」の用語が、デジタルデータ化した上での組合わせ、変形、色変換の作業を指すものとしても使用されうることは、控訴人ら自身の主張するところである。)、控訴人A2及びアド・エヌに尋ねて詳細を確認することもせず、漫然と、被控訴人に送付し、被控訴人から「翼竜をカットすることについて、異存はありません。」とだけ付記された返答を受け取ったのにも、何らの確認行為もしないで漫然と控訴人A2にこれを送付したものである。控訴人A1の右行為が前記義務に違反することは明らかというべきである。
以上のとおり、右に述べた控訴人らの行為は、いずれも、本件著作物に関して被控訴人が有する同一性保持権の侵害の発生を防止すべき義務に違反してなされたものであって、控訴人らのいずれにも過失があり、アド・エヌによる同一性保持権侵害行為(本件利用)がこれらがなければ発生しなかったことは明らかであるから、控訴人らの右各行為は、被控訴人の有する本件著作物に関する同一性物保持権を侵害する共同不法行為を構成するものである。
<平成110921日東京高等裁判所[平成10()5108]>

【展覧会主催者】

本件岩手展に関し、被告○○新聞社と同P2は、平成510月、展覧会の実施に関する契約を締結した。この契約には、被告○○新聞社は、展覧会の企画、演出、装飾その他一切の運営及び展覧会を成功させるために必要な一切の広告宣伝活動をその費用で行うこと、被告P2は、本件岩手展に関して著作権についての使用許可の手続、カタログの編集及び制作の役務を提供することなどが定められていた。
本件カタログを実際に制作したのは被告P2であるが、本件カタログ2頁目の各展覧会の「会期、会場、主催」欄については、事前に被告P2から被告○○新聞社に校正刷が送られ、担当者が校正をした。右の「主催」欄には、被告○○新聞社の名称が記載されている。被告○○新聞社は、著作物である本件絵画1の使用許諾の手続については、前記契約条項に基づき被告P2に一任し、自ら著作権者の許諾を得る手続は執らなかった。
(略)
右の事実関係によれば、被告○○新聞社は本件岩手展の主催者として、本件カタログが右展覧会の会場で自ら又は被告P2により頒布されることを認識しており、しかも一部とはいえ事前に本件カタログの内容につき意見を述べる立場にあったのであるから、被告P2をして本件カタログを制作させたものということができる。そして、被告○○新聞社は、著作物の使用許諾の手続につき被告P2に一任し、事前に許諾を得たことを証する書面の提出を求めるなどの措置を執らなかったのであるから、著作権の侵害につき少なくとも過失があったものと認められる。
<平成130130日東京地方裁判所[平成6()11425]>

【ゲームソフト開発の下請業者】

被告は、ゲームソフト製作を業とする有限会社であり、日常的に、他人が作成したシナリオ、コンピュータグラフィック、音楽等の著作物を利用してソフトウエアを製作しているものであるから、これらの著作物の利用に当たっては、それが著作者人格権侵害とならないよう注意すべき義務があり、本件のように、シナリオ委託契約が原告と○○【注:被告の使用者】との間で締結され、原・被告間に直接の契約関係が存在しない場合であっても、原告の作成に係るシナリオを改変するに当たっては、まず○○又は原告に対し、契約中に開発者によるシナリオの改変を許す旨の約定があるか否かを確認し、そのような約定がない場合は、シナリオの著作者である原告に対し、改変の内容、方法、範囲等を明確にした上で、承諾を求めるべき義務を負っていたというべきである。
しかるに、被告は、○○又は原告に対し、本件契約の内容を確認することなく、本件契約中には、ソフト開発者側で原告の了解なくしてシナリオの改変を行うことができる旨の条項が存在しないことを看過して、原告に無断で本件改変を行い、これにより原告の同一性保持権の侵害を惹起したものであるから、被告には、この点について過失があり、本件改変により原告が被った損害を賠償する責任を負う。
被告は、本件改変について、原告と被告の使用者である○○との間で訴訟外の和解が成立している以上、原告が被告に責任を追及することはできないと主張する。
○○は、被告の使用者として、被告がシナリオ、コンピュータグラフィック、音楽等の著作物を利用して本件ソフトを作成するに当たり、著作者人格権侵害を惹起しないよう指示、監督する義務を負っているにもかかわらず、被告に対する相当の監督を怠ったことにより、本件改変による著作者人格権侵害を発生させたものであるから、著作権法201項、民法709条、715条に基づき、本件改変により原告に生じた損害を被告と連帯して賠償する責任を負うものといえる。
しかし、使用者責任が成立する場合であっても、被用者について不法行為の要件が充たされる以上、被害者が被用者を相手どって損害賠償請求を行うことを否定する理由はない。加えて、○○と原告の和解契約には、原告が別途被告に対して責任を追求することを妨げない旨の条項があることを考慮すれば、原告と○○との間の訴訟外の和解は、原告の被告に対する損害賠償請求権の行使に影響を与えるものではなく、原告が○○から受領した和解金10万円のうち本件改変によって原告が被った損害に対する賠償の趣旨で支払われた分がその限度で損害のてん補と評価される(ただし、その額は明らかでない。)にとどまる。
<平成130830日大阪地方裁判所[平成12()10231]>

【教科書教材会社】

被告らは,学習教材協会及び教学図書協会を通じて,教科書発行会社に対して,教科書に準拠した教材を発行する許諾を得たことによる対価を支払っていたこと,これには,原告ら原著作者に対する著作権料は含まれておらず,原告ら原著作者には支払われていないこと,以上の事実が認められる。被告らは,上記対価が原著作者に支払われていなかったことを知らなかったと主張するが,上記対価の支払に関する契約書には,原著作者について何ら記載されていないこと,被告らが,原著作者に対価が支払われているかどうか確認するのは極めて容易であったと考えられるにもかかわらず,何らかの確認をしたとは認められないことからすると,被告らは,上記対価が原著作者に支払われていなかったことを知らなかったとしても,そのことに過失があるものというべきであって,以上のような事情からすると,その過失は決して軽いものということはできない。(被告らは,上記対価が原著作者に支払われていなかったことを知らなかったとしても,そのことに過失があるものというべきであって,被告らには,本件各著作物を本件各書籍に掲載して,原告らの著作権及び著作者人格権を侵害したことについて過失があるものというべきである。)
<平成141213日東京地方裁判所[平成12()17019]>

一審被告らは,過去30年にわたり,国語教科書に掲載された一審原告らの本件各著作物を,一審原告らの直接の承諾を得ることなく副教材に複製してきたことは,当事者間に争いがない。
他人の著作物を利用するに当たっては,それが著作権法その他の法令により著作権が制限され,著作者の承諾を得ない利用が許される場合に該当し,著作権を侵害することがないか否かについて十分に調査する義務を負うというべきであり,そのような調査義務を尽くさず安易に著作者の承諾を得なくても著作権侵害が生じないと信じたものとしても,著作権侵害につき過失責任を免れないというべきである。
一審被告らは,昭和4312月ころより,一審被告らを含む図書教材会社が教科書会社に対し謝金を支払うことにより教科書掲載作品の著作権を含む権利処理が行われたものとすることが業界慣行となり,その慣行が今日まで維持されていたなどとし,上記著作権侵害につき,一審被告らに過失がない旨主張する。
(略)
しかしながら,上記謝金は,図書教材会社が教科書会社の編集著作権を侵害することなく,適法な範囲でこれを利用することを前提にその利用についての教科書会社の協力に対する謝礼の意味で支払われるものであり,原著作者に対する著作権料は含まれておらず,したがって,それが一審原告ら原著作者に分配されていた事実はないことが認められる。そして,上記謝金の支払に関する和解の調書及び上記基本契約に係る契約書には上記謝金に原著作者に対する著作権料が含まれる旨の記載はないし,また,上記謝金の支払に関する交渉過程において,教科書掲載作品の原著作者が関わった事実はなく,上記契約ないし上記謝金の支払が原著作権の利用関係に係る問題も含めて解決するものであるかどうかについて協議されたことはうかがわれないし,一審被告らが上記謝金の支払により教科書掲載作品の著作権を含む権利処理が行われたものと考えていたとしても,そのように誤信したことには過失があるといわざるを得ない。
<平成160629日東京高等裁判所[平成15()2467]>

【音楽出版社】

被告○○は,年間約4000曲以上の曲を制作し,400タイトル以上のアルバムを発売している大手レコード会社であり,また,被告△△は,大手音楽出版社の中でもトップクラスの会社であって,いずれもその社員に著作権に関する研修等を多く行っている。このように,被告らは,音楽を市場に供給することを業とする会社であり,その社員も含め音楽業界の専門の団体であるということができ,音楽の著作物について,著作権侵害か否かを調査する能力も経済力も有しているというべきである。したがって,被告らは,本件アルバムないしその原盤の制作にあたり,アルバム内の楽曲が他人の楽曲の著作権を侵害するものでないことを調査し,確認すべき注意義務がある。
甲曲は,昭和41年から,コマーシャルソングとしてばかりではなく,長く歌い継がれてきた大衆歌謡ないし唱歌として著名な楽曲であり,被告らの担当者らも,甲曲のことはよく認識していた。しかし,被告らの担当者は,制作過程において,誰も乙曲と甲曲の類似性に思い至らず,その結果,乙曲と甲曲の比較検討はされず,被告○○の編成会議や法務部,被告△△の制作会議で問題にされることもなく,乙曲の著作権侵害については,何の検討もされず,何ら事前の対策もとることなく,本件アルバムの原盤の制作に至ったものである。すなわち,被告らは,本件アルバムの原盤の制作にあたり,乙曲の著作権侵害の有無について,調査確認の義務があったにもかかわらず,具体的な調査も確認も行っておらず,これを尽くせば侵害行為を回避することが可能であったのであるから,前記注意義務を怠ったものというべきである。
また,被告△△は,JASRACに乙曲の著作権を信託譲渡して管理を委託すれば,第三者に広く乙曲を利用されるようになるのであるから,他人の楽曲の著作権を侵害する曲を管理委託することのないようにすべき注意義務があるにもかかわらず,同被告は,これを怠り,漫然とJASRACに管理を委託した。
さらに,別件訴訟が提起された後は,これが大きく報道され,また被告らは原告及び補助参加人から訴訟告知を受けていたのであるから,乙曲が甲曲の編曲権を侵害するか否かについて更に慎重に検討し,被告○○は,本件アルバムの販売を停止し,被告△△は,JASRACに対する乙曲の管理委託を取り下げ,第三者による利用がされないようにする措置を執るなど,損害が拡大しないような対策をとることが可能であったのにもかかわらず,これを怠った。
以上のとおり,被告らには過失がある。
<平成151219日東京地方裁判所[平成13()3851]>

【芸能プロダクション】

本件において,被告会社は,芸能プロダクションであるから,他人の著作物を利用する際には,その著作権及び著作者人格権を侵害することのないよう,その著作権及び著作者人格権の帰属を調査の上,事前に,演奏することや公衆送信が可能な状態に置くこと,(原)著作者名を表示すること,表題や歌詞を改変すること等について許諾を得るよう注意を尽くす義務があるところ,被告会社代表者は,中目黒のダーツバーにおいて原告及びEと協議した際,本件著作物の著作権及び著作者人格権の帰属について,歌詞は原告が著作者であることを認識し,楽曲については,原告及びEが作曲の経緯について話していたにもかかわらず,著作権等の権利の帰属について十分に聴取等しなかったものであり,また,本件著作物については,エイズチャリティコンサートのエンディングにおいて,メロディラインのない伴奏部分のみを使用することの許諾を得ただけであったにもかかわらず,包括的な許諾を得たものと軽信し,漫然と本件著作物を使用して,本件各行為に及んだのであるから,被告会社には,少なくとも過失があったというべきである。
また,被告Bについては,被告会社に所属する歌手であるとともに,被告Bの名義による被告ブログの管理に関与していたものであり,被告会社の役員として,自らが使用する他人の著作物について,被告会社が負う上記注意義務に関して,被告会社代表者が行う業務執行一般について監視する義務を負うものと解されるところ,被告Bは,被告会社が本件著作物の音源の複製物,歌詞及び伴奏の譜面等の提供を受けたことのみから,許諾を得たものと軽信し,本件著作物を使用して,本件各行為に関与したものであるから,被告Bにおいても,少なくとも過失があったと認めるのが相当である。
<平成230629日東京地方裁判所[平成22()16472]>

【地域活性化イベントの実行委員会(代表者)】

被告イラスト2が原告イラストに類似することは当事者間に争いがなく,被告イラスト2は被告イラスト1に依拠して作成されたものであるから,被告イラスト2は,原告イラストを翻案したものということができる。そして,被告イラスト2の作成者は判然としないものの,被告P3は,実行委員会の代表者として第3回いわきフラオンパクのガイドブックに被告イラスト2を使用することを決め,被告P2は,少なくとも第1稿の段階でそのことを知りつつ,受容したと認められる。
被告P3は,被告P2が作成した被告イラスト1に基づいて作成された被告イラスト2を第3回いわきフラオンパクのガイドブックに掲載する際、その著作権の所在、著作権違反がないか否かについて、厳格に確認する注意義務はなかったと主張している。
確かに実行委員会は,いわき市常磐湯本町の有志が地域活性化のために集まった集団にすぎず,その仲間の一人である被告P2が作成したとする被告イラスト1について,特に著作権侵害を疑うべき事情があったとは認められない。
しかしながら,実行委員会は,約21万部という少なくない部数のガイドブックやチラシを発行することで,広く集客し,地域の事業者が経済的に利益を上げることを企図して,約3か月もの間,第3回いわきフラオンパクを開催したのであり,被告イラスト2は,「フラねこ」という愛称を付した応援キャラクターとして使用されたのである。このように,被告イラスト2が,集客目的の長期イベントのキャラクターデザインとして使用されたことを考えると,実行委員会の代表者である被告P3には,そのデザインが他人の著作権を侵害するものでないか否かに意を払い,特に疑うべき事情がなくともそのデザインの作成に至る経緯を確認すべき注意義務があったと認めるのが相当であり,町おこし目的のボランティアベースの活動だからといって,何らの調査義務も課されないということはできない。
本件についてみると,被告P3は,第3回いわきフラオンパクの準備段階において,被告P2と会議において同席しており,被告イラスト1をキャラクターとして利用するに際し,被告P2に対して被告イラスト1の作成経緯を確認し,他人のイラストに依拠していないかどうかを確認することは容易であったといえる。しかしながら,被告P3は,被告P2に対する確認を怠っており,過失があったと認められる。
<平成27910日大阪地方裁判所[平成26()5080]>

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