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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

氏名表示権の侵害性②

【認定事例(リツイート行為)】

被上告人は,本件写真画像の隅に著作者名の表示として本件氏名表示部分を付していたが,本件各リツイート者が本件各リツイートによって本件リンク画像表示データを送信したことにより,本件各表示画像はトリミングされた形で表示されることになり本件氏名表示部分が表示されなくなったものである(なお,このような画像の表示の仕方は,ツイッターのシステムの仕様によるものであるが,他方で,本件各リツイート者は,それを認識しているか否かにかかわらず,そのようなシステムを利用して本件各リツイートを行っており,上記の事態は,客観的には,その本件各リツイート者の行為によって現実に生ずるに至ったことが明らかである。)。また,本件各リツイート者は,本件各リツイートによって本件各表示画像を表示した本件各ウェブページにおいて,他に本件写真の著作者名の表示をしなかったものである。そして,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるとしても,本件各表示画像が表示されているウェブページとは別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり,本件各ウェブページを閲覧するユーザーは,本件各表示画像をクリックしない限り,著作者名の表示を目にすることはない。また,同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。そうすると,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって,本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではないというべきである。
以上によれば,本件各リツイート者は,本件各リツイートにより,本件氏名表示権を侵害したものというべきである。
<令和2721最高裁判所第三小法廷[平成30()1412]>

【認定事例(参考文献引用の際の表示)】

被告らは,被告ら共著論文のうち105頁の引用部分ではその脚注に原告の氏名を表示し,さらに被告ら共著論文の末尾では原告論文の筆者名,発表年,題号及び引用した文章の所在を示すURLを記載していると主張する。
確かに,被告ら共著論文の105頁の引用部分には,原告論文の著作者名として原告の氏名が表示されており,当該部分については,原告の氏名表示権が侵害されているとはいえないが,104頁においては,原告の氏名は全く表示されておらず,104頁の記述と105頁の記述は,その一部ではほぼ同一であるものの,全体としては異なる文章であるから,105頁の記述に原告の氏名が表示されているからといって,104頁の記述において原告の氏名を表示しなくてよいということはできない。また,被告ら共著論文の末尾には,「文献」との標題の下に,原告論文を含む13の文献の著作者名や題名等が表示されているが,その体裁からすれば,これらの表示は単に被告ら共著論文における参考文献を列挙したものであると認められ,そこでは個々の文献と本文中における引用又は参考とした箇所との繋がりは何ら明示されていないのであるから,このような表示をもって,被告ら共著論文の104頁の記述について,原告の氏名が表示されているということはできない。
<平成27327日東京地方裁判所[平成26()7527]>
【控訴審も同旨】
被告Y2及び被告Y1は,文献で氏名が表示されていれば氏名表示権の問題は生じず,個々の文献と本文中における引用又は参考とした箇所との繋がりを明示する必要はない,原告表現は,原告独自の思想を表現したものではないから,文献末尾に引用されていれば十分であると主張する。しかし,文献末尾に,単に著作者の氏名が表示されるだけでは,文献として著作者の著作物の内容を参考としたのか,著作物を複製等するなどして利用したのかを区別することができず,著作物について著作者としての氏名を表示したものとはいえない。一般的に,論文において,慣行として,引用箇所ごとに氏名を表示するのが一般的であるのも,かかる区別を明確にするためと解される。また,氏名表示権を規定する著作権法19条は,著作者の著作物に表現された思想が独創的であることを要件としておらず,独創性の程度によって,著作物との関連が明らかではないような氏名の表示方法が許容されると解すべき根拠はない。 したがって,被告Y2及び被告Y1の主張は採用できない。
<平成27106日 知的財産高等裁判所[平成27()10064]>

【認定事例(その他)】

被告設計図は、原告設計図とは全く同一ではなく、一部の修正はあるが、著作物の同一性を変ずるものとは認められないから、被告○○組は、被告設計図の作成に際し、原告設計図に依拠し、これを複製したものと認めるのが相当である。
次に、被告○○組が右のように被告設計図を作成したうえ、昭和451020日、その従業員であるAを被告△△の代理人として右設計図を添付して建築確認申請手続をし、その際右設計図の作成者欄に原告の氏名表示をせず、被告○○設計部Aの表示をしたことは認定したとおりである。
そうすると、被告○○組が原告に無断で原告設計図の複製物たる被告設計図に原告の氏名表示をすることなく、かえつて被告○○組もしくはAがその著作者であるかの如き表示をしたことは、原告が原告設計図について有する著作者人格権 (氏名表示権)を侵害したものといわざるをえない。また、被告△△は、前述のとおり建築確認申請手続を被告○○組に依頼したうえ、同被告による右侵害行為を容認し、又は少なくとも、右申請行為が適正に行なわれるよう監視、監督すべき義務を怠り、被告○○組による右侵害行為を制止しえなかつたのであるから、被告○○組と共同して、原告の右著作者人格権を侵害したものというべきである。
<昭和520128日東京地方裁判所[昭和48()4501]>

もともと執筆者の氏名の具体的な掲記の方法については、被告Aの裁量に委ねられていたところ、同被告が、訴外Bを通じ、被告会社に対し、単に、本書の扉や目次に執筆者名を掲記することを指示するに止め、各文末にまでこれを挿入することの指示をしなかつたとすれば、それは当然裁量の範囲内の指示ということができるから、原告は、F項文末に原告の氏名が掲記されていないことにつき、なんら被告Aの責任を追及しえないというべきである。しかし、本件では、事情は異なり、被告Aは、訴外Bを通じ、執筆者全員の氏名を、扉や目次に掲記するばかりでなく、各分担執筆にかかる文末にまでも挿入するように被告会社に指示していることは前記のとおりである。そうだとすれば、特定人の文末における氏名の脱漏は、氏名を掲記されたその他の者との間に差別を生ぜしめたという意味において、結果としては、その特定人の人格権を侵害する行為となるのである。
従つて以上によれば、被告Aは、本書出版のための確定原稿を被告会社に交付するに当り、本書各編の各項目ごとの分担執筆者の氏名をその文末及び目次部分に掲記して、各分担執筆者の著作人格権を侵害しないよう注意すべき義務があるのにこれを怠り、漫然とこれを訴外Bにまかせきりにした過失により、本書F項文末及び目次同項部分に原告氏名の掲記を脱漏し、その結果原告の著作人格権を侵害したものというべきである。
<昭和540219日千葉地方裁判所[昭和45()637]>

被告著述の「心理療法入門」の「Dの症例」(94頁から116頁)のうち94頁から114頁の2行目までの部分は、原告の著作物である「Y子の症例」の全部引用というべきものであるに拘らず、その引用であることの明示を欠き、次いで同被告著述の「遊戯療法の世界」の中には、右「Y子の症例」の引用著作物である「心理療法入門」中の「Dの症例」の引用部分において、依然として右「Dの症例」が「Y子の症例」の引用であることが示されず、かえつてそれが被告の著作物であるものとして引用されたものであり、同被告の右両著述は、前者はそれ自体で、後者は前者と相俟つて、原告がその著作物「Y子の症例」につき有する氏名表示権(著作権法19条)を侵害したものということができる。
<昭和600529日大阪地方裁判所[昭和58()3781]>

本件小説は本件脚本に基づいて執筆されたものであると認められるから、本件小説は、本件脚本を原著作物とする二次的著作物であると認められる。したがって、原告は、本件小説の公衆への提供に際して原著作者として氏名表示権を有する(著作権法19条後段)。
○○社は、本件小説の単行本の初校正ゲラ刷りの段階では、奥付に著者である「D」と原著作者である「A(原案)」を二段に併記していたが、F【注:被告の従業員】からの申入れにより、現実に出版された単行本の奥付には「著者D」とだけ表記して「A(原案)」の部分を削除し、原告の氏名は、奥付の前頁の映画の「スタッフ」の所に「脚本・監督  A」と表記されたのみであったと認められる。
右の現実に出版された単行本の奥付の記載では、原告の氏名は、映画のスタッフとして表記されたのみであって、本件小説の原著作者として表記されたとは認められない。これに対し、○○社が作成した本件小説の単行本の初校正ゲラ刷りの段階では、原告の氏名が、本件小説の原著作者として表記されていたものと認められる。そうすると、Fは、○○社に対して申入れをして、本件小説の原著作者としての原告の氏名の表記を削除させたということができるから、この行為は、本件小説に関する原告の氏名表示権を侵害する行為であるということができる。(右認定の事実によると、Fの氏名表示権侵害行為は、被告の従業員が被告の事業の執行に付き行ったものと認められるから、被告は、右侵害行為によって原告が被った損害を賠償する責任があるというべきである。)
<平成120425日東京地方裁判所[平成11()12918]>

被告の公衆送信及び本件各地方ネットワーク局の各公衆送信においては,本件著作物【注:原告作成のインターネットホームページ上の米国デンバー市を紹介したウェブサイトで掲載されていた、原告撮影にかかる、原告の知人であるデンバー元総領事の肖像写真のこと】の一部分を著作者として原告の氏名を表示しないで放送されたものであるところ,そのうち,平成13710日放送の「ニュースプラス1」及び「きょうの出来事」においては,本件ウェブページ全体の映像を映した上で,そのナレーションにおいて「A氏【注:デンバー元総領事のこと】のホームページ」と述べて,同番組を見た視聴者に対し,本件著作物の出所を明示しているかのように報道し,本件著作物につき,著作者として原告の氏名を表示しなかったにとどまらず,事実と異なる出所表示をしたものであり,氏名表示権の侵害態様は重大なものがある。
<平成170324日東京高等裁判所[平成16()3565]>

控訴人は,控訴人書籍の表紙カバーの見開き下部に,「【カバー・本文マンモス写真提供】東京慈恵会医科大学・高次元医用画像工学研究所」と表示されていることをもって,著作者名の表示がある旨を主張する。しかし,当該表示が本件画像の著作者である被控訴人の氏名の表示といえないことは明らかである。
<平成240425日知的財産高等裁判所[平成23()10089]>

著作権法19条1項によれば,著作者は,その著作物の原作品に,又は著作物を利用するに当たって著作者名を表示するか否か,表示するとすればいかなる著作者名を表示するかを決定することができると解されるところ,原告は,原書籍 の出版に当たり,その著作者名を「読売新聞社会部」とすることに決定して表示したこと,ところが,本件書籍は,原書籍の復刻版であるにもかかわらず,その著者名を原書籍のように「読売新聞社会部」とはせず,「読売社会部C班」とするものであること,原告は,本件書籍の著者名を「読売社会部C班」とすることに強く異議を述べていることが認められる。
かかる事情に鑑みると,著者名を「読売社会部C班」として本件書籍を発売等頒布した被告の行為は,著作者である原告が決定した著作者名の表示を原告の意に反して改変した上,これを公衆へ提供したものと認められるから,被告の上記行為は,原書籍について原告が保有する氏名表示権の侵害行為に該当すると認めるのが相当である。
<平成26912日東京地方裁判所[平成24()29975]>

【非認定事例(脚注に誤記がある場合)】

被告ら共著論文の105頁には,原告表現の一部をほぼそのまま引用して利用した箇所があるが,当該引用部分には「5」との脚注番号が付されており,同頁の下部には,脚注「55」として,原告の氏名及び被引用文献(原告論文)の題名が記載されていることが認められる。
そうすると,ここでは,原告論文の一部が公衆に提示されるに際して,その著作者である原告の氏名が表示されているということができるから,氏名表示権の侵害があるものと認めることはできない。
この点に関して原告は,同頁の本文中に付された脚注番号「5」と下部の脚注部分の番号「55」とが異なると主張する。しかし,被告ら共著論文の103頁の本文中には脚注番号「1」が使用され,その下部の脚注部分には,「1」と記載され,同104頁の本文中には脚注番号「2」及び「3」が使用され,その下部の脚注部分には,「2」及び「3」と記載されており,これらに引き続き,同105頁の本文中には,脚注番号として「4」及び「5」が使用され,その下部の脚注部分には「4」及び「55」と記載されており,脚注番号「5」に対応する脚注部分「5」がないから,脚注部分の「55」が「5」の誤記であることは,これらの記載に接した者にとって一目瞭然であって,かかる番号の誤記を理由に,上記引用部分について原告の氏名が表示されていないということはできない。
<平成27327日東京地方裁判所[平成26()7527]/[h025]平成27106日 知的財産高等裁判所[平成27()10064]>

【非認定事例(イラスト作成者の一括表示)】

本件書籍における氏名表示の方法は,2ページの目次の左側に「さし絵」と記載した欄があり,そこに控訴人を含む6名の氏名を列記するというものであるところ,控訴人は,本件書籍におけるように,イラストごとに著作者名を表示するのではなく,特定のページにその氏名をまとめて表示した場合,どのイラストを誰が描いたのか全く分からないから,このような方法は,著作権法19条が氏名表示権を規定する趣旨を没却するものであり,許されない旨主張する。
しかし,①本件書籍がテレビ番組に登場する主人公,武器,怪獣等を専ら子供向けに紹介する図鑑であり,本文を構成する約170ページのほとんどのページに大なり小なりイラスト又は写真が掲載されていること,②本件書籍の原書籍においても,本件書籍におけるのと同様の表示がされていたことに加え,単行本として発行される図鑑や事典において,そこに含まれるイラストの著作者が複数いる場合,イラストごとにそれに対応する作成者の氏名を表示せず,冒頭や末尾に一括して作成者の氏名を表示することも一般的に行われていると認められることに照らせば,本件書籍の内容や体裁において,イラストごとにそれに対応する作成者の氏名が表示されていなければ氏名表示がされたことにならないとまでいうことはできず,本件書籍における氏名表示の方法が,公正な慣行に反し,控訴人の本件イラストに係る氏名表示権を侵害するものであるということはできない。
<平成28629日知的財産高等裁判所[平成28()10019]>

【非認定事例(氏名表示権不行使特約の黙示的合意を認めた例)】

原告は,本件覚書等によって氏名表示権を行使しない旨を黙示に合意したことはないと主張し,原告は本人尋問において本件CD-ROM収録されたデジタル画像データに氏名が表示されていないことについてDに抗議したが改善されなかったと供述する。
しかし,原告は,Cの説明によって当初よりビジュアルディスクが著作権フリーの画像素材集であることを認識していたのであるから,著作権行使が初めから予定していない商品であることを当然認識していたと認められる。そして,そうである以上,CD-ROM等に著作権者の氏名が表示されない可能性があることを認識していたと認められ,このことは,本件覚書を締結する上での当然の前提事項とされていたというべきである。また,原告は,DからCD-ROMの現物を見せられた際,CD-ROM本体にも収録されている画像データにも原告の氏名が表示されないことを知っていたはずである。しかるに,原告は,そのことについて何ら異議を述べないままDへの写真の貸与を継続していた上,その間,CD-ROM等の確認を行っていなかったのであるから,原告がDに氏名の表示を求めていたとは考えられない。さらに,仮に氏名の表示を求めていたのであれば,原告は,被告Pと本件覚書を締結するにあたって,改めて被告Pに対して氏名の表示を求めるべきところ,そのような行動に出たことを窺わせる証拠はない。
そうすると,原告は,当初よりビジュアルディスクにおいてはCD-ROMやデジタル画像データに原告の氏名が表示されないことを認識し,そのことを了解していたというべきであって,本件覚書締結時においても,特段この点を指摘しなかったものである。以上の事情に照らせば,原告が許諾した本件CD-ROMの販売に関しては,原告と被告Pとの間において,原告が氏名表示権を行使しないことについて黙示の合意が成立していたというべきである。
ただし,本件覚書が解除により終了したことに伴い,上記黙示的合意も失効したというべきであるから,その後において原告の氏名を表示しないまま本件CD-ROMを販売することが原告の氏名表示権を侵害するものとなることは当然である。
<平成170329日大阪地方裁判所[平成14()4484]>

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