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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

編集著作物②

【写真集】

本件著作物は,各頁における画像,解説文等の配列,掲載場所等が表された原告作成のペーパーレイアウト【注:本件著作物(出版物)の完成時における紙面構成をレイアウトしたもの】と解説文等の文章部分より成るものであるが,画像部分は,原告が,春画浮世絵の分野における自らの学識・造詣に基づいて原告の有する膨大な春画浮世絵コレクションのフィルムの中から,美術的価値のあるものなどを選別して配列したものであり,解説文等の文章部分は,これらの画像につき原告が解説を加えたものである。
本件著作物のうち,解説文等の文章部分は春画浮世絵の分野における原告の学識・造詣を発揮して作成したもので,創作性を有する著作物であることはいうまでもない。
また,文章以外の部分,すなわち春画浮世絵の画像を選別し,これを配列したものに題字等を付した部分も,春画浮世絵の分野における原告の学識・造詣を発揮して選別し,歴史的順序やデザイン上の観点からの考慮に従って配列したものであるから,原告の精神活動の成果としての創作性を有するものであって,「編集物でその素材の選択又はその配列に創作性を有するもの」(著作権法121項),すなわち編集著作物に該当するものということができる。
<平成130920日東京地方裁判所[平成11()24998]>
【控訴審も同旨】
本件ペーパーレイアウトは,被控訴人がその編集方針に従い,同人が世界各地で撮影した膨大な写真の中から,主要なものを選択し,選択した写真とこれについて被控訴人が執筆した解説文を,同人の長年に及ぶ学識,知見に基づいて,時代別に体系的に構成し配列したものであるから,素材である写真及び解説文の選択と配列により被控訴人の思想又は感情を創作的に表現したものであって,学術,美術の範囲に属するものということができ,著作物性を優に認めることができる。
<平成141210日東京高等裁判所[平成13()5284]>

これらの写真をまとめた写真集としての本件写真集は,写真の選択,配置,レイアウト等に種々の工夫が加えられており,例えば,「ホ~ムラン」という人形と「あこがれのボギー」という人形をともに背後から,背景を白として撮影した写真を見開きで掲載した次の頁には,背景を黒として同じ人形の正面からの写真を見開きで掲載したり,「偉大なる一歩」という人形の写真を裏焼きを交え,向きを変えて見開き2頁に8枚掲載したり,また,「猛牛のり」という人形の写真と「よみがえる開拓者魂」という人形の写真の間にこれらの人形が活躍する背景を思わせる荒野の風景写真が挿入されていたり,「子供たちのもとへ」等の3体のサンタクロースの人形の写真と「グランパパ」という贈り物を抱えた人形の写真との間に雪景色の風景写真が挿入され,季節感が醸成されている等,たんに写真を順番に並べたといったものではなく,これらの写真に一定の動きを与えたり,物語性を付与するものとなっており,そこに編集物としての創作性があるものと認められる。
<平成190131日横浜地方裁判所[平成16()3460]>

本件写真集は、1年366日に1日ごとに計366種類の花を1つずつ「誕生花」として対応させ、写真家である原告が撮影したそれぞれの花の写真と花言葉を組み合わせて製作した写真集であり、それぞれの日に対応する「誕生花」としての花及びこれに対応する花言葉の選択は最終的に原告が行ったものであり、花言葉の一部は原告自らが創作したものである。この事実と証拠によれば、本件写真集に用いられた366枚の花の写真は、原告の構想する「誕生花」に合致する花を、主として自然の中で咲いている花の中から取材旅行で探し出し、毎年定点観測を行うことなどを繰り返して、約5年をかけて撮影したものの中から選択したものであることが認められ、これらの写真は、その撮影対象・時期の選定、撮影の構図等において創作性があり、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして、著作物性を有するものであると認められる。そして、これらの写真のみならず、1年の各日ごとの「誕生花」の選択とこれに対応した写真及び花言葉の組み合わせとして表現されたものの全体は、1366日の「誕生花」とその花言葉という統一的なまとまりのある意味を有しており、単なる花の写真の集合を超えて、原告の思想又は感情が創作的に表現されたものとして、著作権法上の著作物に該当するものと認めるのが相当である。
この点について、被告らは、「誕生花」の選択についても、花言葉の表現そのもの及び花との組合せについても、表現方法の創作性はないと主張する。
確かに、1年の各日に一定の花を対応させることや、一定の花に「花言葉」を対応させるという手法が古来から存在することは原告が自認するところであるし、原告が本件写真集ないし本件ポスターにおける「誕生花」の花言葉として選択した言葉の多くは、一般に流布され、又は他の出版物中にも見られるものであることが認められる。また、本件写真集における各日に対応する「誕生花」の具体的な選択及びそれぞれの花言葉も、C著「花を贈る事典366日」(平成5年発行)と共通するところが多く見られる。原告は、「誕生花は人生の応援花」とのコンセプトから、一般に流布されている花言葉でもこのコンセプトにふさわしくないものについては、自ら創作したと主張するが、花言葉の一部に原告が創作したものがあるとしても、花言葉自体は、一般的な言葉を選択したごく短い表現である(例えば、11日の「梅」は「忠実、気品」、12日の「シンビジューム」は「飾らない心、素朴」といったものであり、原告が自ら創作した花言葉がどれであるかは特定されていないが、本件ポスターによれば、どの花言葉も同程度の長さと表現態様である。)。
しかしながら、1年の各日に対応した花を「誕生花」として選定するというアイデアや個々の花言葉の表現自体は著作権法による保護の対象にならないということと、1366日のそれぞれの日に対応した「誕生花」を具体的に選定し、その花言葉を選択ないし創作し、これと各花の写真とを組み合わせて表現することが全体として著作物に当たるかどうかということとは別個に考える必要がある。そして、本件写真集におけるこれらの組み合わせからなる表現(本件誕生花)は、全体として統一的に原告の思想又は感情を創作的に表現したものと認めるに足りるものというべきである。したがって、本件誕生花について著作物性を肯定することができる。
<平成160212日大阪地方裁判所[平成14()13194]>

一審原告たる控訴人は,本件写真集は同人が過去に撮影しストックしていた写真に加えて,本件写真集のためだけに撮影された写真を追加し,1365日の日ごとにそれぞれの季節・行事等にふさわしいと考えられる花を対応させて「日めくりカレンダー」として編集されたものであるから,11枚の写真自体が著作物であると同時に,全体として素材の選択又は配列によって創作性を有する編集著作物であると主張し,これに対し一審被告たる被控訴人は,本件写真集について知的創作活動の結果としての表現は何ら読み取ることができず,単なる花の写真の画像データの集合でしかないから編集著作物には当たらないと反論する。
よって検討するに,著作権法12条は,編集著作物につき「編集物…でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは,著作物として保護する」と規定しているところ,控訴人が撮影した花の写真を365枚集めた画像データである本件写真集は,11枚の写真がそれぞれに著作物であると同時に,その全体も1から365の番号が付されていて,自然写真家としての豊富な経験を有する控訴人が季節・年中行事・花言葉等に照らして選択・配列したものであることが認められるから,素材の選択及び配列において著作権法12条にいう創作性を有すると認めるのが相当であり,編集著作物性を肯定すべきである。
<平成200623日知的財産高等裁判所[平成20()10008]>

【歴史資料】

被告「特高警察関係資料集成」は,特定の官署部局が作成した文書などその範囲が一義的に定まる資料を単に時系列に従って並べて復刻したというものではなく,様々な官署部局が作成した文書を,なるべくこれまで知られていなかったり公刊されていなかった文書,なるべく個々の運動,事件に関する直接的な記述があるものという一定の視点から選択し,これを運動分野又は文書の種類別に配列したものであるから,全体として,素材たる原資料の「選択」及び「配列」に編者の個性の発露がみられる。したがって,被告「特高警察関係資料集成」は,編集著作物というべきである。
(略)
被告「高等外事月報」は,月刊誌の各号を時系列に従って復刻しただけであるから,その素材の選択又は配列のいずれにも創作性を認め難く,編集著作物とはいえない。
(略)
被告「朝鮮思想運動概況」は,半年ごとの報告書を時系列に従って復刻しただけであるから,その素材の選択又は配列のいずれにも創作性を認め難く,編集著作物とはいえない。
<平成210227日東京地方裁判所[平成18()26458]>

原告書籍収録文書は,単に米軍押収文書を時系列に従って並べたり,既に分類されていたものの中から特定の項目のものを選択したりしたというものではなく,原告が,未整理の状態で保存されていた160万ページにも及ぶ米軍押収文書の中から,南北朝鮮のどちらが先に朝鮮戦争を仕掛け,戦争を主導したかを明らかにする文書という一定の視点から約1500ページ分を選択し,これを原告の設定したテーマごとに分類して配列したものといえる。
したがって,原告書籍収録文書は,全体として,素材たる原資料の「選択」及び「配列」に編者の個性が顕れているものと認められるものであり,編集著作物に当たるというべきである。
<平成240131日東京地方裁判所[平成20()20337]>

【文学館の展示物】

当裁判所も,本件各展示物【管理人注:学館(徳冨蘆花記念文学館)に常設展示されている解説パネル等や展示ケース内の展示資料等をさす。】は編集著作物に当たる…ものと認める。
<令和3629日知的財産高等裁判所[令和3()10027]>

【同一作家の作品集】

本件書籍は,故甲Ⅰの作品合計125編を,「Ⅰ 創作(詩・小説)」,「Ⅱ 随筆」,「Ⅲ 評論・感想」,「Ⅳ アンケート」,「Ⅴ 自作関連」,「Ⅵ 観戦記」の6項目に分類配列したものであり,各項目内における作品の配列は,「ツエペリン飛行船と默想」を除き,初出あるいは執筆の時期(推定を含む。)により年代順に配列するという方針に沿ったものである。
本件書籍は,故甲Ⅰの未発表,全集未収録作品から構成され,「一般の読者を対象とし,故甲Ⅰの新たな面に光を当て,全集収録作品等の読み直しを促すような,資料的でありながら読み物として読むこともできる単行本とする」という編集方針の下,収録作品が選択され,各作品の内容に応じて6項目に分類され,配列されたものであると認められる。
ところで,本件書籍を構成する故甲Ⅰの作品125編の選択は,未発表,全集未収録作品であることという観点でされたものであって,収集された作品(原稿)は,判読不能なもの,未完成のもの,一部しかなく完全でないもの,全集と重複するものや対談等の記事を除き,本件書籍を構成する作品として本件書籍に収録されている。上記作品の収録及び除外基準は,ありふれたものであって,本件書籍は,素材の選択に編者の個性が表れているとまでいうことはできない(なお,本件書籍を構成する作品は,その多くを,故甲Ⅰの著作権承継者の子である控訴人が収集し,被控訴人に提供したものであると認められるが,控訴人が被控訴人にいかなる作品を提供するか選択したことは,著作権者が編集物に収録を許諾する作品を選択する行為,すなわち,素材の収集に係るものであって,創作行為としての素材の選択であるとはいえない。)。
これに対し,「Ⅰ 創作(詩・小説)」,「Ⅱ 随筆」,「Ⅲ 評論・感想」,「Ⅳ アンケート」,「Ⅴ 自作関連」,「Ⅵ 観戦記」の分類項目を設け,特に,上記Ⅳ,Ⅴ,Ⅵの分類項目を独立させたこと,さらに選択された作品をこれらの分類項目に従って配列した点には,編者の個性が表れているということができる。なお,個々の分類項目の中で年代順に配列したことは,ありふれたもので,編者の個性が表れているとまでいうことはできない。
したがって,本件書籍は,作品を6つの分類項目を設けそれに従って配列したという素材の配列において創作性を有する編集著作物に該当するというべきである。
<平成28127日知的財産高等裁判所[平成27()10022]>

【国語の読解問題】

国語の問題を作成する場合において,数多くの作品のうちから問題の題材となる文章を選択した上で,当該文章から設問を作成するに当たっては,題材とされる文章のいずれの部分を取り上げ,どのような内容の設問として構成し,その設問をどのような順序で配置するかについては,作問者が,問題作成に関する原告の基本方針,最新の入試動向等に基づき,様々な選択肢の中から取捨選択し得るものであり,そこには作問者の個性や思想が発揮されているということができる。本件問題についても,題材となる作品の選択,題材とされた文章のうち設問に取り上げる文又は箇所の選択,設問の内容,設問の配列・順序について,作問者の個性が発揮され,その素材の選択又は配列に創作性があると認めることができる。
<令和元年515日東京地方裁判所[平成30()16791]>

切り離し式の暗記カード

切り離し式の暗記カードについて,原告は,模擬試験本の4回分の予想問題を総合的に反映した重要な仕訳内容などを暗記カードの内容に反映させる独自の編集を行い,また,試験本番で特に重要な設問の第1問の解答率をアップさせるための配列としたなどと主張する。
この点,問題とそれに対する解答を切り離し式の暗記カードの形態で掲載すること自体は,具体的表現ではなく誌面の構成や形態に関するアイデアにすぎず,これに著作権法上の保護が及ぶものではない。
次に,暗記カード上に掲載された問題とそれに対する解答の選択や配列についてみるに,控訴人は,従前の簿記検定試験の内容を踏まえた予想問題を反映した重要な仕訳内容を暗記カードの内容に反映させたというのであり,暗記カード部分に掲載された問題と解答の選択や配列には控訴人の独自性が発揮されているといえるから,少なくとも全体として一つの編集著作物に当たると認められる。
<平成260422日知的財産高等裁判所[平成26()10009]>

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