したがって,被告ソフトウェアのプログラムは,原告ソフトウェアのプログラムに依拠して作成されたものであり,かつ,実質的にこれと同一のものであると認められるから,原告の原告ソフトウェアのプログラムについての著作権(複製権)を侵害するものであると認められる。
<平成21年11月09日東京地方裁判所[平成20(ワ)21090]>
■MainForm.csの原告ソースコードとMainForm.csの被告ソースコードとは,開発ツールによって自動生成されたことが明らかな部分を除いた約300に及ぶ関数(被告ソースコードでは321,原告ソースコードでは298)のうち,103の関数においては全く同一の記述内容であり,148の関数においては関数等の名称に相違が見られるものの,当該関数内に記述された処理手順は同一であり,47の関数においてはソースコードの記述に一部相違が見られるものの,処理手順等に大きな相違はないのであって,他方,両者で全く異なる表現といえる部分が,23の関数において見られるが,その量的な割合は,約300の関数に係るソースコードのうちの約5パーセントにとどまるものということができる。
(略)
以上によれば,原告プログラムと被告プログラムとは,そのソースコードの記述内容の大部分を共通にするものであり,両者の間には,プログラムとしての表現において,実質的な同一性ないし類似性が認められるものといえる。
<平成23年01月28日東京地方裁判所[平成20(ワ)11762]>
■被告プログラムのうち36個のファイルが原告プログラムの35個のファイルとほぼ1対1で対応し,かつ,被告プログラムの上記36個のファイルにおけるソースコードが原告プログラムの35個のファイルにおけるソースコードと,記述内容の大部分において同一又は実質的に同一である。このように,測量業務に必要な機能を抽出・分類し,これをファイル形式に区分して,関連付け,使用する関数を選択し,各ファイルにおいてサブルーチン化する処理機能を選択し,共通処理のためのソースコードを作成し,また,各ファイルにおいてデータベースに構造化して格納するデータを選択するなど,原告プログラムのうち作成者の個性が現れている多くの部分において,被告プログラムのソースコードは原告プログラムのソースコードと同一又は実質的に同一であり,被告プログラムは原告プログラムとその表現が同一ないし実質的に同一であるか,又は表現の本質的な特徴を直接感得できるものといえる。
<平成24年01月31日 知的財産高等裁判所[平成23(ネ)10041]>
■プログラムとは,電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものであり(著作権法2条1項10号の2),これが著作物として著作権法上保護されるためには,その具体的記述に,作成者の思想又は感情が創作的に表現されていることが必要である。そうであるから,原告製品のプログラムの具体的記述が,被告製品のプログラムに依拠し,被告製品のプログラムの創作的表現の本質的特徴を看取できる程度に類似するといえる場合に,本件プログラム著作権侵害が認められる。
本件についてこれを見るに,原告製品及び被告製品【注:「被告製品は,コンピュータを仮想化して複数の異なるOSを並列に実行できるようにするという機能を携帯電話等で利用してリアルタイムマルチOS環境を実現することを可能にしたものである。被告製品は,特定のOSをホストとして利用し,当該ホストOSの機能を利用して,当該OSの上で他のOSを作動させるものの構成をとる」】のプログラムについては,各具体的記述が不明であるばかりでなく,両製品の具体的内容(各プログラムの詳細な構成や機能,動作など)すら明らかでない。仮に,被告会社の主張するとおり,原告製品及び被告製品のプログラムの構造の一部が同一であるとしても,RTOS上で複数のゲストOSを稼動させるという構造が同じというだけでは,原告製品のプログラムが被告製品のプログラムを複製ないし翻案したものであるとは到底認められない。
<平成27年9月17日東京地方裁判所[平成25(ワ)19974等]>
■⑴ プログラムの著作物性について
プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合せたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり,所定のプログラム言語,規約及び解法に制約されつつ,コンピューターに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのように組合せ,どのような表現順序とするかなどについて,著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れることになる。
したがって,プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要するといわなければならない(知財高裁平成24年1月25日判決)。
⑵ 原告プログラムのソースコードの創作性について
ア 原告プログラムのソースコードのうち創作性が認められ得る部分
原告プログラムは,原告が作成していたレジアプリケーションソフトを基に,原告と被告が協議しつつ,原告がソースコードを書くことにより完成したものであって,顧客の携帯電話端末を注文端末として使用することができる点や,店舗において入力した情報を店舗(クライアント)側ではなくサーバー側プログラムを介してデータベースに保持し,主要な演算処理を行う点等について,従来の飲食店において使用されていた注文システムとは異なる新規なものであったと一応推測することができる。また,原告の書いた原告プログラムのソースコードは,印刷すると1万頁を超える分量であって,相応に複雑なものであると推測できる(原告本人)。
そして,⑥データベースにおける正規化されたデータの格納方法や,注文テーブル及び注文明細テーブルに全てのアプリケーションからの注文情報を集約するための記述等に,原告の創作性が認められる可能性もある。
イ コンピュータに対する指令の創作性について
プログラムの著作物性が認められるためには,プログラムにより特定の機能を実現するための指令の表現,表現の組合せ,表現順序等に選択の幅があり,ありふれた表現ではないことを主張立証することが必要であって,これらの主張立証がなされなければ,プログラムにより実現される機能自体は新規なものであったり,複雑なものであったとしても,直ちに,当該プログラムをもって作成者の個性の発現と認めることはできないといわざるを得ない。
コンピュータに対する指令(命令文)の記述の仕方の中には,コンピュータに特定の単純な処理をさせるための定型の指令,その定型の指令の組合せ及びその中での細かい変形,コンピュータに複雑な処理をさせるための上記定型の指令の比較的複雑な組合せ等があるところ,単純な定型の指令や,特定の処理をさせるために定型の指令を組合せた記述方法等は,一般書籍やインターネット上の記載に見出すことができ,また,ある程度のプログラミングの知識と経験を有する者であれば,特定の処理をさせるための表現形式として相当程度似通った記述をすることが多くなるものと考えられる(被告代表者)。
そうすると,ソースコードに創作性が認められるというためには,上記のような,定型の指令やありふれた指令の組合せを超えた,独創性のあるプログラム全体の構造や処理手順,構成を備える部分があることが必要であり,原告は,原告プログラムの具体的記述の中のどの部分に,これが認められるかを主張立証する必要がある。
ウ 本件における主張立証
被告は,原告プログラムについて,①レジ,②キッチンモニター及び③マスタメンテナンスの各プログラムのソースコードは,汎用性のあるソースコードであり創作性が認められないと主張し,被告代表者の陳述書において,上記①~③の各プログラムのソースコードの大部分について,指令の表現に選択の幅がなく,一般書籍やインターネット上にも記載のあるありふれたものであることを指摘する。また,被告は,原告プログラムのうち他の構成についても,指令の組合せがありふれたものであると主張する。
これに対し,原告は,④スタッフオーダー等によって入力された情報を,⑤サーバー側プログラムを経由して飲食店用に最適化された⑥データベースにおいて一括管理し,レジやキッチンに出力する機能が一体となる点に創作性が認められる旨主張するが,これは,プログラムにより実現される機能が新規なもの,複雑なものであることをいうにとどまり,それだけでプログラムに創作性が認められることにはならないことは前述のとおりであるところ,原告は,具体的にどの指令の組合せに選択の幅があり,いかなる記述がプログラム制作者である原告の個性の発現であるのかを,具体的に主張立証しない。
むしろ,原告が開示した原告プログラムの①レジ,②キッチンモニター及び③マスタメンテナンスのソースコードに表れる指令の組合せのうちの多くは,原告プログラムの作成日以前から一般的に使用されている指令であり,変数や条件等の文字列の場所が決まっているため独創的な表現形式を採る余地のないものであって,インターネット上に使用例が公開されているものも多いことが認められる。
エ まとめ
前記認定したところによれば,原告は,平成23年3月の時点で,一定のレジアプリケーションを完成していたが,これは「でんちゅ~」そのものではなく,「でんちゅ~」を事業化しようとする被告代表者と協議しながら,「でんちゅ~」のプログラムを開発したこと,平成24年12月までの原告と被告との法的関係は不明であるが,「でんちゅ~」の事業化の主体は被告であり,原告は,被告の依頼又は内容に関するおおまかな指示を受けてプログラムの開発を行ったこと,「でんちゅ~」は平成23年に飲食店に試験導入され,平成24年以降本格導入されたこと,原告は,少なくとも同年12月から平成27年7月の退社までの2年半余り,被告の被用者として被告の指示を受け,前記導入の結果を踏まえ,「でんちゅ~」の改良,修正等に従事したこと,以上の事実が認められる。
上記事実の中で,平成24年5月22日の時点における原告プログラムの構成が,ありふれた指令を組み合わせたものであるには止まらず,原告の個性の発現としての著作物性を有していたと認めるに足りるものであることの立証がなされていないことは,既に述べたところから明らかである。
また,平成23年の導入以降,「でんちゅ~」については,段階的に改良や修正が施され,原告自身も,少なくとも2年半余り被告の従業員としてその開発,修正に従事しており,前記認定のとおり,原告プログラムと被告プログラムには相当程度の差異が認められるのであるから,仮に原告プログラムの一部に,原告の個性の発現としての創作性が認められる部分が存したとしても,その部分と同一又は類似の内容が被告プログラムに存すると認めるに足りる証拠はなく,結局のところ,平成24年5月22日時点の原告プログラムの著作権に基づいて,現在頒布されている被告プログラムに対し,権利を行使し得る理由はないといわざるを得ない。
<令和元年5月21日大阪地方裁判所[平成28(ワ)11067]>
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