Kaneda Copyright Agency ホームに戻る
カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

プログラム著作物の侵害性

ところで,プログラムは,その性質上,表現する記号が制約され,言語体系が厳格であり,また,電子計算機を少しでも経済的,効率的に機能させようとすると,指令の組合せの選択が限定されるため,プログラムにおける具体的記述が相互に類似することが少なくない。仮に,プログラムの具体的記述が,誰が作成してもほぼ同一になるもの,簡単な内容をごく短い表記法によって記述したもの又は極くありふれたものである場合においても,これを著作権法上の保護の対象になるとすると,電子計算機の広範な利用等を妨げ,社会生活や経済活動に多大の支障を来す結果となる。また,著作権法は,プログラムの具体的表現を保護するものであって,機能やアイデアを保護するものではないところ,特定の機能を果たすプログラムの具体的記述が,極くありふれたものである場合に,これを保護の対象になるとすると,結果的には,機能やアイデアそのものを保護,独占させることになる。したがって,電子計算機に対する指令の組合せであるプログラムの具体的表記が,このような記述からなる場合は,作成者の個性が発揮されていないものとして,創作性がないというべきである。
さらに,プログラム相互の同一性等を検討する際にも,プログラム表現には上記のような特性が存在することを考慮するならば,プログラムの具体的記述の中で,創作性が認められる部分を対比することにより,実質的に同一であるか否か,あるいは,創作的な特徴部分を直接感得することができるか否かの観点から判断すべきであって,単にプログラムの全体の手順や構成が類似しているか否かという観点から判断すべきではない。
<平成150131日東京地方裁判所[平成13()17306]>

著作権法が保護の対象とする「著作物」であるというためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(同法211号)。思想又は感情や,思想又は感情を表現する際の手法やアイデア自体は,保護の対象とならない。例えば,プログラムにおいて,コンピュータにどのような処理をさせ,どのような指令(又はその組合せ)の方法を採用するかなどの工夫それ自体は,アイデアであり,著作権法における保護の対象とはならない。
また,思想又は感情を「創作的に」表現したというためには,当該表現が,厳密な意味で独創性のあることを要しないが,作成者の何らかの個性が発揮されたものであることが必要である。この理は,プログラムについても異なることはなく,プログラムにおける「創作性」が認められるためには,プログラムの具体的記述に作成者の何らかの個性が発揮されていることを要すると解すべきである。もっとも,プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(同法2110号の2)であり,コンピュータに対する指令の組合せという性質上,表現する記号や言語体系に制約があり,かつ,コンピュータを経済的,効率的に機能させようとすると,指令の組合せの選択が限定されるため,プログラムにおける具体的記述が相互に類似せざるを得ず,作成者の個性を発揮する選択の幅が制約される場合があり得る。プログラムの具体的表現がこのような記述からなる場合は,作成者の個性が発揮されていない,ありふれた表現として,創作性が否定される。また,著作物を作成するために用いるプログラム言語,規約,解法には,著作権法による保護は及ばず(同法103項),一般的でないプログラム言語を使用していることをもって,直ちに創作性を肯定することはできない。
さらに,後に作成されたプログラムが先に作成されたプログラムに係る複製権ないし翻案権侵害に当たるか否かを判断するに当たっては,プログラムに上記のような制約が存在することから,プログラムの具体的記述の中で,創作性が認められる部分を対比し,創作性のある表現における同一性があるか否か,あるいは,表現上の創作的な特徴部分を直接感得できるか否かの観点から判断すべきであり,単にプログラム全体の手順や構成が類似しているか否かという観点から判断すべきではない。
<平成230228日知的財産高等裁判所[平成22()10051]>

原告ソフトウェアのプログラムが本件ソフトウェアのプログラムの複製又は翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,まず,本件ソフトウェアのプログラムの具体的記述における表現上の創作性を有する部分と原告ソフトウェアのプログラムの具体的記述とを対比し,原告ソフトウェアのプログラムの具体的記述から本件ソフトウェアのプログラムの表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要があるというべきである。
<平成241218日東京地方裁判所[平成24()5771]>

プログラムの著作物の複製権又は翻案権を侵害したといえるためには,既存のプログラムの具体的表現中の創作性を有する部分について,これに依拠し,この内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製するか,又は,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,これに修正,増減,変更等を加えて,新たな思想を創作的に表現し,新たな表現に接する者が従来の表現の本質的な特徴を直接感得することのできるものを創作したといえることが必要であり,単にプログラムが実現する機能や処理内容が共通するだけでは,複製又は翻案とはならない。
<平成28323日知的財産高等裁判所[平成27()10102]>

プログラムは,その性質上,表現する記号が制約され,言語体系が厳格であり,また,電子計算機を少しでも経済的,効率的に機能させようとすると,指令の組合せの選択が限定されるため,プログラムにおける具体的記述が相互に類似することが少なくない。著作権法は,プログラムの具体的表現を保護するものであって,機能やアイデアを保護するものではないところ,プログラムの具体的記述が,表現上制約があるために誰が作成してもほぼ同一になるもの,ごく短いもの又はありふれたものである場合においては,作成者の個性が発揮されていないものとして,創作性がないというべきである。他方,指令の表現,指令の組合せ,指令の順序からなるプログラム全体に,他の表現を選択することができる余地があり,作成者の何らかの個性が表現された場合においては,創作性が認められるべきである。
原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分と被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分は,①そのプログラム構造の大部分が同一であること,②ほぼ同様の機能を有するものとして1対1に対応する番号(1)ないし(16)の各プログラム内のブロック構造において,機能的にも順番的にもほぼ1対1の対応関係が見られること,③これらの構造に基づくソースコードは,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの約86%において一致又は酷似している上に,その記載順序及び組合せ等の点においても,同一又は類似しているということができる。
なお,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムには,原告接触角計算(液滴法)プログラムにあるプログラムを備えていないものがあるが,これは,液滴の接触角計測に必須のプログラムではない。また,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムには,原告接触角計算(液滴法)プログラムにないプログラムが追加されているものがあるが,これは,既に存在するプログラム内に予め組み込まれているプログラムを,分離して,別プログラムとして記述したものにすぎない。
そして,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと同一性を有する原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分に係るソースコードの記載は,これを全体として見たとき,指令の表現,指令の組合せ,指令の順序などの点において他の表現を選択することができる余地が十分にあり,かつ,それがありふれた表現であるということはできないから,作成者の個性が表れており,創作的な表現であるということができる。
したがって,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは,原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分と創作的な表現部分において同一性を有し,これに接する者が本件対象部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるということができる。
(略)
原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムは,①プログラムの構造において共通しないこと,②機能としては,ブロックごとにおおむね1対1の対応関係が見られるものの,そのソースコードの記載において同一又は類似する部分は,単純な計算を行う3ブロックにすぎず,しかも,各ブロックの行数は被告新接触角計算(液滴法)プログラムについていえば,11行ないし12行と短いものであって,これら3ブロックを除くと,ソースコードの表現,サブルーチン化の方法,記載順序等の点において,両者は共通しないことが認められる。
したがって,被告新接触角計算(液滴法)プログラムは,原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものであるということはできない。
<平成28427日 知的財産高等裁判所[平成26()10059]>

プログラムの著作物は、プログラムの創作性ある「表現」について著作権法上の保護が及び、「表現」されたものの背後にある原理、アイデア等についてはその保護が及ぶものではないと解される。
原告は、原告ソフトと被告ソフトとが類似することの根拠として、①条件値のチェック方法、②仕様書(金抜き設計書)の出力禁止情報の制御方法、③既定値の表記及び処理内容,④計算補正区分及び⑤諸雑費及び小計を計算するためのデータの与え方を指摘するが,既定値の表記及び計算補正区分に関する主張事項を除けば、いずれもプログラムの表現上の類似点ではなく、アイデアに属する部分の類似点であるというべきである。
<平成140423日大阪地方裁判所[平成11()12875]>

必殺パチンココンストラクションにおける画面表示と実践パチンココンストラクションにおける画面表示との間には,ある程度の類似性は認められるものであるが,そのような画面を表示するためのプログラム上,必殺パチンココンストラクションにおいて従来のコンピュータソフトに見られないような独自の創作性が存在する旨の主張立証は何らされていないから,表示画面の類似性を理由として,プログラム著作物としての必殺パチンココンストラクションの著作権を実践パチンココンストラクションが侵害しているということはできない。また,○○電子は,必殺パチンココンストラクションと実践パチンココンストラクションとの間では同じファイル名のファイルが存在することを指摘した上で,同じ機能内容のファイルでもファイル名は任意に変えられるところ,それにもかかわらず,同じファイル名が存在するのは,実践パチンココンストラクションが必殺パチンココンストラクションα版のファイルを流用したことの証左であり,著作権侵害の事実が認められると主張する。しかしながら,実行ファイル名の一部が共通していることは依拠の点を推認させる事実ではあり得ても,そのことから直ちにプログラム著作権の侵害を認めることはできない。すなわち,共通する実行ファイルが存在したとしても,当該ファイルが従来のコンピュータソフトに使用されていなかったものであり,当該ファイルの組み合わせに従来のプログラムにない創作性が認められるのでなければ,プログラム著作権の侵害ということはできない。
<平成140725日東京地方裁判所[平成11()18934]>

控訴人は、被控訴人商品1は控訴人商品のソフトウェアプログラムを、被控訴人商品2は控訴人商品のソフトウェアプログラムを、それぞれ使用しているから、著作権侵害であると主張し、①被控訴人商品1と控訴人商品の類似点として、液晶表示方法、基本回路、CPUの型番・回路、特殊演算方法、ローカライザー等を、②被控訴人商品1と控訴人商品五の類似点として、操作方法、電気仕様、表示方法、受信して演算して表示するという基本構想を、③被控訴人商品2と控訴人商品の類似点として、操作方法及び表示方法を、それぞれ挙げている。
しかしながら、仮に、上記諸点において各商品が同一ないし類似する事実を認めることができたとしても、これらはいずれも一般的な機能やアイデアそのものであるから、これらの類似をもって直ちに著作権侵害を肯認することはできない。
<平成151021日東京高等裁判所[平成15()1010]>

原告ソフトウェアの45個のファイル中,43個のファイル名につき,被告ソフトウェアに同一のファイル名のものが存在すること,被告ソフトウェアのソースコードには,原告ソフトウェアの機能を変更し,又は新たな機能を付加したもの等に関し,原告ソフトウェアのソースコードに新たに付加した部分又はこれを変更した部分があるものの,その余の部分については,原告ソフトウェアのソースコードと同一又は類似していることが,それぞれ認められる。

したがって,被告ソフトウェアのプログラムは,原告ソフトウェアのプログラムに依拠して作成されたものであり,かつ,実質的にこれと同一のものであると認められるから,原告の原告ソフトウェアのプログラムについての著作権(複製権)を侵害するものであると認められる。
<平成211109日東京地方裁判所[平成20()21090]>

MainForm.csの原告ソースコードとMainForm.csの被告ソースコードとは,開発ツールによって自動生成されたことが明らかな部分を除いた約300に及ぶ関数(被告ソースコードでは321,原告ソースコードでは298)のうち,103の関数においては全く同一の記述内容であり,148の関数においては関数等の名称に相違が見られるものの,当該関数内に記述された処理手順は同一であり,47の関数においてはソースコードの記述に一部相違が見られるものの,処理手順等に大きな相違はないのであって,他方,両者で全く異なる表現といえる部分が,23の関数において見られるが,その量的な割合は,約300の関数に係るソースコードのうちの約5パーセントにとどまるものということができる。
(略)
以上によれば,原告プログラムと被告プログラムとは,そのソースコードの記述内容の大部分を共通にするものであり,両者の間には,プログラムとしての表現において,実質的な同一性ないし類似性が認められるものといえる。
<平成230128日東京地方裁判所[平成20()11762]>

被告プログラムのうち36個のファイルが原告プログラムの35個のファイルとほぼ11で対応し,かつ,被告プログラムの上記36個のファイルにおけるソースコードが原告プログラムの35個のファイルにおけるソースコードと,記述内容の大部分において同一又は実質的に同一である。このように,測量業務に必要な機能を抽出・分類し,これをファイル形式に区分して,関連付け,使用する関数を選択し,各ファイルにおいてサブルーチン化する処理機能を選択し,共通処理のためのソースコードを作成し,また,各ファイルにおいてデータベースに構造化して格納するデータを選択するなど,原告プログラムのうち作成者の個性が現れている多くの部分において,被告プログラムのソースコードは原告プログラムのソースコードと同一又は実質的に同一であり,被告プログラムは原告プログラムとその表現が同一ないし実質的に同一であるか,又は表現の本質的な特徴を直接感得できるものといえる。
<平成240131日 知的財産高等裁判所[平成23()10041]>

プログラムとは,電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものであり(著作権法2条1項10号の2),これが著作物として著作権法上保護されるためには,その具体的記述に,作成者の思想又は感情が創作的に表現されていることが必要である。そうであるから,原告製品のプログラムの具体的記述が,被告製品のプログラムに依拠し,被告製品のプログラムの創作的表現の本質的特徴を看取できる程度に類似するといえる場合に,本件プログラム著作権侵害が認められる。 
本件についてこれを見るに,原告製品及び被告製品【注:「被告製品は,コンピュータを仮想化して複数の異なるOSを並列に実行できるようにするという機能を携帯電話等で利用してリアルタイムマルチOS環境を実現することを可能にしたものである。被告製品は,特定のOSをホストとして利用し,当該ホストOSの機能を利用して,当該OSの上で他のOSを作動させるものの構成をとる」】のプログラムについては,各具体的記述が不明であるばかりでなく,両製品の具体的内容(各プログラムの詳細な構成や機能,動作など)すら明らかでない。仮に,被告会社の主張するとおり,原告製品及び被告製品のプログラムの構造の一部が同一であるとしても,RTOS上で複数のゲストOSを稼動させるという構造が同じというだけでは,原告製品のプログラムが被告製品のプログラムを複製ないし翻案したものであるとは到底認められない。
<平成27917日東京地方裁判所[平成25()19974]>

⑴ プログラムの著作物性について
プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合せたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり,所定のプログラム言語,規約及び解法に制約されつつ,コンピューターに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのように組合せ,どのような表現順序とするかなどについて,著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れることになる。
したがって,プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要するといわなければならない(知財高裁平成24年1月25日判決)。
⑵ 原告プログラムのソースコードの創作性について
ア 原告プログラムのソースコードのうち創作性が認められ得る部分
原告プログラムは,原告が作成していたレジアプリケーションソフトを基に,原告と被告が協議しつつ,原告がソースコードを書くことにより完成したものであって,顧客の携帯電話端末を注文端末として使用することができる点や,店舗において入力した情報を店舗(クライアント)側ではなくサーバー側プログラムを介してデータベースに保持し,主要な演算処理を行う点等について,従来の飲食店において使用されていた注文システムとは異なる新規なものであったと一応推測することができる。また,原告の書いた原告プログラムのソースコードは,印刷すると1万頁を超える分量であって,相応に複雑なものであると推測できる(原告本人)。
そして,⑥データベースにおける正規化されたデータの格納方法や,注文テーブル及び注文明細テーブルに全てのアプリケーションからの注文情報を集約するための記述等に,原告の創作性が認められる可能性もある。
イ コンピュータに対する指令の創作性について
プログラムの著作物性が認められるためには,プログラムにより特定の機能を実現するための指令の表現,表現の組合せ,表現順序等に選択の幅があり,ありふれた表現ではないことを主張立証することが必要であって,これらの主張立証がなされなければ,プログラムにより実現される機能自体は新規なものであったり,複雑なものであったとしても,直ちに,当該プログラムをもって作成者の個性の発現と認めることはできないといわざるを得ない。
コンピュータに対する指令(命令文)の記述の仕方の中には,コンピュータに特定の単純な処理をさせるための定型の指令,その定型の指令の組合せ及びその中での細かい変形,コンピュータに複雑な処理をさせるための上記定型の指令の比較的複雑な組合せ等があるところ,単純な定型の指令や,特定の処理をさせるために定型の指令を組合せた記述方法等は,一般書籍やインターネット上の記載に見出すことができ,また,ある程度のプログラミングの知識と経験を有する者であれば,特定の処理をさせるための表現形式として相当程度似通った記述をすることが多くなるものと考えられる(被告代表者)。
そうすると,ソースコードに創作性が認められるというためには,上記のような,定型の指令やありふれた指令の組合せを超えた,独創性のあるプログラム全体の構造や処理手順,構成を備える部分があることが必要であり,原告は,原告プログラムの具体的記述の中のどの部分に,これが認められるかを主張立証する必要がある。
ウ 本件における主張立証
被告は,原告プログラムについて,①レジ,②キッチンモニター及び③マスタメンテナンスの各プログラムのソースコードは,汎用性のあるソースコードであり創作性が認められないと主張し,被告代表者の陳述書において,上記①~③の各プログラムのソースコードの大部分について,指令の表現に選択の幅がなく,一般書籍やインターネット上にも記載のあるありふれたものであることを指摘する。また,被告は,原告プログラムのうち他の構成についても,指令の組合せがありふれたものであると主張する。
これに対し,原告は,④スタッフオーダー等によって入力された情報を,⑤サーバー側プログラムを経由して飲食店用に最適化された⑥データベースにおいて一括管理し,レジやキッチンに出力する機能が一体となる点に創作性が認められる旨主張するが,これは,プログラムにより実現される機能が新規なもの,複雑なものであることをいうにとどまり,それだけでプログラムに創作性が認められることにはならないことは前述のとおりであるところ,原告は,具体的にどの指令の組合せに選択の幅があり,いかなる記述がプログラム制作者である原告の個性の発現であるのかを,具体的に主張立証しない。
むしろ,原告が開示した原告プログラムの①レジ,②キッチンモニター及び③マスタメンテナンスのソースコードに表れる指令の組合せのうちの多くは,原告プログラムの作成日以前から一般的に使用されている指令であり,変数や条件等の文字列の場所が決まっているため独創的な表現形式を採る余地のないものであって,インターネット上に使用例が公開されているものも多いことが認められる。
エ まとめ
前記認定したところによれば,原告は,平成23年3月の時点で,一定のレジアプリケーションを完成していたが,これは「でんちゅ~」そのものではなく,「でんちゅ~」を事業化しようとする被告代表者と協議しながら,「でんちゅ~」のプログラムを開発したこと,平成24年12月までの原告と被告との法的関係は不明であるが,「でんちゅ~」の事業化の主体は被告であり,原告は,被告の依頼又は内容に関するおおまかな指示を受けてプログラムの開発を行ったこと,「でんちゅ~」は平成23年に飲食店に試験導入され,平成24年以降本格導入されたこと,原告は,少なくとも同年12月から平成27年7月の退社までの2年半余り,被告の被用者として被告の指示を受け,前記導入の結果を踏まえ,「でんちゅ~」の改良,修正等に従事したこと,以上の事実が認められる。
上記事実の中で,平成24年5月22日の時点における原告プログラムの構成が,ありふれた指令を組み合わせたものであるには止まらず,原告の個性の発現としての著作物性を有していたと認めるに足りるものであることの立証がなされていないことは,既に述べたところから明らかである。
また,平成23年の導入以降,「でんちゅ~」については,段階的に改良や修正が施され,原告自身も,少なくとも2年半余り被告の従業員としてその開発,修正に従事しており,前記認定のとおり,原告プログラムと被告プログラムには相当程度の差異が認められるのであるから,仮に原告プログラムの一部に,原告の個性の発現としての創作性が認められる部分が存したとしても,その部分と同一又は類似の内容が被告プログラムに存すると認めるに足りる証拠はなく,結局のところ,平成24年5月22日時点の原告プログラムの著作権に基づいて,現在頒布されている被告プログラムに対し,権利を行使し得る理由はないといわざるを得ない。
<令和元年521日大阪地方裁判所[平成28()11067]>

一覧に戻る