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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

改変性の個別事例

【題号の同一性】

本件ソフトのゲーム表示画面上及びオープニングムービー内に表示されたタイトルが「まいにちがすぷらった!」であることは前記のとおりであり、これは、本件シナリオの著作者である原告が付けた題号「毎日がすぷらった」に被告が変更を加えたものであるから、著作権法201項にいう題号の改変に当たる。
<平成130830日大阪地方裁判所[平成12()10231]>

表紙部分に記載されている原告書籍の題号と被告書籍の題号の一部が異なる【注:表紙部分について、原告書籍には、その上部に、三段に分けて「さしのべる手・ふれあう心」、「だれでもできる在宅介護」、「-いざというときに-」と記載されているのに対し、被告書籍には、その上部に、三段に分けて「さしのべる手・ふれあう心」、「だれでもできる在宅介護」、「-いざというとき編-」と記載されていた】。
もっとも,その差異は,原告書籍の題号のうち,「いざというときに」という文言の末尾の「に」が「編」となっているものであるにすぎない上,この差異があることによっても,両者の文言は,ともに,原告書籍又は被告書籍がいざというときのためのものであるという意味であると認めることができるから,原告書籍の題号を被告書籍の題号に改める行為が,著作権法201項の「改変」に当たるとすることはできない。
したがって,原告書籍の表紙部分の「-いざというときに-」という記載を「-いざというとき編-」に変更した被告組合及び被告共立の行為は,原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害に当たらない。
<平成160929日東京地方裁判所[平成16()4605]>

【研究論文】

原判決別表(番号)は、いずれも送り仮名の変更であり、同(番号)は いずれも「……、等」とある部分の読点の切除であり、同(番号)はいずれも中黒「・」を読点に変更したものであり、同(番号)は改行の省略であることは当事者間に争いがない。
ところで、著作権法20条1項は著作者はその著作物及び題号について同一性を保持する権利を有するとして、いわゆる同一性保持権を規定しているものであるが、同項にいうところの、著作物及び題号についてのその意に反する「変更、切除 その他の改変」とは、著作者の意に反して、著作物の外面的表現形式に増減変更を加えられないことを意味するものと解するのが相当であるところ、かかる見地からみると、被控訴人の前記各行為が本件論文の外面的表現形式に増減変更を加えたものであることは、明らかというべきである。
そこで進んで、被控訴人のかかる行為が著作権法20条2項3号の「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様 に照らしてやむを得ないと認められる改変」に当たるか否かについて検討することとする。
著作権法は、著作物は、著作者の人格の反映であることから、前述のように、著作者の意に反する著作物に対する変更、切除、改変等の行為を禁止し、著作物の同一性を保持することにより著作者の人格権の保護を図っているものである。しかしながら、他方、かかる同一性保持権を厳格に貫いた場合には当該著作物の利用上支障が生じ、かつ、著作権者においても同一性保持権に対する侵害を受忍するのが相当であると認められる場合については、同条2項において、著作権者の意思に係らしめず、その同意を得ることなく変更、切除、改変等の行為が許容される例外的場合を規定しているところである。これによれば、同項1号においては、用字、用語等において多くの教育的配慮が要請される教科用図書、すなわち、小学校、中学校又は高等学校その他これらに準ずる学校における教育の用に供される検定済図書等に著作物を利用する場合及び著作物を学校向けの放送番組において放送する場合又は当該放送番組用の教材に掲載する場合を、同項2号においては、主として居住という実用的目的に供される建築物の増築、改築、修繕又は模様替えの場合を、それぞれ規定しているところである。
そこで、同項3号における「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められる改変」の意義についてみると、同条2項の規定が同条1項に規定する同一性保持権による著作者の人格的利益保護の例外規定であり、かつ、例外として許容される前記の各改変における著作物の性質(主として前記2号の場合)、利用の目的及び態様(前記1号、2号)に照らすと、同条3号の「やむを得ないと認められる改変」に該当するというためには、利用の目的及び態様において、著作権者の同意を得ない改変を必要とする要請がこれらの法定された例外的場合と同程度に存在することが必要であると解するのが相当というべきである。
以上の観点から被控訴人のした本件改変の正当性に関する前記主張をみると、前記の送り仮名の変更については、日本新聞協会の新聞用語懇談会が取り決めた方式に準拠したもので、広く一般に通用する用語法に従ったものであるとし、同読点の切除については、一般的な用例に準拠したものであるとし、また、前記中黒「・」の読点への変更については論述内容の誤解の防止及び他の論文との表記の統一の観点から行ったものであり、さらに、前記改行については当該箇所においては改行の必要性が認められず、行数の削減にもなるとの観点から行ったものであるとするもので、いずれも前記の3号にいうところのやむを得ない改変に当たると主張するものである。
しかしながら、本件論文は大学における学生の研究論文であり、また、本件雑誌が大学生を対象としたものであることは、弁論の全趣旨により明らかであることからすると、利用の目的において、教科用の図書の場合と同様に前記のような改変を行わなければ、大学における教育目的の達成に支障が生ずるものとは解し難いし、また、前記のような性格の論文において、他の論文との表記の統一がいかなる理由で要請されるのかも明確ではない。
そうすると、被控訴人の主張するところからは、かような著作物の利用の目的及び態様に照らし、本件論文の掲載に当たって、前記の著作権者の同意を得ない改変の必要性が例外的に許容されている1号及び2号の場合と同程度に存したものと解することは到底困難というべきであるから、かかる改変が著作権法20条2項3号 の「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められる改変」に当たるとすることはできない。そして、このことは、仮に、前記のような改変により、当該部分の実質的意味内容を害するものではないとしても、同一性保持権が外面的表現形式に係るものであることからすると、何ら異なるところではないというべきである。
(略)
なお、原判決別表(番号)は中黒「・」の切除、同(番号)は読点の加入、同(番号)は読点の切除であるが、いずれも前記のように本件論文の原稿において、中黒 「・」、読点について複数の共通した表現形式が用いられている箇所を改めたものとは異なり、その前後の文章の脈絡からみて単なる誤植であって改変とまで認めるのは相当ではない。また、同(番号)は本件論文の原稿に「決って」とあるのを 「決まって」と掲載したものであるが、同(番号)によれば、右原稿の他の箇所では「決まって」と表現されているから、右(番号)はこれに合わせ送り仮名の表現を統一したものと解せられるのであり、もとより改変と認めることはできない。
(略)
当審が前記により認定した著作者人格権に対する侵害行為の内容は送り仮名の付し方の変更、読点の切除、中黒の読点への変更及び改行の省略であるところ、著作物における送り仮名の付し方、読点の種類・位置、改行の要否等については、これを規制する法令の定めはなく、また、常に厳格な文法上の約束事があるとは限らず、広く著作者の個性に委ねられ、他人がみだりに容喙することが相当でない分野であるといわなければならない。しかしながら、これらの改変の結果により、当該部分の実質的な意味内容が変更したと認めることはできない上、被控訴人の改変行為においては一般的に広く採用されているところの表記法を採用したものであることからすると、右改変行為により本件論文の客観的価値が毀損されたものとは認め難い。また、侵害行為の態様においても被控訴人において控訴人が前記のような表記方法を厳守していることを知りながら、殊更にこれを無視して前記改変を行ったものと認めるに足りる証拠はなく、かえって、かかる事情を知らないまま読者により分かり易い表現にするとの観点から一般的に広く採用されているところの表記法を採用したものであることは既に認定したとおりである。加えて、被控訴人の前記改変により控訴人の社会的評価が著しい影響を受けたものと認めるに足りる証拠は全くない。
以上のような、侵害行為が本件論文の実質的な内容及び控訴人に対する社会的評価に及ぼした影響の程度、侵害行為の態様及びその動機等の諸事情を総合勘案すると、被控訴人の前記改変行為により、控訴人が被った精神的損害に対する慰謝料は5万円が相当であり、また、控訴人の弁護士費用のうち被控訴人の侵害行為と相当因果関係がある損害として被控訴人の負担すべき額は1万円が相当であると認められる。
<平成31219日東京高等裁判所[平成2()4279]>

【教科書掲載の文学作品】

以上は(【注】参照),著作権法20条が規定する「改変」に当たるものと認められる。
なお,原告Gは,上記著作物にはない語句を加筆させる問題を設定したことも,「改変」に当たると主張するが,上記著作物の原文自体が変更されているわけではないから,「改変」に当たるとは認められない。
<平成141213日東京地方裁判所[平成12()17019]>
【注】本件で「著作権法20条が規定する「改変」に当たるものと認められる」とされたものは次のとおり:
「?」を「。」に変更したこと
「。」を「!」に変更したこと
「!?」を「。」に変更したこと
丸括弧を鍵括弧に変更したこと
読点を句点に変更したこと
””を削除したこと
上記著作物にある読点を削除したこと
上記著作物にはない句読点を加えたこと
上記著作物にはない句点を加えたこと
平仮名を片仮名に変更したこと
平仮名を漢字に変更したこと
漢字を平仮名に変更したこと
「こんにちわ」を「こんにちは」に変更したこと
「はんにんのしもんをとる」という文書を削除したこと
「でんわとる」を「じゅわきとる」に変更したこと
「わーい」を「わあい。」と変更したこと
「うわーい」を「うわあい」と変更したこと

著作権法201項は,著作者が著作物の同一性を保持する権利を有し,その意に反して改変を受けないことを規定するところ,著作物は,思想又は感情を創作的に表現したものであるから(法211号参照),著作者の意に反して思想又は感情の創作的表現に同一性を損なわせる改変が加えられた場合に同一性保持権が侵害されたというべきである。原告らの本件各著作物は,いずれも児童文学作品等であり,文字によって思想又は感情が表現された言語の著作物であるから,本件国語テストによる別紙(変更内容一覧表)の「変更箇所」欄記載の本件各著作物の変更が,同法201項所定の同一性保持権の侵害に当たるか否かは,原告らの意に反して本件各著作物の思想又は感情の創作的表現に同一性を損なわせる改変が加えられたか否か,すなわち,文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせたか否かによって判断すべきである。
(略)
これらの変更は,本件各著作物にある単語,文節ないし文章を削除し,本件各著作物にない単語,文節ないし文章を加筆し,本件各著作物の単語を全く別の単語に置き換え,又は本件各著作物にある単語を空欄にするなどしたものである。このような変更は,いずれも,文字による表現自体を変更するものであるから,本件各著作物における文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損ない,原告らの人格的利益を害しない程度のものとはいえないから,著作権法201項所定の同一性保持権の侵害に当たるというべきである。
(略)
これらの変更は,本件各著作物にはない挿絵や写真が付加されているものである。そもそも,言語の著作物である本件各著作物と挿絵や写真は,それぞれ別個の著作物であるから,挿絵や写真がなければ著作者の文字による思想又は感情の表現が不完全になるとか,著作者が文字による表現を視覚的表現によって補う意図で自ら挿絵や写真を挿入するなど,文字による表現と挿絵や写真とが不可分一体で分離できない場合に,挿絵や写真を変更することにより,文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせるなどの特段の事情のない限り,同一性保持権の侵害には当たらないというべきである。
(略)
これらの変更は,本件各著作物に傍線や波線を付加したものである。このような変更は,いずれも,本件各著作物の文字による表現自体の変更ではなく,傍線や波線等を付加したからといって,文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせるとはいえない。したがって,これらの変更は,そもそも改変には当たらない。
<平成180331日東京地方裁判所[平成15()29709]>
【参考:本件では、以下のような判断も示された】
「このような変更【字体を太字に変更したもの,分かち書きにしたもの,段落の上部に番号を付加したもの】は,いずれも,本件各著作物の文字による表現自体の変更ではなく,文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせるとはいえない。したがって,これらの変更は,そもそも改変には当たらない。」
「ここにおける文章等の加筆【教師用の注意書を加筆したもの】は,注意書として本件著作物の欄外に表示されたものであることが表現形式上明らかであり,本件著作物自体を変更したものとはいえない。よって,このような変更は,文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせるとはいえない。したがって,この変更は,そもそも改変には当たらない。」
「別紙変更は,11学期の本件各教科書中の一節「あおいうみがみえた。しろいふねもみえた。」の一部を取り出して,ひらがなを四角いマスの中に書いて練習させるものである。そして,これらの本件国語テストにおけるわずか「あおいうみがみえた。しろいふねもみえた。」の記載から,本件著作物の表現上の本質的特徴を感得することは困難であるから,そもそもこれが本件著作物を改変したものということはできない。また,これらの本件国語テストにおいては,左脇又は空欄としたマスの中に,練習すべき文字が別途記載されているから,このような変更は,いずれも,同著作物の文字による表現自体の変更ではなく,文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせるとはいえない。したがって,これらの変更は,同一性保持権の侵害には当たらない。」

【ゲームシナリオ】

本件改変の多くは、平仮名表記を漢字表記に変更したり、アラビア数字を漢用数字に変更したり、疑問符又は感嘆符を加えたり、改行位置を変更するものであるが、このような変更も本件シナリオの外面的表現形式に増減変更を加えることに変わりはない。しかも、本件シナリオのように、小説と同様にゲームのプレイヤーが文字で表現された文章を読む形式の著作物においては、ある語を漢字で表記するか平仮名で表記するか、疑問符・感嘆符を用いるか、改行位置をどこにするかなどの表記方法の選択も、著作者の個性を表現する方法の一つであり、これらが表現上効果を及ぼす場合もあることを考慮すれば、このような表記方法の選択も著作者の創作意図に委ねられるものというべきである。したがって、本件改変のうち、表記方法に関する改変の部分も、原告の了解を得ずにその意思に反して行った以上、同一性保持権の侵害となる著作物の改変に当たる。
<平成130830日大阪地方裁判所[平成12()10231]>

【記事(リード文の切除/誤記)】

本件記事において,リード文は本文の導入としての役割を担っており,両者が一体となって,原告の思想又は感情を創作的に表現した一つの著作物となっているものと認められる。しかるところ,被告は,本件転載の際,これを分断し,リード文を切除して,本文のみを被告ホームページに掲載したものであるが,このような切除は,原告の意に反するものであるから,原告が本件記事について有する同一性保持権(著作権法201項)を侵害するものと認められる。
(略)
上記①【注:本件記事においては「白血球が2000以下で…」と記載されているのに対し,被告ホームページにおいては「白血球が200以下で…」と記載されている】については,転記の際の明らかな誤記と認めるのが相当であり,また,医学的常識に基づいて被告ホームページを読めば,それが誤記であることは明らかに理解し得るところであるから,この誤記によって本件記事の内容を改変したものとは認められない。
また,上記②【注:本件記事においては「たった5分間程の面談…」と記載されているのに対し,被告ホームページにおいては「たった5分程の面談…」と記載されている】についても,本件記事の「5分間」という記載が被告ホームページにおいては「5分」と表記されているにすぎないもので,本件記事及び被告ホームページの全体からみればわずかな相違であり,しかも,両者の間に実質的な意味の違いはないから,これをもって本件記事を改変したものと認めることはできない。 <平成220528日東京地方裁判所[平成21()12854]>

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