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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

賠償額の算定例

【海賊版DVDの販売(法114条2項適用)】

被告が,被告DVDを,平成22年から平成26年6月までに2万8220枚販売したことは争いがない。
被告DVDを含む本件セット(10枚組)の小売価格は1980円(消費税5%込み。本体価格1886円)である。
被告は,本件セットを主に卸売価格で小売業者に売却しているものと認められるところ,被告は,卸売価格は卸先ごとに小売価格の55~64%(1089~1267円)であると主張するが,その根拠資料を提出せず,その理由として,被告が被告補助参加人から仕入れた被告DVDを含む本件セットと,他社から仕入れた同種商品(本訴で対象となっている「被告DVD」ではないもの)を入れた10枚組BOXセットとを区別できないからと説明している。
(証拠)は,被告DVDを含む本件セットと,被告DVD以外の「三人の騎士」のDVDを入れた10枚組セットの売上が混在した商品別売上実績表であるが,例えば,2010年5月度の総売上数量が5455セット,総売上額が682万6204円で1セット当たり1251円(端数四捨五入。以下同じ)となるが,2014年6月度の総売上数量は930セット,総売上額は75万1528円で1セット当たり808円となってしまい,ここから平均卸売価格を算定することはできない。
さらに,(証拠)によれば,被告は,自社ウェブサイトにおいて,本件セットを小売価格2037円(消費税8%込み。本体価格1886円)での直接販売も行っていることが認められ,被告の累計販売枚数2万8220枚のうち,このような小売価格での直接販売の枚数を確定することもできない。
これらの点に鑑み,被告DVDを含む本件セットの卸売価格は,6000セットを制作した際の卸売価格1267円(小売価格の64%)をもって1セット当たりの卸売価格と認めるのを相当とする。
本件セット6000セットを販売した際の経費が425万4543円であったことから,1セット当たりの経費は709円(425万4543円÷6000)と認める。
著作権法114条2項にいう「利益」とは,侵害者の売上から,侵害品の製造販売に追加的に要した費用(変動経費)を控除したいわゆる限界利益をいうと解されるところ,原告らは,(証拠)に記載された経費の変動経費性を具体的に争うことを明らかにしないから,(証拠)に記載された経費425万4543円は全て変動経費と認める。
そうすると,本件セット1セット当たりの被告の利益は558円(1267円-709円)と認められる。
被告DVDは,本件セット10枚組のうちの1枚であるから,被告DVD1枚当たりの被告の利益は56円(558円÷10枚)と認める。
寄与度減額について
被告は,被告DVDはディズニーアニメ作品であり,映像部分の寄与が大きく,言語部分の寄与度は20%程度であると主張する。
被告DVDは,原告らDVDと映像,日本語吹替え音声及び日本語字幕の全てにおいて同一であり,原告らDVDの海賊版と言って差し支えないものと認められるところ,そのような海賊版を販売した者に利得の一部を保有させるのは相当でないから,本件においてパブリックドメイン部分(原作映画の映像,及び原作映画の英語台詞に由来する部分)の寄与により原告らの損害額を減額するのは相当でないというべきである。
したがって,本件においては,言語部分の寄与度を原告らの損害額を減額する要素としては考慮しない。
そうすると,被告DVDの販売により被告が得た利益は,158万0320円(56円×2万8220枚)となる。
原告らの著作権共有持分はそれぞれ2分の1であるから,原告らがそれぞれ被告に請求できる損害賠償の額は,各79万0160円(158万0320円×1/2)となる。
被告の著作権侵害による不法行為は平成26年6月までには終了しているから,その不法行為の終了した以後の日である平成26年6月30日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を付す。
<平成27316日東京地方裁判所[平成26()4962]>

【違法アップロード(法114条3項適用)】

原告は,被告による上記著作権侵害行為により受けた損害の額を,本件著作物を適法に視聴する場合の最低料金を基準に,原告が本件著作物について利用許諾する場合の料率38%を乗じ,さらに被告アップロード著作物が「FC2アダルト」において再生された回数,すなわち公衆に自動送信された回数を乗じることにより,著作権法114条3項の規定に基づき請求している。
しかし,同項の規定に基づく損害額を算定するに当たり,利用許諾の料率を原告の通常の場合と同様の38%とし,被告アップロード著作物が「FC2アダルト」において再生された回数,すなわち公衆に自動送信された回数を用いることは適切であるが,本件著作物を適法に視聴する場合の最低料金を基準とすることは高きに失するというべきである(なお,著作権法114条3項の趣旨に照らし,被告アップロード著作物の視聴が無料である事情は,その再生回数をもって視聴が有料である本件著作物の損害額算定の根拠に用いることを妨げないものと解する。)。
すなわち,原告も予備的に主張するとおり,被告アップロード著作物はいずれも本件著作物の一部でしかなく,その収録時間は被告アップロード著作物1で本件著作物1の約37%,被告アップロード著作物2で本件著作物2の約14%,被告アップロード著作物3で本件著作物2の約27%にすぎない。また原告の主張する正規の利用料金を負担した場合,ストリーミングで1週間見放題になるというのであるから,正規の利用料金は,1週間という利用期間を前提に設定されているものであって,これを「FC2アダルト」における公衆への自動送信1回ごとの料金の基準とすることは合理的ではない。
したがって,上記事情を勘案すれば,被告の行為が原告に無断でなされたことを考慮したとしても,被告アップロード著作物の自動送信1回の損害額の基準となる額は,正規の利用料金に収録時間の割合を乗じ,さらにこれを3分の1とした額が相当であり,この計算によれば,被告アップロード著作物1については自動送信1回につき49円,被告アップロード著作物2については自動送信1回につき14円,被告アップロード著作物3については自動送信1回につき27円として算定するのが相当である。
以上より,著作権法114条3項に基づき原告の受けた損害の額を算定すると,以下のとおりであって合計85万6546円と認められる。
(被告アップロード著作物1)49円×38%×3万3019回=61万4813円
(被告アップロード著作物2)14円×38%×2万2533回=11万9875円
(被告アップロード著作物3)27円×38%×1万1877回=12万1858円
<平成30123日大阪地方裁判所[平成29()7901]>
【控訴審も同旨】
著作権法114条3項は,平成12年の改正により,「通常受けるべき金銭」の「通常」の文言が削除された。これは,使用料額の認定において,一般的相場にとらわれることなく,訴訟当事者間の具体的事情を考慮した妥当な使用料額が認定できることを明確にしたものである。
控訴人は,上記改正の経緯に照らすと,原判決の損害額算定方法は相当でないと主張する。
本件著作物及び被告アップロード著作物はいずれも映画であるが,控訴人が本件著作物の配信を許諾しているサイトでは,本件著作物の一部のみを視聴できるサービスを提供しており,単位時間当たり一定の対価の支払を受けている。そして,原判決のとおり,被告アップロード著作物はその一部であり,その収録時間は,被告アップロード著作物1で,本件著作物1の約37%であり,被告アップロード著作物2では,本件著作物2の約14%,被告アップロード著作物3では,本件著作物2の約27%にすぎない。
以上によると,本件著作物を自動公衆送信により得ることのできる金銭は,視聴できる時間(上映時間,ストリーミングの時間)に大きく影響されることが推認される。法改正の経緯は上記のとおりであるものの,被告アップロード著作物の配信1回につき,これに対応する本件著作物の1回分の使用料額をそのまま,本件著作物にかかる著作権等の行使につき受けるべき金銭とすることは相当とはいえない。
以上によると,配信した著作物の収録時間に応じて使用料相当額を算定するのが相当である。
また,本件の場合,本件著作物の利用者は,ストリーミングで1週間見放題になるというのであるから,本件著作物の配信を受ける対価は,1週間という利用期間を前提に設定されているものであって,これを「FC2アダルト」における公衆への自動送信1回ごとに対応する対価とすることは合理的でない。本件著作物の利用者が,1週間に数回視聴することを前提とし,更に3分の1を乗じるのが相当である。
以上のとおりで,著作権法114条3項の文言が改正された経緯を踏まえても,本件著作物にかかる著作権等の行使につき受けるべき金銭は,原判決に記載のとおり算定するのが相当である。
<平成30629日大阪高等裁判所[平成30()433]>

【法114条の5の適用例】

前記認定のとおり,原告作品は,平成12年から平成30年まで,美術展等で何度も展示された実績のある美術作品であるから,その展示について利用料が発生し得る著作物といえる。しかし,これらの展示において控訴人にいくらの利用料が支払われたのかに関する客観的な証拠は提出されておらず,また,原告作品に類する美術作品の利用料に関する証拠も一切提出されていない。一方,控訴人の著作権を侵害する被告作品が展示された期間は平成26年2月22日から平成30年4月10日まで4年以上の長期間に及ぶが,原告作品に類する美術作品が,所蔵品の展示とは異なり,利用料の発生する状況下で,このように長い期間に渡って同じ場所で展示されることはまれであると考えられるし,その場合の利用料がいかなるものであるかも,個々の事情によって大きく異なると考えられる。
また,前記認定のとおり,被告作品の展示方法について,控訴人と被控訴人らとの間で協議され,一旦は,平成29年8月21日以降,「金魚の電話ボックス『メッセージ』」と題する書面を掲示するようになったものの,納得のいかなかった控訴人から,同年12月28日,改めて,被控訴組合に対し協定書案を提出したところ,被控訴組合が上記提案を拒否し,平成30年4月10日,被告作品を撤去するに至ったという経緯がある。このような経緯に照らすと,協議の期間中,控訴人は,権利行使を控えていたということがいえる。
以上のことからすると,原告作品の過去の展示についての利用料に関する客観的な証拠が提出されたとしても,それに基づいた計算により本件における利用料相当額を認定することは困難である。
したがって,本件は,原告作品の利用料相当額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難な場合に当たるから(著作権法114条の5),原告作品の内容,性格を中心に,本件における全ての事情を考慮し,上記期間全体を通じた著作権(複製権)の侵害による利用料相当損害額を25万円と認定する。
<令和3114日大阪高等裁判所[令和1()1735]>

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