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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

差止請求②

【電子掲示板運営者に対する差止請求の可否】

原告らは,本件各発言が著作権侵害を構成するものである以上,本件電子掲示板を設置,運営し,削除について最終的な権限及び責任を有する被告に対して,本件各発言の自動公衆送信又は送信可能化の差止めを請求することができると主張する。しかし,以下に述べるとおり,原告らの上記主張を採用することはできない。
著作権法1121項は,著作権者は,その著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる旨を規定する。同条は,著作権の行使を完全ならしめるために,権利の円満な支配状態が現に侵害され,あるいは侵害されようとする場合において,侵害者に対し侵害の停止又は予防に必要な一定の行為を請求し得ることを定めたものであって,いわゆる物権的な権利である著作権について,物権的請求権に相当する権利を定めたものであるが,同条に規定する差止請求の相手方は,現に侵害行為を行う主体となっているか,あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者に限られると解するのが相当である。けだし,民法上,所有権に基づく妨害排除請求権は,現に権利侵害を生じさせている事実をその支配内に収めている者を相手方として行使し得るものと解されているものであり,このことからすれば,著作権に基づく差止請求権についても,現に侵害行為を行う主体となっているか,あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者のみを相手方として,行使し得るものと解すべきだからである。この点,同様に物権的な権利と解されている特許権,商標権等についても,権利侵害を教唆,幇助し,あるいはその手段を提供する行為に対して一般的に差止請求権を行使し得るものと解することができないことから,特許法,商標法等は,権利侵害を幇助する行為のうち,一定の類型の行為を限定して権利侵害とみなす行為と定めて,差止請求権の対象としているものである(特許法101条,商標法37条等参照)。著作権について,このような規定を要するまでもなく,権利侵害を教唆,幇助し,あるいはその手段を提供する行為に対して,一般的に差止請求権を行使し得るものと解することは,不法行為を理由とする差止請求が一般的に許されていないことと矛盾するだけでなく,差止請求の相手方が無制限に広がっていくおそれもあり,ひいては,自由な表現活動を脅かす結果を招きかねないものであって,到底,採用できないものである。
(略)
上記の各事実に照らせば,本件各発言について送信可能化を行って本件各発言を自動公衆送信し得る状態にした主体は本件発言者であって,被告が侵害行為を行う主体に該当しないことは明らかである。
そうすると,原告らは,被告に対して本件各発言の送信可能化又は自動公衆送信の差止めを請求することはできないものというべきである。
(略)
原告らは,また,本件電子掲示板の利用者が発言の書き込みをする際に,氏名,メールアドレス等を記載する必要がなく匿名で行うことができること,著作権侵害の発言について削除要請があっても必ずしも削除されるとは限らず,書き込みをした本人であってもスレッドに掲載された発言の削除を行うことは許されていないことといった本件電子掲示板の特徴に照らすと,被告に対して差止請求を認めなければ著作権侵害に対する救済を欠くことになり,不当であるなどとも,主張する。
しかし,まず,著作権侵害に限らず,匿名で権利侵害を行っている者に対して差止請求を認めるべきかどうか,認めるとしてどのような方法で差止めを可能ならしめるかは,基本的には立法政策の問題であって,電子掲示板における表現において,匿名での権利侵害行為がなされたからといって,侵害の主体ということができない電子掲示板の設置者ないし自動公衆送信装置の設置者に対して,特段の法規上の根拠も要することなく,差止請求権を行使することができると解することは,到底できない。殊に,憲法上自由な表現活動が保障されている下においては,表現活動に対する抑制行為は厳に謙抑的であることが求められるものであり,このような点に照らしても,原告らの主張するところは,差止請求の相手方を解釈によって無制限に拡張することにつながるもので,到底採用することができない。
もっとも,発言者からの削除要請があるにもかかわらず,ことさら電子掲示板の設置者が,この要請を拒絶して書き込みを放置していたような場合には,電子掲示板の設置者自身が著作権侵害の主体と観念されて,電子掲示板の設置者に対して差止請求を行うことが許容される場合もあり得ようが,そのような事情の存在しない本件において,被告に対する差止請求を認める余地はない。
<平成160311日東京地方裁判所[平成15()15526]>
【注:控訴審では一転電子掲示板運営者に対する差止請求が認められた】
自己が提供し発言削除についての最終権限を有する掲示板の運営者は,これに書き込まれた発言が著作権侵害(公衆送信権の侵害)に当たるときには,そのような発言の提供の場を設けた者として,その侵害行為を放置している場合には,その侵害態様,著作権者からの申し入れの態様,さらには発言者の対応いかんによっては,その放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合もあるというべきである。
(略)
インターネット上においてだれもが匿名で書き込みが可能な掲示板を開設し運営する者は,著作権侵害となるような書き込みをしないよう,適切な注意事項を適宜な方法で案内するなどの事前の対策を講じるだけでなく,著作権侵害となる書き込みがあった際には,これに対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき義務がある。掲示板運営者は,少なくとも,著作権者等から著作権侵害の事実の指摘を受けた場合には,可能ならば発言者に対してその点に関する照会をし,更には,著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど,速やかにこれに対処すべきものである。
本件においては,上記の著作権侵害は,本件各発言の記載自体から極めて容易に認識し得た態様のものであり,本件掲示板に本件対談記事がそのままデジタル情報として書き込まれ,この書き込みが継続していたのであるから,その情報は劣化を伴うことなくそのまま不特定多数の者のパソコン等に取り込まれたり,印刷されたりすることが可能な状況が生じていたものであって,明白で,かつ,深刻な態様の著作権侵害であるというべきである。被控訴人としては,編集長からの通知を受けた際には,直ちに本件著作権侵害行為に当たる発言が本件掲示板上で書き込まれていることを認識することができ,発言者に照会するまでもなく速やかにこれを削除すべきであったというべきである。にもかかわらず,被控訴人は,上記通知に対し,発言者に対する照会すらせず,何らの是正措置を取らなかったのであるから,故意又は過失により著作権侵害に加担していたものといわざるを得ない。
被控訴人は,一人で数百にものぼる多数の電子掲示板を運営管理し,日々,刻々とこれに膨大な量の書き込みが行われるため,すべての書き込みに目を通すことは到底不可能であるから,個々の著作権侵害の事実を把握することはできない,と法廷で繰り返し強調していたが,仮に被控訴人の主張することが事実であったとしても,著作権者等から著作権侵害の事実の通知があったのに対して何らの措置も取らなかったことを踏まえないままにこのように主張するのは,自らの事業の管理態勢の不備をいう意味での過失,場合によっては侵害状態を維持容認するという意味での故意を認めるに等しく,過失責任や故意責任を免れる事由には到底なり得ない主張であるといわざるを得ない。
以上のとおりであるから,被控訴人は,著作権法112条にいう「著作者,著作権者,出版権者…を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に該当し,著作権者である控訴人らが被った損害を賠償する不法行為責任があるものというべきである。なお,著作権者が発言者に対して著作権侵害に係る発言の削除の要請をするのが容易であるならば,掲示板の運営者が著作権侵害をしていると目すべきでないこともあり得ようが,本件掲示板においては,発言者の実名,メールアドレスなどの発信者情報を得ることはできず,本件各発言の削除要請が容易であるとは到底いうことができない。
この点に関連し,被控訴人は,本件掲示板の発信者は,IPログから追跡可能であると主張する。被控訴人の主張は,IPアドレスの記録によって発信者が特定できるとの趣旨と理解できるが,IPアドレスによって特定されるのは当該発言がいずれのプロバイダーから発信されたかにとどまり,発言者までの特定は当該プロバイダーが厳格に管理している個人情報を得て初めて可能になるものであることは,公知の事実である。被控訴人の上記主張をもってしても,被控訴人の著作権侵害による責任についての上記判断を左右することができない。
また,被控訴人は,本件掲示板の運営者として,削除依頼は削除依頼掲示に記載すべきものとするガイドラインを設定しており,これ以外の方法による削除要請を受理しなくともよいかのごとく主張するが,これは,被控訴人が一方的に取り決めた通告方法にすぎず,本件掲示板に何ら特別な関係を持たない控訴人らに法的な効力を及ぼすことはできない。被控訴人は,少なくとも,著作権者と称する者から通知があった場合には,その通知者が連絡を取れる実在の者であることが明らかに分かり,かつ,当該発言を読んで明らかに著作権侵害の可能性が高いと判断されるときには,発言者にその旨を通知して対応策を問い合わせる必要がある。なお,被控訴人は,ファクシミリや電子メールを読んでおらず,内容証明郵便も家族が受領して自らは見ていないと主張するが,信用することができない。仮に,被控訴人が上記のとおり一人による事業で管理態勢が不十分であるため,自己に対する電子メールや内容証明郵便も読むことができないのが事実であるとしても,これによって,不法行為責任等の判断において被控訴人が有利に評価されることはあり得ない。
(略)
前記のとおり本件各発言は自動公衆送信されていたものである。現在のところは,本件掲示板に掲載されておらず,一般人に対し自動送信される状態にないが,これは,被控訴人が本件各発言の公開を保留しているにすぎず,将来送信可能化される可能性のあることは明らかであるから,本件各発言の自動公衆送信又は送信可能化について控訴人らが請求する差止請求は理由がある。
<平成170303日東京高等裁判所[平成16()2067]>

【侵害専用品を販売している者に対する差止の可否】

著作権法1121項の適用による差止めについて)
著作権法1121項は、著作隣接権者は、著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる旨を定める。
一般には、ここでいう、「侵害」とは、直接に著作隣接権を侵害する行為を意味し、「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」とは、著作隣接権を侵害する行為(本件では複製ないし送信可能化する行為)の主体となる者を意味するものと解される。
原告らは、直接的物理的には著作隣接権を侵害する行為(直接行為)をしておらず、間接的な行為(間接行為)をしている場合であっても、その間接行為が、直接行為と異ならない権利侵害実現の現実的・具体的蓋然性を有する行為であれば、これを直接行為と同視することができ、そのような間接行為自体が、著作隣接権の侵害行為そのものであると主張する。
そして、被告による被告商品の販売行為は、被告商品がもっぱら原告らの著作隣接権の侵害にのみ用いられるものであるから、上記の理由で、被告商品の販売行為それ自体が、原告らの著作隣接権の侵害にあたると主張する。
なるほど、もっぱら権利侵害にのみ用いられるような器具の販売といった、権利侵害に至る高度の現実的・具体的蓋然性を有する間接的行為が行われた場合には、その後、権利侵害が行われる蓋然性は極めて高いものということができる。
しかし、そのような販売行為が行われたその時点においては、具体的には何らの法的利益も害されていないこともまた事実である。
また、著作隣接権の侵害行為は、著作権法119条により犯罪とされている。ところが、原告らの主張に従えば、上記のような間接的行為は、それが間接正犯(複製ないし送信可能化の主体)とはいえない場合にも、それ自体が著作隣接権の侵害行為であるということになってしまい、現実の具体的な権利侵害行為が行われていないにもかかわらず、それが犯罪行為にも該当するという結論に至るものといわざるを得ない。
のみならず、例えば、特許法においては、物の発明の特許について、業として、その物の生産にのみ用いる物を製造販売する行為や、方法の発明の特許について、業として、その方法にのみ用いる物を製造販売する行為は、特許権を侵害するものとみなす旨の規定(101条。いわゆる間接侵害の規定)が置かれている。ここで、この特許法の規定においては、そのような間接行為は、侵害行為と「みなす」ものとされているのであり、本来は侵害行為とはいえない行為を、権利侵害に結びつく蓋然性の高さから、侵害行為として法律上擬制しているものである。しかるに、著作権法においては、そのような趣旨の規定は存在しない。なお、著作権法においても、一定の行為については、これらを著作権や著作隣接権等を侵害するものとみなす旨の規定を置いているが(113条)、上記のような間接行為はそこに掲げられていない。
したがって、間接行為が、たとい直接行為と異ならない程度に権利侵害実現の現実的・具体的蓋然性を有する行為であったとしても、直ちにこれを、著作隣接権の侵害行為そのものであるということはできないから、被告商品の販売行為そのものを原告らの著作隣接権を侵害する行為とすることはできない。
(著作権法1121項の類推による差止めについて)
本件においては、①被告商品の販売は、これが行われることによって、その後、ほぼ必然的に原告らの著作隣接権の侵害が生じ、これを回避することが、裁判等によりその侵害行為を直接差し止めることを除けば、社会通念上不可能であり、②裁判等によりその侵害行為を直接差し止めようとしても、侵害が行われようとしている場所や相手方を知ることが非常に困難なため、完全な侵害の排除及び予防は事実上難しく、③他方、被告において被告商品の販売を止めることは、実現が容易であり、④差止めによる不利益は、被告が被告商品の販売利益を失うことに止まるが、被告商品の使用は原告らの放送事業者の複製権及び送信可能化権の侵害を伴うものであるから、その販売は保護すべき利益に乏しい。
このような場合には、侵害行為の差止め請求との関係では、被告商品の販売行為を直接の侵害行為と同視し、その行為者を「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」と同視することができるから、著作権法1121項を類推して、その者に対し、その行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。
すなわち、著作隣接権は、創作活動に準じる活動をする者や、著作物の公衆への伝達に重要な役割を果たしている者に、法律が規定する範囲で独占的・排他的な支配権を与えるものであり、その享受のために、権利者に、妨害の排除や予防を直接請求する権利を与えたものである。ここで、その行為が行われることによって、その後、ほぼ必然的に権利侵害の結果が生じ、その回避が非常に困難である行為は、権利を直接侵害する行為ではないものの、結果としてほぼ確実に権利侵害の結果を惹起するものであるから、その結果発生まで一定の時間や他者の関与が必要になる場合があるとしても、権利侵害の発生という結果から見れば、直接の権利侵害行為と同視することができるものである。
ところで、物権的請求権においては、その行使の具体的方法が物権侵害の種類・態様に応じて多様であって、例えば、妨害排除請求権及び妨害予防請求権の行使として具体的行為の差止めを求め得る相手方は、必ずしも妨害行為を主体的に行った者に限定されるものではない。このこととの対比において、上記著作隣接権の性質を考慮すれば、上記のような行為については、その侵害態様に鑑み、差止めの請求を認めることが合理的である。
また、著作権法は、他の法益との衝突の可能性を考慮して、著作隣接権侵害を発生させる行為について、差止めの対象を一定の範囲に限定し、それ以外のものは、行為者の故意過失等を要件として不法行為として損害賠償の対象とするに止めているものと解される。しかし、本件においては、差し止められるべき行為は、保護すべき利益に乏しく、かつ、その行為を被告が止めることも容易であるから、差止めによって損なわれる法益があるものとは認めがたい。したがって、本件においては、著作権法において差止めの対象が限定されている趣旨にも反せず、著作権法1121項の規定を類推するに適合したものということができる。
なお、特許法等と異なり、著作権法においては、上記のような行為は、権利侵害行為とみなす旨の、いわゆる間接侵害の規定は存在しない。
しかしながら、間接侵害の規定は、そのような行為を、単に差止めの対象行為とするだけではなく、権利侵害行為として法律上擬制し、直接の権利侵害行為と同一の規律に服せしめるものである。
したがって、間接侵害の規定がないことは、このような行為が差止めの対象行為となると解することの妨げとはならない。
以上の次第で、原告らは、原告らの放送事業者としての著作隣接権である複製権及び送信可能化権に基づいて、被告に対し、上記権利の侵害の予防のために、被告商品の販売行為の差止めを請求することができるものというべきである。
<平成171024日大阪地方裁判所[平成17()488]>
【控訴審】
1121項は,差止めにつき,これを請求し得る者としては「著作者,著作権者,…著作隣接権者」,請求の相手方としては「著作権,…著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」,請求し得る内容としては「その侵害の停止又は予防」とそれぞれ規定している。
そして,被控訴人らは,放送事業者として著作隣接権者であり,一部の番組については職務上著作の著作者でもあり,他方,控訴人は,被控訴人らの支分権としての複製権,公衆送信権・送信可能化権をいずれも侵害し,又は侵害するおそれがあるものといえるから,被控訴人らは,控訴人に対し,同条項に基づき侵害の停止又は予防を請求することができるというべきである。
ところで,ここにいう著作権,著作隣接権の侵害とは,本件に即していえば,著作者の複製権,公衆送信・送信可能化権,著作隣接権者の複製権,送信可能化権の侵害であり,したがって,停止を求め得る侵害行為は,複製行為,公衆送信・送信可能化行為であるところ,商品販売によって所有権,占有権が入居者等に帰属するなどの状況において,控訴人が控訴人商品を使用した複製行為,公衆送信・送信可能化行為そのものを現実に差し止め又は入居者等をして差し止めさせ得る直接的手段を有することを認めるに足りる証拠はない。
しかるところ,入居者の控訴人商品の使用による被控訴人らの著作隣接権等の侵害は控訴人商品の構成自体に由来し,控訴人商品を販売しないことは,当該侵害の停止,予防として直截的かつ有効であるから,被控訴人らは上記のとおり侵害行為の主体といい得る控訴人に対し,次の内容の限りで,控訴人商品の販売による入居者の侵害行為の差止め請求をすることができる。
すなわち,本件における侵害行為である複製行為,公衆送信・送信可能化行為のうち,公衆送信・送信可能化行為該当の要件となる「公衆」という概念は,法上,行為者から見て相手方が不特定人である場合の当該不特定人を意味するほか,特定かつ多数の者を含むから,控訴人商品の設置される集合住宅の入居者が特定人に該当するとすれば,多数である場合に「公衆」に該当し,そうでなければ「公衆」に該当せず,公衆送信・送信可能化行為に当たらないこととなるところ,少なくとも24戸以上の入居者が使用者となる場合は「公衆」に該当して必ず公衆送信・送信可能化権の侵害が生じ,その限度では,控訴人商品は,少くとも,使用の都度,常時,被控訴人ら著作隣接権者の有する送信可能化権侵害が発生するいわゆる侵害専用品といい得るが,当該戸数に至らない場合,控訴人商品の使用態様,条件によっては,公衆送信・送信可能化権を侵害しない場合もあり得る。
一方,控訴人商品は,集合住宅向けに販売してこれをその本来の用途に従って使用すれば,上記「公衆」該当の如何に関わらず,必ず複製権侵害が発生する物,少なくとも,使用の都度,常時,被控訴人ら著作隣接権者の有する複製権侵害が発生する,いわゆる侵害専用品といい得る物である。
我が国のような自由市場においては,すべての取引はこれを行う当事者の自由な創意,工夫にゆだねられ,これにより経済の発展が図られるとの理念の下に経済社会の運営が行われているところ,その一方,取引当事者は,秩序ある公正な市場での適切かつ公正な競争を維持する責任を負っているというべきであり,知的財産権の重要性を考慮すると,絶対権である知的財産権のいわゆる侵害専用品は,通常の流通市場において取引の対象とするのが不相当の物といえる。
そして,前記のとおり,控訴人商品の構成上,その販売が行われることによって,その後,ほぼ必然的に入居者による被控訴人らの著作隣接権の侵害が生じ,これを回避することが,裁判等により集合住宅の入居者の侵害行為を直接差し止めることを除けば,社会通念上不可能であるところ,裁判等により集合住宅の入居者の侵害行為を直接差し止めようとしても,侵害が行われようとしている場所や相手方を知ることが困難なため,完全な侵害の排除及び予防は事実上難しい。
したがって,法1121項,2項により,被控訴人らは,少なくとも,著作隣接権に基づき,複製権侵害を理由に侵害行為の主体といえる控訴人に対し,規範的には,その侵害の差止めを求めることができ,具体的には控訴人商品の販売により同入居者に同商品使用による放送番組の録画をさせてはならない旨求めることができるものと解するのが相当である。
もっとも,著作権に基づく同様の差止め請求は,被控訴人らの著作権のある放送番組が常時放送されているといえない以上,控訴人商品が同著作権についての侵害専用品とはいえないので,控訴人商品の販売により同商品を使用させてはならない旨を命ずることが著作権のない番組を含めたすべての番組に関する差止めを認めることとなり,被控訴人らに過大な差止めを得させることとなり,不相当であるから,認めることができない。
<平成190614日大阪高等裁判所[平成17()3258]>

【違法に作成された二次的著作物を所蔵する図書館設置者に対する差止請求の可否】

被控訴人らは,いずれも,本件韓国語著作物を貸与等の目的をもって購入し,それぞれの図書館等において所蔵しているにすぎない者であって,控訴人著作物に係る控訴人の著作権や著作者人格権(以下「著作権等」という。)を直接的に侵害する主体と認められる者ではない。
そして,著作権法113条が,直接的に著作権等の侵害行為を構成するものではない幇助行為のうちの一定のものに限って著作権等侵害とみなすとしていることからしても,同条に該当しない著作権等侵害の幇助者にすぎない者の行為について,同法112条に基づく著作権等侵害による差止等請求を認めることは,明文で同法113条が規定されたことと整合せず,法的安定性を害するものであるから,直接的な著作権等の侵害行為や同条に該当する行為を行っておらず,これを行うおそれがあるとは認められない被控訴人らに対する差止等請求を認めることはできない。
<平成220804日知的財産高等裁判所[平成22()10033]>

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