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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

同一性保持権②

202項1号の意義と解釈】

著作権法2021号は,学校教育の目的上やむを得ない改変を認めているが,本件各書籍【注:国語教科書準拠テスト】が同号の「第33条第1項(同条第4項において準用する場合を含む。)又は第34条第1項の規定により著作物を利用する場合」に当たらないことは明らかであり,同号に該当する教科書に準拠した教材であるからといって,教科書に当たらないものについて,同号により改変が適法になるものということはできない。
<平成141213日東京地方裁判所[平成12()17019]>

被告らは,本件国語テストの変更箇所には,本件各教科書の表記に従い,同教科書に記載されているとおりの変更をしたものがあり,それらは改変に当たらない旨主張する。
しかしながら,教科用図書に本件各著作物を掲載するに当たり,学校教育の目的上やむを得ないと認められる用字又は用語の変更その他の改変は,著作権法2021号により,同一性保持権の保護が適用されないが,本件国語テストは,教科用図書ではないから,これと同一に論じることができない。そして,教科用図書への掲載に際して改変することと,本件国語テストにおいて改変することとは,全く別個の行為であって,前者の改変が同一性保持権侵害に当たらない場合があるとしても,後者の改変が当然に同一性保持権侵害に当たらないことにはならない。
<平成180331日東京地方裁判所[平成15()29709]>

【法2022号の意義と解釈】

本件においては,イサム・ノグチと谷口の共同著作に係る著作物としての,ノグチ・ルームを含む本件建物全体,庭園及び彫刻が一体となった建築の著作物と,独立の著作物としてのイサム・ノグチの著作に係る「無」,「学生」と題された各彫刻が問題となるものであるところ,このうち,ノグチ・ルームを含む本件建物全体,庭園及び彫刻が一体となった建築の著作物が,本件工事により改変を受けるものである。
著作権法2022号は,建築物については,鑑賞の目的というよりも,むしろこれを住居,宿泊場所,営業所,学舎,官公署等として現実に使用することを目的として製作されるものであることから,その所有者の経済的利用権と著作者の権利を調整する観点から,著作物自体の社会的性質に由来する制約として,一定の範囲で著作者の権利を制限し,改変を許容することとしたものである。これに照らせば,同号の予定しているのは,経済的・実用的観点から必要な範囲の増改築であって,個人的な嗜好に基づく恣意的な改変や必要な範囲を超えた改変が,同号の規定により許容されるものではないというべきである。
これを本件についてみると,本件工事は,法科大学院開設という公共目的のために,予定学生数等から算出した必要な敷地面積の新校舎を大学敷地内という限られたスペースのなかに建設するためのものであり,しかも,できる限り製作者たるイサム・ノグチ及び谷口の意図を保存するため,法科大学院開設予定時期が間近に迫るなか,保存ワーキンググループの意見を採り入れるなどして最終案を決定したものであって,その内容は,ノグチ・ルームを含む本件建物と庭園をいったん解体した上で移設するものではあるが,可能な限り現状に近い形で復元するものである。これらの点に照らせば,本件工事は,著作権法2022号にいう建築物の増改築等に該当するものであるから,イサム・ノグチの著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものではない(仮に,イサム・ノグチの著作物として,上記のような本件建物全体と庭園とを一体としてとらえた建築の著作物ではなく,債権者らの予備的申立てにいうように,本件建物のうちノグチ・ルーム部分と庭園を問題とした場合であっても,ノグチ・ルームは建築物の一部分として著作権法2022号の適用を受け,庭園もその性質上,同号の規定が類推適用されるものと解するのが相当であるから,上記の結論は変わらない。)。
<平成150611日東京地方裁判所[平成15()22031]>

著作権法20条2項2号は、建築物の所有者の経済的利用権と著作者の権利を調整する観点から、一定の範囲で著作者の権利(同一性保持権)を制限し、建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変を許容している。
<平成160929日大阪高等裁判所[平成15()3575]>

本件工作物を設置することが,建築物の改変(著作権法2022号)の規定若しくはその類推適用により,又はやむを得ないと認められる改変(同4号)に当たり,許容されるか
ア 著作権法2022号の類推適用
既に述べたとおり,本件庭園は,自然の再現,あるいは水の循環といったコンセプトを取り入れることで,美的要素を有していると認められる。
しかしながら,本件庭園は,来客がその中に立ち入って散策や休憩に利用することが予定されており,その設置の本来の目的は,都心にそのような一角を設けることで,複合商業施設である新梅田シティの美観,魅力度あるいは好感度を高め,最終的には集客につなげる点にあると解されるから,美術としての鑑賞のみを目的とするものではなく,むしろ,実際に利用するものとしての側面が強いということができる。
また,本件庭園は,債務者ほかが所有する本件土地上に存在するものであるが,本件庭園が著作物であることを理由に,その所有者が,将来にわたって,本件土地を本件庭園以外の用途に使用することができないとすれば,土地所有権は重大な制約を受けることになるし,本件庭園は,複合商業施設である新梅田シティの一部をなすものとして,梅田スカイビル等の建物と一体的に運用されているが,老朽化,市場の動向,経済情勢等の変化に応じ,その改修等を行うことは当然予定されているというべきであり,この場合に本件庭園を改変することができないとすれば,本件土地所有権の行使,あるいは新梅田シティの事業の遂行に対する重大な制約となる。
以上のとおり,本件庭園を著作物と認める場合には,本件土地所有者の権利行使の自由との調整が必要となるが,土地の定着物であるという面,また著作物性が認められる場合があると同時に実用目的での利用が予定される面があるという点で,問題の所在は,建築物における著作者の権利と建築物所有者の利用権を調整する場合に類似するということができるから,その点を定める著作権法2022号の規定を,本件の場合に類推適用することは,合理的と解される。
イ 模様替え
本件工作物の設置は,本件庭園の既存施設であるカナルや花渦を物理的に改変せずに行うものであることから,著作権法2022号が定める中では,「模様替え」に相当すると解される。債権者は,建築基準法の解釈として,本件工作物の設置は「模様替え」に当たらない旨を主張するが,本件庭園は建築物そのものではなく,著作権法の定めを建築基準法と同一に考える必要もないから,債権者の主張は採用できない。
ウ 著作権法2022号のあてはめ
本件への適用を考えるに,著作権法20条は,1項において,著作者が,その著作物について,意に反して変更,切除その他の改変を受けず,同一性を保持することができる旨を定めた上で,22号において,建築物の増築,改築,修繕又は模様替えによる改変については,前項の規定を適用しない旨を定めている。
著作権法は,建築物について同一性保持権が成立する場合であっても,その所有者の経済的利用権との調整の見地から,建築物の増築,改築,修繕又は模様替えによる改変について,特段の条件を付することなく,同一性保持権の侵害とはならない旨を定めているのであり,これが本件庭園の著作者と本件土地所有者の関係に類推されると解する以上,本件工作物の設置によって,本件庭園を改変する行為は,債権者の同一性保持権を侵害するものではないといわざるをえない。
エ 債権者の主張について
債権者は,著作権法2022号が適用されるためには,①経済的,実用的な観点から必要な範囲の増改築であること,②個人的な嗜好に基づく恣意的な改変ではないことが必要であり,本件工作物の設置は,そのいずれの要件も欠くから,同号は適用されない旨を主張する。
しかしながら,同号の文言上,そのような要件を課していないことに加え,著作物性のある建築物の所有者が,同一性保持権の侵害とならないよう増改築等ができるのは,経済的,実用的な観点から必要な範囲の増改築であり,かつ,個人的な嗜好に基づく恣意的な改変ではない場合に限られるとすることは,建築物所有者の権利に不合理な制約を加えるものであり,相当ではない。
以上によれば,同号の文言に特段の制約がない以上,建築物の所有者は,建築物の増築,改築,修繕又は模様替えをすることができると解されるのであり,その理は,債権者と債務者の関係にも類推されるというべきである。債務者の主張はこの理をいうものとして理由があり,これに反する債権者の主張は採用できない。
もっとも,建築物の所有者は建築物の増改築等をすることができるとしても,一切の改変が無留保に許容されていると解するのは相当でなく,その改変が著作者との関係で信義に反すると認められる特段の事情がある場合はこの限りではないと解する余地がある。債権者が,本件工作物の設置はP2個人のプロジェクトのモニュメントであり,実用性,経済性,必要性を欠くと主張する点も,その趣旨を述べたものとして理解することもできるが,前記で述べたところに照らすと,なお採用できないというべきである。
(略)
オ まとめ
以上によれば,本件工作物の設置は,著作者である債権者の意に反した本件庭園の改変にはあたるものの,著作権法2022号が類推適用される結果,同一性保持権の侵害は成立しないことになる。
<平成250906日大阪地方裁判所[平成25()20003]>

【法202項4号の意義と解釈】

著作権法は、著作物は、著作者の人格の反映であることから、著作者の意に反する著作物に対する変更、切除、改変等の行為を禁止し、著作物の同一性を保持することにより著作者の人格権の保護を図っているものである。しかしながら、他方、かかる同一性保持権を厳格に貫いた場合には当該著作物の利用上支障が生じ、かつ、著作権者においても同一性保持権に対する侵害を受忍するのが相当であると認められる場合については、同条2項において、著作権者の意思に係らしめず、その同意を得ることなく変更、切除、改変等の行為が許容される例外的場合を規定しているところである。
これによれば、同項1号においては、用字、用語等において多くの教育的配慮が要請される教科用図書、すなわち、小学校、中学校又は高等学校その他これらに準ずる学校における教育の用に供される検定済図書等に著作物を利用する場合及び著作物を学校向けの放送番組において放送する場合又は当該放送番組用の教材に掲載する場合を、同項2号においては、主として居住という実用的目的に供される建築物の増築、改築、修繕又は模様替えの場合を、それぞれ規定しているところである。
そこで、同項3号【注:現4号。以下同じ】における「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められる改変」の意義についてみると、同条2項の規定が同条1項に規定する同一性保持権による著作者の人格的利益保護の例外規定であり、かつ、例外として許容される前記の各改変における著作物の性質(主として前記2号の場合)、利用の目的及び態様(前記1号、2号)に照らすと、同条3号の「やむを得ないと認められる改変」に該当するというためには、利用の目的及び態様において、著作権者の同意を得ない改変を必要とする要請がこれらの法定された例外的場合と同程度に存在することが必要であると解するのが相当というべきである。
<平成31219日東京高等裁判所[平成2()4279]>

著作権法2024号は、同一性保持権による著作者の人格的利益保護を例外的に制限する規定であり、かつ、同じく改変が許容される例外的場合として規定された同項1号ないし3号の掲げる内容との関係からすれば、同項4号の「やむを得ないと認められる改変」に該当するというためには、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らし、著作物の改変につき、同項1号ないし3号に掲げられた例外的場合と同様に強度の必要性が存在することを要するものと解するのが相当である。
<平成101029日東京地方裁判所[平成7()19455]>

被告小説において,本件詩につき,題号を切除してその全文が使用されていることは,前記認定のとおりである。著作者は,その題号の同一性を保持する権利を有し,その意に反してその切除その他の改変を受けないものとされているところ(著作権法201項),被告の上記行為は,本件詩の題号についてAの有していた上記権利を侵害するものといわざるを得ない。
被告らは,本件詩を被告小説の主人公の心情描写に必要な範囲において本件詩を引用したものであり,題号の切除も,かかる目的に照らしやむを得ない改変である(著作権法2024号)と主張する。
しかしながら,著作権法2024号は,同一性保持権による著作者の人格的利益の保護を例外的に制限する規定であり,かつ,同じく改変が許される例外的場合として同項1号ないし3号の規定が存することからすると,同項4号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当するというためには,著作物の性質,利用の目的及び態様に照らし,当該著作物の改変につき,同項1号ないし3号に掲げられた例外的場合と同程度の必要性が存在することを要するものと解される。しかるところ,被告ら主張の事情をもってしても,被告小説において本件詩の題号を切除することにつき,上記のような必要性が存在すると認めることはできない。
<平成160531日東京地方裁判所[平成14()26832]>

上記校正の内容についてみると,本件原稿について改変されている部分は,いずれも,分担執筆に係る複数の原稿により構成されるという本件書籍の性質上,法律名の略称や仮名遣いを統一した点や,法律解説書という観点から本件原稿において不正確ないし不適切な表現を手直ししたものであって,その校正内容は,本件書籍の性質に照らせば不相当なものとはいえない。改変内容が,上記のようなものであることに加えて,被告において,本件書籍の出版を間近に控えて短時間のうちに校正を行う必要に迫られていたという事情のあることをも併せて考慮すれば,上記改変は,やむをえない改変(著作権法2024号)にとどまるものというべきである。
<平成161112日東京地方裁判所[平成16()12686]>

控訴人は、引用の場合においては、「やむを得ない」改変か否かの解釈認定は、より一層慎重な吟味が必要であり、他にとるべき方法が全くなく、真にやむにやまれぬ状況でない限り適法とすべきではないと主張する。しかし、著作権法2024号においては、「やむを得ない改変」か否かについて、引用であるか、それ以外の場合であるかを特別に区別していない。そして、これを実質的に考えても、引用は、新しい文化活動をしようとする者と著作権者との調整として、著作物の利用を許した規定であって、著作物の利用が許されているという点において、著作物の利用が許されている他の場合と異なるものではない。そうである以上、「やむを得ない」改変か否かの解釈において、「やむを得ない」か否かが「引用」との関連において判断されるという当然の点は別として、他の場合と異なる基準を設けなければならない理由はないのである。控訴人の主張は、採用することができない。
(略)
原カットは醜く描写されているために名誉感情を侵害するおそれがあり、カット45354においては、目隠しによって、名誉感情を侵害するおそれが低くなっていることが明らかであるから、右目隠しは、相当な方法というべきである。
<平成120425日東京高等裁判所[平成11()4783]>

被告らは,本件入れ墨の写真画像について,陰影を反転させ,かつ,セピア色の単色に変更させた点は,被告Xの大腿部に施された入れ墨をそのまま使用することが相当でない点を考慮すれば,著作権法2024号所定の「やむを得ない改変」に該当すると主張する。しかし,本件入れ墨を撮影した写真を書籍に掲載することがふさわしくない事情があるからといって,本件入れ墨を改変して,本件書籍に掲載することが,著作権法2024号所定の「やむをえない改変」に該当するとして,その掲載が許されるものではない。被告らの主張は採用の限りでない。
<平成240131日知的財産高等裁判所[平成23()10052]>

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