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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

言語著作物の侵害性②

【商品取扱説明書】

原告は,原告説明文は創作性を有する表現たる著作物であり,被告説明文は原告説明文を複製したものであって,原告の著作権に対する侵害が成立する旨主張する。
そこで検討するに,上記著作権侵害が認められるためには,まず,①原告説明文と被告説明文とで共通する表現部分について,創作性が認められなければならない。そして,原告説明文と被告説明文は,いずれも本件商品の取扱説明書における説明文であるところ,製品の取扱説明書としての性質上,当該製品の使用方法や使用上の注意事項等について消費者に告知すべき記載内容はある程度決まっており,その記載の仕方も含めて表現の選択の幅は限られている。これに対し,原告は,我が国においては,原告が初めて本件商品を販売した際,高い品質と安全性が求められる日本市場向けに幼児用首浮き輪の安全適切な使用方法等を分かりやすく理解させるための取扱説明書は存在していなかった旨指摘するけれども,そのような状況にあっても,本件商品の使用方法や使用上の注意事項等については,それ自体はアイデアであって表現ではなく,これを具体的に表現したものが一般の製品取扱説明書に普通に見られる表現方法・表現形式を採っている場合には創作性を認め難いといわざるを得ない。本件商品の取扱説明書において,幼児のどのような行動に着目した注意事項を記載しておくか,どのような文章で注意喚起を行うかといった点についても,選択肢の幅は限られているとみられる。
次に,原告説明文は,モントリー説明書の英語の説明文を日本語に翻訳した上でこれを修正して作成されたものであり,同説明文に依拠して作成されたものと認められる。二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないこと(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決〔ポパイ事件〕)に照らすと,上記①で創作性が認められる表現部分についても,②モントリー説明書の説明文と共通しその実質を同じくする部分には原告の著作権は生じ得ず,原告の著作権は原告説明文において新たに付与された創作的部分のみについて生じ得るものというべきである。そして,本件においては,上記①で原告説明文(日本語)と被告説明文(日本語)とで共通する表現部分について創作性が認められるとすれば,その理由は,もとより翻訳の仕方に関わるものではなく,英文か日本文かに関わらない表現内容等によるものと考えられるから,上記②では,モントリー説明書の英文を日本語に翻訳したその訳し方に創作性があったとしても,被告による原告の著作権侵害を基礎付ける理由にはなり得ず,表現内容等について原告説明文において新たに追加・変更された部分でなければ,上記「原告説明文において新たに付与された創作的部分」には当たらないというべきである。
また,原告説明文において本件ガイドラインと共通しその実質を同じくする部分についても,原告説明文がこれに依拠したと認められる場合には,上記②と同様,原告の著作権は生じないというべきである。
以上の見地に立って,被告説明文が著作物たる原告説明文を複製したものであって原告の著作権侵害が成立し得るかどうかについて,以下,個々的に検討する。
(原告説明文1と被告説明文1について)
原告説明文1と被告説明文1とは,「警告」及び「注意」の前に△の記号があるかどうか及び漢字と平仮名のいずれを遣うか(「ください」と「下さい」など)という相違点を除いて,同一である。
原告説明文1のうち,「【安全上の注意】 保護者の方へ、必ずお読みください。」,「必ず本ガイドを読んで大人の保護者の方が注意しながら正しくご使用ください。」,「警告 正しい取り扱いをしなければ、死亡または重傷を負うおそれがあります。」,「生後18ヶ月かつ体重11kg までの赤ちゃん専用です。」,「空気栓を確実に閉め、空気漏れがないか確認してください。」,「異常があればすぐに使用を中止してください。」,「救命用具として使用しないでください。」,「赤ちゃんの一人遊びは危険です。赤ちゃん一人での使用はしないでください。」,「必ず保護者の手が届く範囲でご使用ください。」,「本品は赤ちゃんが一人で使用することを想定したものではありません。」,「使用中は目を離さないようにして、異変があればすぐに保護者が対応出来る状況で使用してください。」,「注意 正しい取り扱いをしなければ、傷害を負ったり物的損傷を受けるおそれがあります。」,「空気を入れ過ぎたり、高圧ポンプなどを使用しないでください。破損の原因になります。」,「炎天下に放置しないでください。」,「本体が柔らかくなる場合があります。その場合は、空気の追加を控えるか、少量にしてください。」,「タバコや火気に近づけないでください。」という記載部分は,本件商品の取扱説明書において本件商品の用途や使用上の注意事項等を通常の仕方で表現したものであって,全く個性の発揮が見られないから,創作性は何ら認められない。
また,「強制」や「禁止」を示す記号の用い方についても,製品の取扱説明書においてありふれたものであるから,これについて創作性は認められない(なお,原告説明書における色分けは,原告説明文の創作性の根拠として主張されているものではないが,仮に,この点について検討したとしても,製品の取扱説明書においてありふれたものであるから,創作性は認められない。)。
他方で,原告は,「スイマーバにあごがのるようになってからご使用ください。」,「あごがスイマーバの穴から下にさがる状態で使用しないでください。」という記載部分について,使用する幼児の身体の部位の状態を具体的に表現したものである点で,本件商品の正しい装着方法を具体的にイメージさせる創意工夫が見て取れるから,創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,幼児の身体に装着する商品について,幼児の身体の部位の状態を具体的に表現すること自体は,ありふれたものといわざるを得ない。
また,モントリー説明書においても,本件商品の浮き輪の内側のどこかにあごを乗せて使用すること,バックル部分があごの下に来るように装着することが記載されていたことが認められ,幼児のあごと本件商品との位置関係に言及して説明すること自体は,原告説明文において新たに付与された部分とはいえない。
そして,これらを前提に,上記記載部分の表現ぶりに何か個性が発揮されているものとは認められない。
そうすると,上記記載部分について,創作性を認めることは困難であるし,少なくとも原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められない。
また,原告は,「赤ちゃんが足を伸ばしてちょうど底につく程度の水深で使用してください。」,「深い水深では、保護者の方が背がつく深さ、且つ手の届く範囲内でご使用ください。」,「浅い水深での使用は、赤ちゃんの転倒や溺水の危険があります。」という記載部分について,本件商品がこれまでにない新しい商品であることを考慮して,本来の本件商品を使用するための水深のみならず,深い水深,浅い水深での使用上における注意点をも順に明記することで,安全な本件商品の使用方法を容易にイメージさせる工夫を施しており,創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,幼児用浮き輪の使用方法を説明するに当たって水深について言及し,その際,本来想定している理想の水深のみならず,そうでない水深で使用した場合の注意点をも順に記載することは,特別な表現ではなく,ありふれたものといわざるを得ない。
また,モントリー説明書においても,(a)「安全のため,赤ちゃんの成長に合わせ,赤ちゃんが足を伸ばしてちょうど底に着くように水深を調整してください。」,(b)「赤ちゃんが浅い水深で腹這いにならないようにしてください。上記の適切な水深を保つようにすれば,このような事態は自然と避けられます。」との記載がされていたことが認められる。原告説明文では,上記(a)に「足を伸ばして」という文言を加えていること,上記(b)に転倒の危険性への言及を加えていること,「深い水深」の場合についても説明を加えている点が認められるが,これらの表現内容や表現方法に個性の発揮があるとは認められない。
そうすると,当該記載部分について,創作性を認めることは困難であるし,少なくとも原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められない。
さらに,原告は,「ハンドポンプの部品が、赤ちゃんの口や目に入らないように使用・保管してください。」という記載部分について,ハンドポンプの部品が小さいことに着目し,赤ちゃんの口や目に入る可能性を考慮したものであって,創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,そのような可能性を考慮したことは,アイデアであって,その表現ぶりに個性が発揮されているものと認められない以上,上記記載部分について創作性を認めることはできない。
加えて,原告は,(a)「空気を入れ過ぎたり、高圧ポンプなどを使用しないでください。破損の原因になります。」との記載に続いて,「外周部にシワが少し残るくらいが適量です。」という記載をしている部分について,「外周部にシワが少し残るくらい」という視覚的に分かりやすい表現を用いている点で,創作性が認められ,(b)「岩角やくい、砂利、貝殻、ガラス片、金属片、木片など、尖ったものとの接触は避けてください。」という記載部分について,具体例を挙げてイメージを想起しやすくしている点で,創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,空気入れビニールおもちゃに関する一般社団法人日本玩具協会によるガイドラインである本件ガイドラインにも,(a)使用上の注意として「空気の入れ過ぎは破損の原因になります。外周部にシワが少し残るくらいが適量です。」との記載,(b)禁止事項として「岩角やくい、砂利、貝殻、ガラス片、金属片、木片など、とがったものとの接触」との記載がされていたことが認められ,原告説明文の上記各記載部分は,これらと全く同一の記載文言を用いたものである。これに本件ガイドラインの性格や原告のアクセス可能性をも併せ考慮すると,原告説明文の上記記載部分は,本件ガイドラインの上記記載に依拠して作成されたものと推認される。
したがって,上記各記載部分が,原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められない。
以上によれば,被告説明文1が著作物たる原告説明文1を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。
<平成28727日東京地方裁判所[平成27()13258]>

【ゲームの利用規約】

前記の認定事実によれば,原告ゲーム及び被告ゲームの利用規約は,別紙「利用規約対比表」記載のとおり,会社名を除き,同一の文言であることが認められる。
しかし,一般的に,ゲームの利用規約は,法令や慣行により,形式及び内容が定型的なものとなり,その創作性が認められるのは,それにもかかわらず作成者の個性が発揮されたといえるような極めて限定された場合に限られると考えられる。しかして,弁論の全趣旨によれば,原告ゲームの利用規約は,LINEゲームの利用規約と相当程度に類似しているものであることが認められる。そして,原告ゲームと被告ゲームの利用規約に係る上記共通部分をみても,いずれも定型的なものの範囲にとどまっており,上記の限定された場合に当たるものとみられるものは存しない。そうすると,上記共通部分については,いずれも創作性が認められないものというほかなく,そのような点が共通するとしても,複製又は翻案に当たらない。
<令和3218日東京地方裁判所[平成30()28994]>

【同じテスト問題の解説】

控訴人は,本件解説と被告ライブ解説とは,本件問題の読解対象文章及び設問・選択肢の文章を前提としているということでは全く共通であるから,個々の文言にほとんど共通性がないからといって,表現の本質的特徴に同一性がないということにはならない旨主張する。しかしながら,読解対象文章及び設問・選択肢の文章を前提としていること自体からは,表現にわたらない内容の同一性がもたらされるにすぎないから,表現の本質的特徴の同一性の有無は,別途,文言等の共通性等を通じて判断されるべきものである。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
また,控訴人は,本件ライブ解説の個々の箇所について,本件解説との間で表現上の本質的特徴の同一性を有する旨主張する。しかしながら,本件解説と被告ライブ解説とがいずれも本件問題に対する解説であることに由来して内容の類似性・同一性はみられ,被告ライブ解説は,その内容については部分的に本件解説と本質的特徴を同一にするといえるものの,その表現については,控訴人の主張を踏まえて検討しても,本件解説と本質的特徴を同一にするとは認められない。したがって,控訴人の主張は採用することができない。
<令和元年1125日知的財産高等裁判所[令和1()10043]>

翻訳物】

複数の翻訳文が存在する場合、基にした原書が同一である限り、互いに他を複製したものでなくとも、内容や用語自体の多くが同一の表現となることは、むしろ当然ともいえるのであり、右の点に同一の部分があるからといつて、それだけで直ちに両者のどちらかが他を複製したものと認めることはできない(。)
<平成30227日東京地方裁判所[昭和59()11837]>

控訴人翻訳原稿と被控訴人の本件訳書とは、右両者の翻訳に対する基本的態度の根本的な相違を反映して、訳文の基本的構造、語調、語感を大きく異にしているものであり、かかる相違は、その基本的性格の故に、控訴人翻訳原稿に依拠したと推認される部分的訳語、訳文の存在を考慮しても、これによって何らの影響を受けるものではないことは、具体例の対比をみれば明らかというべきである。
してみると、本件訳書には、個々の訳語、訳文において、控訴人翻訳原稿に依拠したと推認するのが相当な部分があるとしても、訳書全体を対比するならば、右の依拠した部分は、両訳文間の基本的構造、語調、語感における大きな相違に埋没してしまう結果、本件訳書が控訴人翻訳原稿を全体として、内容及び形体において覚知せしめるものとまではいえない、といわざるを得ない。
<平成40924日東京高等裁判所[平成3()835]>

【会議運営のワークブック(レジュメ)】

原告ワークブックに係る著作権(複製権及び翻案権)の侵害の成否について
ア 著作権法は,著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号)をいい,複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいう旨規定していること(同項15号)からすると,著作物の複製(同法21条)とは,当該著作物に依拠して,その創作的表現を有形的に再製する行為をいうものと解される。
また,著作物の翻案(同法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴である創作的表現の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。
そうすると,被告レジュメが原告ワークブックに係る著作物を複製又は翻案したものに当たるというためには,原告ワークブックと被告レジュメとの間で表現が共通し,その表現が創作性のある表現であること,すなわち,創作的表現が共通することが必要であるものと解するのが相当である。

一方で,原告ワークブックと被告レジュメにおいて,アイデアなど表現それ自体ではない部分が共通するにすぎない場合や共通する表現がありふれた表現である場合には,被告レジュメが原告ワークブックを複製又は翻案したものに当たらないと解される。
(略)
() 原告記述部分1ないし24及び被告記述部分1ないし24に係る複製又は翻案について
a 原告記述部分1ないし5と被告記述部分1ないし5について
(a) 原判決別紙2レジュメ対比表の番号1ないし5のとおり,原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは,それぞれ,会議において,会議での約束事として,そのまま「やってみる」こと(番号1),「携帯」電話を切っておくこと(番号2),「問題」を見つけたら,「問題を指摘する」のではなく,「解決策を提示する」こと(番号3),「わかりません」という回答はしないこと(番号4),「発言」は,「短く」,「簡潔に」,「直接的な表現で」行うこと(番号5)を内容とする記述である点で共通する。
しかしながら,原告記述部分1は「まずは本書の手順どおりそのままやってみる。」であるのに対し,被告記述部分1は「とりあえず身を預けてやってみる。」,原告記述部分3は「問題を見つけたら問題を指摘するのではなく,解決できる人に解決策を提示する(自分自身かもしれない)。」であるのに対し,被告記述部分3は「問題を発見したとき,解決策を提示する。問題を指摘するだけは無し」,原告記述部分4は「このワークブックが質問してくる質問に「わかりません」という回答はなし。」であるのに対し,被告記述部分4は「侍会議中,「わかりません」「ありません」という答えは無しでやってみる」,原告記述部分5は「発言は3Sにやる。(スリーエス:Short短く,Simple 簡潔に,Straight 直接的な表現で)」であるのに対し,被告記述部分5は「発言は短く,簡潔に,直接的な表現でやる。」であり,具体的記述における表現は異なり,共通性は認められない。
そうすると,被告記述部分1ないし5と原告記述部分1ないし5は,会議の約束事を説明した記述であるという点において共通しているものの,その共通する部分は,会議における約束事をどのように取り決めるかというアイデアであって,表現それ自体ではない。
(略)
b 原告記述部分6と被告記述部分6について
(a) 原判決別紙2レジュメ対比表の番号6のとおり,原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは,会議の参加者が,「チームとして」,「問題を共有」し,「役割」を作り,参加者を「満足させるため」の「計画」と「情熱」を得ることを内容とする記述である点で共通する。
しかしながら,上記共通する部分は,全体として,会議によって達成すべき目的としての獲得すべき成果及びその成果を獲得するための手段に係るアイデアそのものであって,表現それ自体ではない。
また,原告記述部分6は,第1文で成果を獲得するための手段として,「このメンバーがハイパフォーマンスなマネジメントチームとして,問題を共有し,共通の目標をつくり,役割分担とコミットメントを作成する。」と記述した上で,第2文で獲得すべき成果として,「これにより,ステークホルダーとこのメンバーを満足させるための目標と計画と情熱を手に入れる。」と記述したものであり,「チームとして」,「問題を共有」,「共通の」,「役割」,「満足させるため」,「情熱」といった関連性を認めやすい平易な語を一般的な順序で組み合わせたにすぎないものであって,ありふれたものである(例えば,書籍では,「チーム」による意思決定の進め方の手順として,課題を「共有」すること,統合的「目標」を設定して「満足」度最大の案を採るなどの記述が存在し,上記の語の組合せはありふれたものである。)。第1文及び第2文の構成も,手段から成果につなげるという,通常用いられるありふれたものにすぎないから,創作性があるとはいえない。そうすると,原告記述部分6中の「問題を共有し,共通の目標をつくり,役割分担とコミットメントを作成」し,「満足させるための目標と計画と情熱を手に入れる。」との表現部分と,被告記述部分6中の「問題を共有,共通の志を作成し,志を成すための役割と担当及びアクションプランをつくりあげ」,「満足させるために,成長し続ける仕組・計画を手に入れ団結と情熱…を生み出す。」との表現部分は,創作的表現が共通するとはいえない。
(略)
() 原告ワークブック全体の構成と被告レジュメ全体の構成について
a 原判決別紙2レジュメ対比表のとおり,原告ワークブック全体の構成と被告レジュメ全体の構成とは,①会議の約束事と目的の確認(番号1ないし6),②手に入れたい成果の確認(番号7),③今日までに達成されたことの確認(番号8),④問題や懸念の洗い出し(番号9ないし13),⑤戦略的フォーカス作成(目標設定)(番号14ないし16),⑥役割の明確化(目標達成のための道のり,担当と責任の明確化)(番号17ないし19),⑦アクションプラン(コミットメント)の策定(番号20ないし22),⑧問題解決(番号23及び24)という項目が選択され,それらの項目がおおむね同じ順序で配列されているという点で共通する。
しかしながら,上記共通する部分は,会議において,どのような項目を,どのような順序で行うかというアイデアそのものあって,表現それ自体ではないというべきである。
b 控訴人会社は,①原告ワークブック全体の構成と被告レジュメ全体の構成の共通性が認められる部分が表現であることを前提に,当該部分は,統一的なテーマの下に,多様な内容を,要領よく取捨選択し,配列し,わかりやすい表現,印象に残る表現を選択するなど,多くの点で表現上の創意工夫がされており,そのワークブックないしレジュメに基づき会議の進行役を務めることができるように,表現方式に関して多様な選択肢がある中で,抽象的なノウハウを創意工夫をして表現したものとなっており,独自性があり,個性が発揮されているから,創作性がある,②原告ワークブックは,会議の進め方についてのノウハウを記載した機能的著作物としての側面もあるものの,単に会議をうまく進めるためのポイントやコツを列挙して解説するものというより,むしろ,一種の読み物として,ストーリー性をもって構成されているので,誰が書いてもそのような文章や構成としてしか表現できないようなものではなく,いわば小説のように個性の流出度は高いものであるから,表現上の創作性があり,原告ワークブック全体と被告レジュメ全体は,創作的表現が共通する旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,原告ワークブック全体の構成と被告レジュメ全体の構成の共通性が認められる部分は,会議において,どのような項目を,どのような順序で行うかというアイデアそのものあって,表現それ自体ではない。
また,前記認定のとおり,原告記述部分と被告記述部分が共通する部分は,表現それ自体ではないか,又は表現上の創作性がない部分であるのみなならず,上記各記述部分全体を対比しても,創作的表現が共通するものと認めることはできない。
したがって,控訴人会社の上記主張は採用することができない。
c 以上によれば,被告レジュメ全体の構成は,原告ワークブック全体の構成を複製又は翻案したものに当たるものと認めることはできない。
ウ 以上によれば,被告レジュメは原告ワークブックを複製又は翻案したものに当たるとの控訴人会社の前記主張は,理由がない。
<令和31027日知的財産高等裁判所[令和3()10048]>

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