しかるに,1審被告△△は,1審被告○○の編集に係る被告漫画の掲載された各本件雑誌を発行する際,1審被告○○に対して編集の経緯について確認せず,また,自ら,被告漫画から窺われるワードや風俗記事や漫画と一般的に関連するワード等を用いて,インターネット検索を行うなどすることもなかったのであるから,上記注意義務を怠ったものといわざるを得ない。
したがって,1審被告△△には,1審原告の原告記事に係る著作権侵害につき,過失が認められる。
<平成27年5月21日知的財産高等裁判所[平成26(ネ)10003]>
【ウェブ上に展示会出品者(服役中の者)の氏名を表示した者】
■控訴人【注:ギャラリー経営者】が自らウェブサイトに本件展示会の出品者,すなわち獄中者としての被控訴人の氏名の表示を含む本件展示会の宣伝を投稿した点は,被控訴人のプライバシー侵害に当たり,控訴人は少なくともこの点について過失による不法行為責任を免れない。ある者が服役中であるという事実は,その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であり,その者は当該事実を公表されないことにつき,法的保護に値する利益を有するものというべきであるから,受刑者であることを実名をもって表示するに当たっては,あらかじめ本人(被控訴人)の承諾があるか否かを慎重に確認する必要があり,これを怠った以上は過失があったことを否定できないというべきである。
(略)
控訴人は,本件展示会の主催者が救援センターであって控訴人ではないこと,本件展示会の出品者と救援センターとの関係,控訴人の本件展示会への関与の経緯等からして,(受刑者であるとの情報を実名でインターネット上に公表することにつき)被控訴人本人の承諾の有無に関して救援センター等に確認していなかったとしても,控訴人に過失がないことは明らかである,などと主張する。
しかしながら,ある者が服役中であるという事実は,その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であり,その者は当該事実を公表されないことにつき,法的保護に値する利益を有するものというべきであるから,自らの判断で受刑者であることを実名をもって表示する(そのような投稿を行う)以上,本人である被控訴人の承諾があるか否かを確認する義務があることは当然である。したがって,これを怠った以上,控訴人は過失責任を免れない。
<平成29年6月14日知的財産高等裁判所[平成29(ネ)10006]>
【著作権フリーを信用して店舗にBGM利用した事例】
■被告は,本件各楽曲の一部の楽曲について,第三者サイト上で著作権が消滅したことを表す本件マークが付されていることを理由に,本件各楽曲が原告の管理楽曲であることを争っている【注:被告は,「本件各楽曲が,原告の管理楽曲であることは,否認する」としつつ,「本件各楽曲の一部について,Eのウェブサイト(「第三者サイト」)上では,著作権行使の対象とはならない旨を表すマーク(パブリックドメイン又はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのマーク。以下「本件マーク」)が付されている。また,本件各楽曲の一部の楽曲がアップロードされてインターネットで全世界に配布されているにもかかわらず,数年間にわたり著作権管理団体から差止めを受けていないことなどからすると,本件各楽曲が原告の管理楽曲であることは疑わしい」と主張した】。そこで,以下,第三者サイトにおける本件マークの信用性について検討する。
第三者サイトは,米国の非営利団体が,音楽等のデータを蓄積し,世界中の人がこれを利用できるようにすることを目的に作成されたデジタルライブラリであるところ,同サイトには,「当サイトのコレクションに投稿されている素材の著作権に関して,厳格な保証を与えることはできません。」,「著作権その他の知的所有権に関するコレクション・ページについて,投稿されている情報を保証することはできません。」との記載や,「適切な状況において自由裁量により,他者の著作権又はその他の知的所有権の侵害が疑われるコンテンツを削除,又はコンテンツへのアクセスを遮断することができます。」との記載がある。すなわち,第三者サイト上に本件マークが付されているとしても,同サイトを運営する非営利団体が,著作権が消滅し,いわゆるパブリックドメインに属するものであることを,厳密に保証するものではない。
また,第三者サイトは,アカウント登録を行えば誰でも楽曲をアップロードすることができ,その際にアップロードした者が本件マークを付する旨の選択を行えば,楽曲に本件マークが付されることとなるものであるから,本件マークは,当該楽曲の著作権の消滅の有無を確認することなしに,付される可能性があるものである。
さらに,我が国の著作権は,著作者が死亡した日の属する年の翌年から起算して50年を経過するまでの間存続するとされるが(著作権法51条2項,57条),我が国が太平洋戦争中に連合国民の著作権を保護しなかったことに対する代償措置として,連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律により,いわゆる戦時加算が定められており,戦争当時に米国民が有していた著作権については,その保護期間が3794日(約10年5か月)延長されることから,著作者の死亡から50年が経過した楽曲であっても,我が国においては,著作権の保護期間はなお満了していない場合があることになる。
被告は,本件各楽曲の一部に,第三者サイト上で本件マークが付されているものがあるとして,本件各楽曲には原告が著作権の管理を委託されていない楽曲が含まれており,信用できないと主張するが,上記検討したところによれば,むしろ被告の主張に理由がないといわざるを得ず,本件各楽曲は,原告の管理楽曲であると認めるのが相当である。
(略)
上記のとおり,第三者サイトにアップロードされている楽曲が,著作権行使の対象でないことの明確な保証はなく,第三者サイトにもその旨明記されているにもかかわらず,被告は,原告のウェブサイト等によって本件店舗のBGMとして利用する楽曲の著作権について調査しないまま,本件店舗のBGMとして,原告の管理楽曲を利用したのであるから,被告には,平成26年5月以降,原告の管理する著作権を侵害したことについて,過失があるというべきである。
被告は,被告が利用していた楽曲の著作権の管理状況等について,原告に説明を求めたにもかかわらず,原告から何の説明もなかったとして,被告には過失がない旨を主張するが,前記の事実経過に照らし,被告の上記主張を認めることは困難というべきであるし,店舗で楽曲をBGMとして再生する以上,自ら権利関係については調査をしなければならないのであって,仮に原告の説明に不十分な点があったとしても,被告は過失を免れるものではない。
<平成30年3月19日札幌地方裁判所[ 平成29(ワ)1272]>
【外国映画の配給会社】
■当裁判所は,外国映画の配給会社が,複製しようとする映画に使用されている楽曲等の権利処理が完了していないのではないかと合理的に疑わせる事情もないのに,当該映画を複製するに先立って,当該映画に使用されている楽曲等の権利処理が完了しているか否かを確認する注意義務を負うとは認められないものの,本件の事情に照らせば,本件音源の権利処理が完了していないのではないかということを合理的に疑わせる事情が存し,被告は,そのような事態を十分予見することができたのであるから,上記疑いを合理的に払拭できるまで調査,確認を尽くし,その疑いが払拭できないのであれば本件音源の複製を差し控えるべき注意義務を負っていたにもかかわらず,上記注意義務を怠ったという過失があると判断した。以下,詳述する。
(略)
一般に映画は音楽を初め多数の著作物等を総合して成り立つことから,それらの著作物等の権利者からの許諾については,映画製作会社において適正に処理するのが通常である。また,外国映画の配給会社に,その著作物等の一つ一つについて,本国の映画製作会社が権利者から許諾を受けているか否かを確認させることは,多大なコストと手間を必要とし外国映画の配給自体を困難にさせかねないこととなる。このことからすると,外国映画の配給会社において,配給のために映画を複製する場合に必ずこれに先立って,当該映画に使用されている楽曲等に関する権利処理が完了しているか否かを確認するという一般的な注意義務を課すのは相当ではないというべきである。一般社団法人外国映画輸入配給協会の会長の陳述書において,外国映画の配給業界においては,外国映画における音楽原盤(レコード製作者)の権利処理については,本国の映画製作者等において権利処理済みであるということを前提とし,改めて権利処理の有無等を確認しないという実務慣行が確立しているとされていることは,この意味で肯認することができる。これに反する原告の主張は採用できない。
もっとも,本国の映画製作会社等が,ある楽曲の音源のレコード製作者の権利を有する者から適正な許諾を受けていないのではないかということを合理的に疑わせる特段の事情が存在する場合には,映画を複製することにより当該音源のレコード製作者の権利を侵害するという事態を具体的なものとして予見することが可能であるから,その場合には,これを打ち消すに足るだけの調査,確認義務を負う上,調査,確認を尽くしても上記疑いを払拭できないのであれば,当該音源を使用した当該映画の複製を差し控えるべき注意義務を負うと解するのが相当である。
この点について,被告は,外国映画の配給会社にはおよそ当該映画に使用されている楽曲の音源に関する権利処理に関する調査,確認義務を負わせるべきではないとの主張をする趣旨にも思われる。しかし,本国の映画製作者等がレコード製作者の権利を有する者から適正な許諾を受けていないのではないかということを合理的に疑わせる事情に接した場合に,そのような疑問が払拭されないまま映画の複製を行うことは,レコード製作者の権利を侵害する可能性が高いのであるから,そのような場合にまで調査確認義務を負わないと解することは,前記のような外国映画の配給における業界の実情を前提としても相当でないというべきであり,被告の主張は採用できない。
<平成30年4月19日大阪地方裁判所[平成29(ワ)781]>
【芸能レポーター・放送局】
■被告Bはいわゆる芸能リポーターを業とし,被告讀賣テレビは基幹放送事業を業とするものであるから,被告らは,放送番組中において楽曲を再生し放送する場合には著作権や著作者人格権の侵害がないように十分注意すべき高度の注意義務を負っているというべきところ,原告が本件楽曲を公衆送信及び公表することを黙示に許諾したとは認められないにもかかわらず,その認識を欠いて本件楽曲を公衆送信及び公表することが許されると誤信した点などにおいて,少なくとも過失があったと認められる。
<平成30年12月11日東京地方裁判所[平成29(ワ)27374]>
【加工食品製造販売業者】
■被告らは,いずれも加工食品の製造及び販売等を業とする株式会社であり,業として,被告商品を販売していたのであるから,その製造を第三者に委託していたとしても,補助参加人等に対して被告イラストの作成経過を確認するなどして他人のイラストに依拠していないかを確認すべき注意義務を負っていたと認めるのが相当である。
また,本件イラストと被告イラストの同一性の程度が非常に高いものであったことからしても,被告らが上記のような確認をしていれば,著作権及び著作者人格権の侵害を回避することは十分に可能であったと考えられる。にもかかわらず,被告らは,上記のような確認を怠ったものであるから,上記の注意義務違反が認められる。
<平成31年3月13日東京地方裁判所[平成30(ワ)27253]>
【Tシャツ製造販売業者】
■被告はイラストをTシャツ等に付して製造販売する業者であるから,自らが製造販売するTシャツ等に付されるイラストが他人の著作権等を侵害するものでないかを調査・確認する義務を負っているというべきである。
そして,被告は自らインターネットを利用して猫に関するデザインを収集しており,被告が被告デザイナーから各被告イラストの提供を受け,被告商品の製造を開始した時点では,既に原告イラストが付されたTシャツはTシャツ販売サイトで販売されており,被告がこれを見付けることが困難であったとの事情は認められないから,少なくとも被告には過失があったと認められる。
<平成31年4月18日大阪地方裁判所[平成28(ワ)8552]>
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