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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

損害額の推定等②

【法1143項の意義と解釈】

1142項【注:現3項。以下同じ】の規定によれば、著作隣接権者は、「損害の発生」については主張立証する必要はなく、「権利侵害の事実」と、「その著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」とを主張立証すれば足りる。他方、侵害者は、「損害の発生があり得ないこと」を抗弁として主張立証すれば、損害賠償の責めを免れ得るものと解される。法1142項は、同条1項【注:現2項】とともに、不法行為に基づく損害賠償請求において損害に関する被害者の主張立証責任を軽減する趣旨の規定であって、損害の発生していないことが明らかな場合にまで侵害者に損害賠償義務があるとすることは、不法行為法の基本的枠組みを超えるものというほかないからである(最判平成9311日参照)。
<平成141017日東京高等裁判所[平成11()3239]>

著作権法1143項の規定は,利益の有無にかかわらず【注:侵害者が当該侵害行為により全く利益を得ていない場合であっても】損害額として請求できるものであ(る。)
<平成240509日知的財産高等裁判所[平成24()10013]>

著作権法1143項に基づく使用料相当損害金の算定において,侵害者が利益を得ているか否かを斟酌する必要はない(。)
<平成160531日東京地方裁判所[平成14()26832]>

1142項の規定は、著作隣接権者が侵害者に対し、その著作隣接権の行使について受けるべき金銭として客観的に相当であると認められる額を、著作隣接権者が受けた最小限の損害額として認めたものである(法1143項【注:現4項】参照)。したがって、この使用料相当額を定めるに当たっては、侵害当時における正規の取引相手との間の許諾契約の例など正常な取引実務のみを考慮するのは相当ではなく、過去の許諾例、業界の使用料規定、業界の相場等のほか、当該著作物ないし著作隣接権の対象となる実演の創作的な価値、経済的な価値、権利者と侵害者との関係、権利者の営業政策、当該侵害行為の態様、侵害行為が業界に及ぼした影響等の個別事情を十分に斟酌して、これらの事情を総合考慮して、客観的に相当と認められる額を算定するが相当であり、平成12年法律第56号による改正の趣旨は、このことを明確にするものである。
<平成141017日東京高等裁判所[平成11()3239]>

改正法が「通常」の文言を削除した趣旨については,改正前の著作権法1142項【注:現3項】所定の「通常受けるべき金銭」を算定するに当たって既存の利用許諾契約における利用料率が参酌されたことに起因する問題点,すなわち,侵害者が適法に利用許諾を受けた者と同額を賠償すれば足りるという,いわゆる「侵害し得」の結果を生ずることを回避するため,「通常」の文言を削ることにより,当該事案の具体的事情を考慮した適正な利用料が認定されることを図ったものと解される(東京高裁平成1496日判決参照)。著作権利用許諾契約における一般的な利用料率がおおむね10%程度であることは,当裁判所に顕著な事実であり,また,著作権侵害訴訟における損害額の算定においては,上記契約により合意される利用料率より高率の利用料率に基づく金銭の額を認定しなければ,適法に著作権利用許諾を受けた者と違法に著作権を侵害した者との間に上記「侵害し得」の結果を生ずるから,これを回避することを目的とする改正法の趣旨に本件事案の諸般の事情を総合考慮すると,本件における被控訴人の「受けるべき金銭の額に相当する額」は,本件書籍の販売価格に上記寄与度及び利用料率15%を乗じた額と認めるのが相当である。
<平成150718日東京高等裁判所[平成14()3136]>

改正前の著作権法1142項【注:現3項】から「通常」の文言が削除された趣旨は,既存の使用料の相場等に拘束されることなく,当事者間の具体的な事情を参酌した妥当な損害額の認定を可能にすることにある。
<平成160531日東京地方裁判所[平成14()26832]>

著作権法1143項の「受けるべき金銭の額」は,著作権を侵害された者に対して最低限の賠償を保障する性質のものであって,著作権者が自ら著作物の商業的利用を予定しているか否かにかかわらず,当該著作物の使用について許諾をするとした場合の客観的に妥当な額を損害として認める趣旨のものと解されるから,商業的利用を予定していなかったから損害の発生がないということはできない。
<平成161129日東京高等裁判所[平成15()1464]>

1143項に規定する「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」とは,損害賠償額として適正な使用料相当額をいい,過去における著作物の使用料や業界における著作物の利用に関する料金の相場そのものではなく,それらを参考としつつ,その実質が不法行為に基づく損害賠償であることを考慮して,同料金額にとらわれることなく裁判所が適正な使用料相当額を認定するものである。
<平成231031日知的財産高等裁判所[平成23()10020]>

1143項は,著作権者等が最低限の賠償額として使用料相当額(逸失利益)を請求することができる旨を定めたものであり,その額については,当該事案における個別具体的な事情をしん酌して適切な金額を認定するのが相当である。
<平成28623日知的財産高等裁判所[平成28()10026]>

著作権法114条3項に基づく損害を算定する基礎となる譲渡数量に,被告が販売店から返品を受けた商品の数を含むべきか,換言すれば,使用料率を乗じる売上額から返品分に係る売上額を控除すべきかについて,当事者間に争いがある。
しかし,被告は返品を受けた被告商品を含めて製造し,その時点で原告イラストについての原告の複製権又は翻案権の侵害が発生し,それを販売店に販売することによって一旦売上げが計上されたのであるから,被告が製造し,販売店に販売した被告商品の数をもって上記譲渡数量と認めるのが相当であり,返品を受けた商品の数(売上げ)を控除すべき旨の被告の主張は採用することができない。
(略)
著作権法114条3項の著作権の行使につき受けるべき金銭の額を算定するに当たっては,特段の事情のない限り,販売店に対する卸売価格ではなく,販売店における小売価格を基準とするのが相当であるが,その場合においても,被告が当初販売店に卸売りした際に予定していた価格(定価,標準価格)に固定するのではなく,被告商品においては,季節の変わり目に被告商品を値下げして販売することもやむを得ないと解されるから,販売店が値下げして販売した場合には,その値下げ後の価格をもとに算定するのが相当である。
<平成31418日大阪地方裁判所[平成28()8552]>

著作権法114条3項は,「著作権者…は,故意又は過失によりその著作権…を侵害した者に対し,その著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として,その賠償を請求することができる。」旨規定し,使用料相当額の請求を認めるところ,これは,民法709条,著作権法114条1項及び2項の主張立証が困難な場合であっても,著作権者に最低限の損害賠償を保証する趣旨であると解されている。
著作権の許諾は,多くの場合,特許権の実施許諾契約の場合に見られるように,実施権者が,自らの製品の一部に当該特許発明を用いて製造するといった態様ではなく,許諾を受けた者が,当該著作物をそのままの形で使用する態様が採られ,他の著作物による代替も予定されていない。また,本件のような著名な芸術家による高価な芸術作品の複製に関する許諾の場合には,大量の複製品の製造及び流通は通常予定されておらず,許諾を受けた者が制作する複製品の品質の評価が,著作者である芸術家の評価に直接影響することから,許諾に際し,慎重な選考が行われたり,複製品の製造数量が限定されたり,複製品の価格設定を著作権者が行ったり,比較的高い料率が設定されたりすることが考えられる。
そうすると,このような場合において,「その著作権…の行使につき受けるべき金銭の額」,すなわち許諾料相当額は,相手方又は第三者との間における当該著作権に係る許諾契約における許諾料や,その算定において用いられた事情,あるいは業界慣行等一般的相場を基礎として,著作物の種類及び性質や,当該著作権の許諾を受けた者において想定される著作物の利用方法等を考慮し,個別具体的に合理的な許諾料の額を定めるべきである。
<令和2114日大阪地方裁判所[平成30()7538]>

【独占的利用権侵害に対する法1143項の類推適用】

原告会社が有する本件写真の著作権の独占的利用権が法的保護に値するものであることは,前記のとおりであり,同原告は,被告に対して,当該独占的利用権の侵害による損害賠償請求をし得るというべきところ,同原告が,事実上,本件写真の複製物を販売することによる利益を独占的に享受し得る地位にあり,その限りで,著作物を複製する権利を専有する著作権者と同様の立場にあることに照らせば,同原告の損害額の算定に当たり,著作権法114条3項を類推適用することができると解するのが相当である。
<平成27415日東京地方裁判所[平成26()24391]>

【懲罰的賠償請求の可否】

控訴人は、財産的損害及び精神的損害とは別個に、被控訴人に対し、懲罰的損害の賠償を請求しているが、我が国の法制度においては、民事責任と刑事責任とが峻別されており、民事責任は現実に生じた損害の填補を目的とするものに限られていて、懲罰的損害賠償請求なるものは認められていないから、控訴人の右請求は理由がない。
<昭和601114日東京高等裁判所[昭和59()1446]>

我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防を目的とするものではない。したがって,不法行為の当事者間において,被害者が加害者から,実際に生じた損害の賠償に加えて,制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは,我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものである(最高裁平成9711日第二小法廷判決参照)。
<平成150718日東京地方裁判所[平成14()27910]>

我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止を目的とするものでないから、著作権侵害について、使用料相当額の賠償によって、被害者が被った不利益を補填し、不法行為がなかったときの状態に回復させることができるならば、それを超える金額の賠償は、認められないというべきである。
<平成170331日大阪地方裁判所[平成15()12075]>

原告は,無断で複製ないし翻案したときは使用料の3倍の金額をペナルティ料として請求しており,これに倣って損害賠償額が算定されるべきであると主張する。しかし,我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の不利益を塡補して,不法行為がなかった時の状態に回復させることを目的とするものであり,加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止を目的とするものではない。著作権侵害については,使用料相当額の賠償によって,被害者が被った不利益を塡補し,不法行為がなかったときの状態に回復させることができるから,それを超える金額の賠償は認められないのであって,原告の上記主張は採用することができない。
<平成27225日東京地方裁判所[平成25()15362]>

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