2日目 ジャスパー市内観光と軽いトレイル
By Wats
体は疲れているのに午前3時頃から何度も目が覚める。6時半におきてバルコニーに出てみた。ウィスラー山のゴンドラの停車場が見える。もちろんこのときはそんな山の名前は知らなかった。朝食は機内食のあまりのパンとジュースで済ませる。初日からハードなスケジュールを組むのは禁物だ。オーストラリアのパースへ行ったときにいたい目を見ている。8時頃起きてきた妻と相談して今日は軽いトレッキングとジャスパーの街の中の見学をすることにした。
ジャスパーの繁華街は30〜40分で歩いて回れる。バンフよりふたまわりほど小さな街だ。めぼしい土産物店に目を付けておいて、パスタの店に入って昼食を済ませた。私は80点妻は60点をつけた。
駅の近くにはインフォメーションがある。そこで地図を買って、トレイルコースの案内ももらった。それを見ながら今日はOld
Fort point周辺を歩いてみることにした。車でアサバスカ川をこえてパーキングに駐車するとラフティングを終えた年輩の観光客が集まっていた。私たちもラフティングをするつもりだったので、どんな様子かのぞき込んでみると一番楽な初級コースらしい。
ここのトレイルはループになっているので、どこからでもいいと思いとりあえず木で作られた階段を上って展望の良いところに出てみた。
アサバスカの濁流が大きな州で分かれている。その州の中に小さな動くものがいる。エルクが午後の暑い日射しを避けながら木陰で草を食んでいる。
少々疲れているのでゆっくりと歩き出した。リスの動きをじっと見てみたり少しずつ変化する景色を眺めながら徐々にトレイルを登った。30分ほどで最も眺めの良い場所に出た。ここがOld
Fort pointだろう。ジャスパーの街全体がよく見える。足下には深い針葉樹の森が広がる。そしてその森の中に小さな湖がありアサバスカ川が静かに蛇行している。そして街や森を取り囲むように、ウィスラーやピラミッドなどの険しい山がそびえる。「カナダに来たんだ」と静かにつぶやいた。
大した距離ではないと思っていたOld Fort
pointのトレイルだが、長旅の疲れ(というよりも時差ボケ)のせいでからだが重い。それでもカナダに来たんだという感激を動力源に何とか歩き続けると、すれ違いざまに挨拶をした50前後のカップルの男性の方が「50メートル先にブラックベアーがいるぞー」と興奮気味に話す。わたしも内心は興奮して実は走り出したいくらい(もちろん熊の方へ)だったが、表面上は冷静を装い、「あぶなそう?」などと熊の危険性を知ったかぶりしてみた。おじさんは、「そんなことはわしゃ知らん。とにかくいい写真が撮れてラッキーだったわい」と言っている。もう一人の女性が、「気をつけて」とまともなことを言った。
足を忍ばせながら前に進んでいったが、考えてみるとこんな事は全くセオリーに反している。だいたいトレイルを歩くときはなんとか熊に近づいてもらわないようにいろいろ工夫するのだ。鈴を鳴らしたり会話をしたりして、人間の存在を知らせる。するとだいたい熊の方で人間を避けていってくれるものだ。それに考えてみると私たち自身が、「もし熊にあったらどうするか」などというノウハウをあっちこっちで調べているのだ。それがいざ熊がいると聞くといても立ってもいられないくらい熊が見たくてしょうがない。それでもし熊がこっちに向かってきたらどうするなんて事は全然考えてないのである。しかし運良く(悪く?)熊さんはもう退散したあとで影も形もなかった。ただトレイルの真ん中に確かに熊がいたという証拠として大きな足跡がくっきりと残っていたのであった。
ただ私の頭の中にはこんなデータがある。今世紀に入ってアラスカで熊に殺された人は20人程度である。これは犬によって殺された人よりもはるかに少ない。つまり飛行機に乗る方が車に乗るより安全だというのと同じ論理なのである。