4日目 今日は動物三昧だ。 by Mik

マリーン湖クルーズと周辺のトレッキング

 
 朝8時頃ホテルを出発。今日の目的地はガイドブックに必ず載っているスピリットアイランドのあるマリーン湖だ。空を見上げると、どうも天気は今ひとつ。そういえば夜中に雨が降っていたなあ、などと思いながら車を走らせる。しかし、しだいに空は明るさを見せ始め、青空ものぞくようになってきた。いいぞ、この調子だ。心は空の色が濃くなるのとともに浮き立っていく。車はマリーン・レイク・ロードに入り、快調に走っていく。
 マリーン・キャニオンの看板を過ぎて少し経ったその時、「あっ、熊」と運転するWatsの声。「へ?またまた熊なの?」と私。(すごい。ジャスパーはすごい。そこいらじゅうを熊が徘徊しているのか。)見ると、ほんとに熊が前方20メートルくらいのところを左から右へ横断していく。こともなげに車道を横断していくのだ。のそのそのそ、と。こんなところで熊にお目にかかれるとは思っていなかったのでこの瞬間から車内は慌ただしくなる。「カメラ、カメラ」「ビデオ、ビデオ」と二人はわめきながら撮影準備をするのだ。道路を横断し終わって右側の道路沿いを草をむしゃむしゃ食べながら歩く熊にやっとレンズを向ける。すごいなあ、やっぱりすごいよ。ジャズパーに来てからほとんど連日熊を見ているんだもの。今日は朝早かったのもよかったのだろう。撮りながら「動物観察は夕方か朝早いのがやっぱりいいね」とWatsと確認し会った。

 後でいろいろなものを読んでみると、このマリーン・レイク・ロード沿いではよくブラックベアが見られるとあった。なるほど、そうだったのか。私たちの動物探索計画は綿密なようで実はあまり綿密ではない。ある程度の情報は持ってはいるのだが、意外に重要な情報を見逃したりしていることも多いので、このマリーン・レイク・ロードのことも、実は様々な野生動物と遭遇するチャンスの多いエリアであるにもかかわらず、単なるマリーン湖へ至る道路という認識以上のことを持っていなかったのだ。私たち二人は結構下調べした割にはヌケているのだ。
 熊の朝食風景も無事カメラに収められたので、さあ、再びマリーン湖に向けて出発。少し走ると前方に車が何台も止まっている。まさか、またもや熊ではあるまいな、と思いつつ、近づくと茶色くて大きな胴体が木々の間でちらりと見え隠れする。「ヘラ鹿だ」とWats。ヘラ鹿ってムースのことだっけ。カメラを向けて撮ろうと試みるが、樹に邪魔されて全体像はほとんどはっきりしない。茶色っぽいお尻が一瞬見えたが、その後すぐに林の奥深く入って見えなくなってしまった。ホントにムースだったのかさえ、私には確認できかねた。しかし、Watsは「今のはヘラ鹿の雌だよ」と断言している。もう少し早くこの地点に来ていればひょっとしたら全体の姿が見られたかも。ムースは遭遇の可能性が薄そうだ。さっき樹間にかいま見た姿が最初で最後と言うこともありうるかも・・・、と残念な気持ちを抱きながらムースの姿を包み込んだ林を後にした。後日雌のムースと感動的な出会いをすることになろうとはこの時の二人は知る由もない。
ムース(ヘラジカ)
Moose

 マリーン湖へ着いたのは11時過ぎ。12時のクルーズのチケットを買い、待つ間湖付近をうろうろしているミュールの写真を撮りながら、何種類もの野生動物を懐に抱くジャスパーの大自然の豊かさをかみしめた。
 マリーン湖のクルーズは大人一人32ドル(税込み)。1時間半のクルーズとしては何だか高いな、と思いながらボートに乗り込んだ。湖面に颯爽と白くきらめく波立ちを残しながら、細長ーい湖を奥へ奥へと進んでいった。ガイドさんとボートの操縦士はともに女性。しかも高校出たてくらいではないかと思われるような可愛らしい女の子たちなのだ。そういえば、コロンビア・アイスフィールドへ行ったときも、あの馬鹿でかいタイヤのついた雪上車を運転していたのはうら若き女性だった。カナダは女性の進出がさかんだ、と思った。若いガイドは相変わらずさわやかで明るい説明を続けている。肝心の内容は英語の早さについていけなくてほとんどわからなかったのだけど。
Maligne Lake
Maligne Lake

 ガイドブックによると、マリーン湖は奥へ進むにつれ次第にその水の色を変えていく美しい湖なのだそうだ(正直に言うとあまり意識していなかったが)。しだいに深くなるエメラルド色の湖面と、湖を取り囲む雪と氷河を頂く山々と、夏のさわやかな青空とが素晴らしいクルーズに盛り上げてくれる。何だかいい気分だ。スピリット・アイランドは、美しいと聞いていた午後の光線の下で見るには少し時間が早かったし、自由時間がわずか10分だったのが物足りなかったけれど、素晴らしい風景を堪能できた。
これもMaligne Lake
Maligne Lake

 クルーズから戻ると昼食を取り、しばらくのんびりと休憩してからマリーン湖のそばの短いトレイルを歩いた。まだ時間が早かったので、すぐそばにあるムースレイクのトレイルも廻ってみた。空模様が怪しくなってきたため、鬱蒼とした林の中はいつ熊が出てきても不思議ではないような状況。歩く間中、私の方は熊がでてきませんように、と祈っていた。ところが、我が相棒は不遜にも熊との遭遇を願っていたようだ。(トレッキング中の遭遇はやっぱりノーサンキューだよ)
ミュール鹿
ミュール鹿

 マリーン湖からの帰り道、メディシン・レイクのほとりでまたまた楽しいことに出会った。ビッグホーンシープの親子が道路に出てきて車にすり寄っているのだ。大人の雌二匹と子ども二匹。大人の大きいやつが人になれているらしく、自分の方から車に近づいてくる。車の窓に首を突っ込んでくるほどなのだからよっぽど人間にかわいがられたのか。ちょっと野性味にかける行動ではあったが、こんな出来事が嬉しくてたまらない私たちはいつまでもいつまでもこの親子の行動につき合った。もちろん、野生動物に餌などを上げることは厳禁なので見守るだけだが。
 その後今度こそさあ、帰ろうと車を走らせたら、またまたまた前方に車が止まっている。今度はこの日二度目の熊だ。今日はついてるなあ、と思う。トレッキングの途中で熊に会うのは絶対に嫌だが、車の中から観察できる分には何度遭遇してもかまわないものね。ブラックベアの真っ黒な毛並みが日に映えてとっても美しい。その黒さがなんだか荘厳でさえある。ああ、今日はもう何十枚写真を撮ったことか。
ビッグホーンシープ
Bighorn Sheep
 この日は湖で遊べたし、動物もたくさん観察できた。大満足でベッドに入ったことは言うまでもない。

back index home next