平維茂 Koremochi Taira 阿賀町



平維茂(たいら これもち) ?〔生〕~?〔没〕 鎮守府将軍 信濃の守

平維茂は桓武平氏であるが、傍系のため家系生没は諸説があって明瞭でない。平貞盛の養子となり、それが15番目の子にあたっていたので余五といわれ、のちに鎮守府将軍という位についたので、余五将軍とよばれるようになった。信濃守の頃の伝承は能の演目『紅葉狩』等として劇化されている。

平貞盛は、平国香の長男である。平将門が国香を殺害し中央政府に背いた時、その子貞盛は、下野の豪族藤原秀郷(田原藤太)と共に将門を討ち武勲の名をあげた。
貞盛には弟繁盛がいた。この繁盛の子が維茂である。貞盛は陸奥守や鎮守府将軍に任じられる。当時の、鎮守府将軍は坂東武士の棟梁という意味合いで、鎌倉幕府の征夷代将軍のように、各地の武士団の領地を安堵する力はなかった。
各地の武士たちは、土地をめぐって争いが起こった。坂東での武士の棟梁としては、藤原氏と平氏が有力となっていた。平貞盛は、甥や孫甥を集め養子とすることで、平氏の一族の結束を強め坂東一円に支配を広げようと考えていた。維茂も養子の一人であり、15番目の養子であったことから余五と呼ばれた。

このような中で維茂と、藤原秀郷の孫藤原諸任と土地争いに端子を発した戦いがおこった。
長徳元年(995)の秋、戦いによって決着するほかないと、日時と場所を定めて戦いの申し合わせをした。今昔物語には場所について記述はないが、現在の福島市近辺ではないかといわれている。
維茂軍は、諸任軍の奇策で敗北し、どうにか逃げることができた。その後、手兵100人ほどを引き連れ、戦勝によって武装を解き、酒宴を行うなど油断して野営している諸任軍を襲った。諸任軍は10倍の兵力であったが、あわてて弓矢を取るもの、鎧をつける者、あるいは倒れる者、あるいは武器を捨てて逃げるものなど混乱を極めた。そんな状態の中、維茂は諸任の首をはねた。
その後、諸任の館に向かい討ち入り、館に火をつけて手向かう者を射殺した。維茂は、家来に諸任の妻の救出を命じている。妻は、時の陸奥守藤原実方の妹であった。この後維茂が実方の館に向かい妹を届けると、実方は大いに喜んだという。
維茂は坂東八か国に名をあげ、並びなき兵と言われるようになった。これに応えて朝廷は陸奥守に任じ、鎮守府将軍を兼ねさせ、東北の守りの砦とした。これにより維茂は余五将軍と呼ばれるようになったという。
維茂の一族は、その後、支配地を会津から阿賀野川に沿って、越後国白川荘(現在の阿賀野市水原)周辺まで伸ばしていったと推測される。長保3年(1003)維茂の甥維良が下総国府を焼討ちして官物を掠奪したかどで押領使藤原惟風の追補を受けた際、越後国に逃亡していることから、越後に一定の勢力があったことがうかがえる。

維茂の三男平繁成は、前九年の役の前年、永承6年(1050)、陸奥奥六郡の安倍氏を討つ先鋒の役割を果たすため、出羽国の秋田城介に任命され現地に赴いた。それ以後、この一族を城氏と呼ぶようになったという。平安時代の終わりごろ、平繁成の子孫の城氏は越後の北部、奥山荘・白河荘などに本拠をかまえ、越後平氏の有力豪族となり、越後から会津地方にかけて勢力を張った。

(阿賀に残る伝説)

阿賀町三川の岩谷に、国の重要文化財に指定されている薬師堂のある平等寺があるが、この地で晩年を過ごしたという維茂の創立と伝えられている。
余五将軍が船で川を下っていると、阿賀野川の中から神々しい光が発しているのを見つけ、不思議に思い拾い上げると黄金色に光る薬師如来像だった。平維茂は神意と悟り付近の高台に堂宇を建立し薬師如来像を祀り平等寺としたのが始まりとされる。
境内には将軍杉と呼ばれる天然記念物の杉の大木がある。樹下に江戸時代に建てられた『余五将軍維茂墓碑』がある。将軍杉は維茂を埋葬後に目印として植えられたと伝えられている。

阿賀町には余五将軍にちなむ逸話が残る。三川地内には、余五将軍の夫人が身を投げたといわれる御前ヶ淵があり、上川地区安用には夫人が隠れていたという岩窟がある。

『維茂夫人は御前ヶ遊窟(ごぜんがゆうくつ)という山深い洞窟に住んでいた。夫である維茂の死期が近くなり、3月10日の明方までに来なければ間に合わないと知らせが届いた。夫人は急いで夫の元へ駆け付けるが夜明けの鶏の声を聞き、夫の死を悟った夫人は阿賀野川へ身を投げてしまう。身を投げた場所を御前ヶ淵という。しかし鶏の声は天邪鬼(あまのじゃく)のいたずらだった。それ以来この土地の人は鶏を食べないと云われる』
御前ヶ淵に残る平氏一門にかかわる伝説

御前ヶ淵は阿賀野川と白崎川が合流して、大きな渦を巻いているところである。源氏との戦いに敗れ越後へ落ち延びたきた平氏一門の人たちは、白崎まで来たところで全員捕らえられた。この後を追って来た奥方の一行は、「捕らえられた人たちは、明朝鶏の鳴くのを合図に処刑される」という知らせを聞いた。
道を急いだ奥方たちが白崎の手前まで来たとき鶏が夜明けを告げ、一目会いたいという奥方たちの望みは絶たれてしまった。奥方たちは手を取り合って御前ヶ淵の渦の中へ飛び込んだという。御前ヶ淵近辺の白崎の人たちはそれから鶏を飼わなくなったという。


❏〔墓所〕

❏〔周辺の観光施設〕




























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