DEWKS

 孝弘が三歳児検診で言葉の遅れを指摘された。

「確かDEWKSって言うんですよね?子どものいる夫婦の共働き家族…。うちなんかもそうなんですけど、どうしても子どもが犠牲になるんです。託児所じゃ、小さい子ども同士遊ばせておくだけで、大人からの言葉かけは少ないし、家では食事をしてお風呂に入れると、子どもはもう寝ちゃいますしね。大人とのやり取りの中で育つ言葉が遅れてしまうのは、やむを得ない傾向なんですよ」

 担当の保健師の言葉が、洋子の胸に突き刺さっていた。


 いつものように八時過ぎまで残業をし、同僚と一杯ひっかけて帰宅した夫の芳治は、居間で泣いている洋子の姿に驚いた。

「どうしたんだ、いったい!」

 洋子はわけを話した。

 好きで入ったデザイナーの職は失いたくない。

 しかし帰ってから家事一切を済ませて、気が付くと孝弘はソファーで眠っている。

 孝弘も母親を求めることは諦めて、一人で遊ぶ癖がついてしまったようだ。

 考えてみると、孝弘と母親らしい接触ができるのは、食事を食べさせる時と、一緒に風呂に入るほんのわずかな時間だけではないか。

「ごめんね、孝弘…」

 あどけない顔で穏やかな寝息をたてる孝弘に、そうつぶやいて涙を流す洋子の背中に、芳治は決心した。

 残業は極力減らそう。

 付き合いの酒も今日限りにしよう。

 夫婦が共働きをするということは、家事も育児も共同作業をするということなのだ。

「孝弘がおれの間違いを教えてくれたんだ。二人で乗り切ろうよ」

 久しぶりに聴く頼もしい夫の言葉に、洋子はようやく明日へのファイトを取り戻した。