我が家の国際化

 さんざん練習したにもかかわらず、金髪を見ただけですっかり緊張した年長の長男が、「マイネームイズ ジュンペイ」と言うべきところを「マヨネーズ ジュンペイ」と間違えたために、

「オウ、ユーアー、マヨネーズ!」

 ポーラとジェーンの一週間のホームステイは明るい笑い声で始まった。

 日本語の堪能なポーラのおかげですっかりうちとけた滞在最後の晩、子どもたちが寝静まってから、

「日本の生活はどうでしたか?」

 と尋ねた石原夫妻の質問に答えて、ポーラはこう言った。

「私たちはいつも自分らしさを大切にできる子どもを育てようとしていますが、日本の人は、周りと同じ人間を育てようとしているみたいですね?」

「え?」

「順平さんもゆう子さんも、朝六時半のラジオ体操に出かけて行きますが、見に行くと、誰も真剣に体を動かしてはいません。みんなと同じハンコ?が欲しいだけです。誰もが同じジャージィを着て、同じ髪型をして、同じテレビを観て、同じゲームをして、だから同じ大人が出来上がって、みんなよく働いて、日本は発展するのだと思いました。でも、みんな同じだと、だめになる時はこの国はすごい勢いでだめになるのだとちょっと心配になります。それに、一人一人に魅力のない国は羨ましくありませんね」

「本当にそうだ…」

 と栄子も陽介も思った。

「我が家の国際化の幕開けね」

 二人を駅まで送って栄子が言うと、

「ああ、子どもたちは、ちゃんと自分を主張して相手を理解しようとする個性的な人間に育てなきゃな…国際社会では通用しない」

 車を運転しながら陽介が応えた。

 自分たちはどうだろうと栄子は考えた。

 発言をしない会議、目立たない服装、あいまいな笑顔…。

「どうだ、お前もポーラの様に破れたGパンでも履いたら」

 という陽介の冗談に、栄子は笑えない真実を感じていた。