漫才(渋滞)
Y どうも~!横山やすしで~す。
K 西川きよしで~す。
Y しかし間に合って良かったなあ。こない仰山のお客さんに迷惑かけるとこやった。
K 良かったやないで、ギリギリやないかい。いっつもいっつも遅刻しやがって。楽屋で待ってる者の身になってみい。胃に穴が空くで。いくつ胃があっても足りへん。
Y いくつって、胃は誰でもいっこやないかい。
K 何言うてんねん。今度の胃で、もう三つ目や。
Y 三つ目?
K まあ、それは冗談やけどな。それくらいお前のことでは心労を重ねた言うこっちゃ。おれが八十で死んだら、ほんまは九十まで生きるはずやった思うてや。お前とコンビ組んだせいで十年は寿命が縮んだ思うで、ほんまの話。
Y きょう遅れたんは、渋滞や、渋滞。道路がいっこも進まへん。
K 道路が進まんのやのうて、車が進まんのやろ、アホやなあ。
Y そらまあ、言うたらそういうこっちゃけど、車に乗ってるもんから見たら道路が進まんのやないかい。相対性の原理や、相対性。ま、道路でも車でもどっちゃでもええ。とにかく遅れたんはおれのせいやない。渋滞が悪いんや。
K また人のせいかい。お前、人のせいにばっかりして生きてるなあ。おれが貸してやったビデオなくした時も人のせいやったど。
Y あれはしゃあない。返そう思うて巻き戻ししといたテープに、うちのがヨン様ダビングしてしもたんや。貸す時にダビング防止の爪を折っとかん人間が悪い。
K ほな、おれが悪いんかい。
Y ええやないかい。代わりにヨン様のテープ返したったやろ?
K うん。あれは面白かった。永久保存版や。返してもうたテープは、ちゃんとダビング防止の爪折っといた。
Y ほなそれでええやないかい。
K テープだけやない。携帯電話の時もそやったで。お前、携帯電話忘れて、俺の携帯で電話したやろ?ほんで、相手が留守で、お前、留守番電話に録音したやろ?おれやおれや、何偉そうに留守してんねん。またお好み焼き食わしたるさかい折り返し電話かけて来い…言うて。そういう時はちゃんと自分の名前名乗れよ。相手の女、ビビリまくって着信記録頼りに電話かけて来たで。どちらさんでしたか?言うて。恐かったんやなあ。
Y ああ、あれはしゃあない。酔うてたし。ポケットからキャバレーの女の名刺が出てきたさかい、親切でかけたったんや。客の声を覚えてない女が悪い。
K また人のせいや。お前、その女とお好み焼き食うたことがあるんか?
Y それ覚えてないんや。けどな、おれ、女と知り合うと、たいてい一緒にお好み焼き食うからな、食うたと思うで、お好み焼き。
K 「食うたと思うで、お好み焼き…」もうええ、そんなセコい話。女にはもっとええもん食わしたれや。お好み焼きなんて、うどん粉やないか。タコかて入ってないし。
Y たこ焼きのこと言うてんのか?お前、もっとセコいやないかい。
K もうええ。おれはな、遅刻はするな言う話をしてんねん。渋滞見越して、その分、早う家を出んかい。それが社会人や。
Y 誰が宇宙人や。俺は日本人や。
K 社会人言うたんや。頭だけやのうて耳まで悪うなってしもてからに。口はもともと悪いところへ、目も、耳も悪なって、あと鼻が悪なったらお前、首から上、健康なところ一か所もないねんで。
Y やかましい。せやけど、何で高速道路が渋滞するかなあ。これがわからへんねん。
K ほんまや。高いカネ払うてやで、いっこも動かへん時は腹立つなあ。
Y そういう時、下の道はスイスイ動いてるような気いするしな。
K するする。また、あの料金所のおっさんが無愛想や。
Y 無愛想!
K スナック行ったかて、お前、カウンターの向こうは一段低うなって、お客と目線を同じにするように工夫がしてあるねんで。
Y すし屋かてそうや。
K 天ぷら屋かてそうや。
Y 料金所のおっさんは反対に高いとこから見下ろしよるからなあ、こないして。
K 見下ろす、見下ろす。下から見上げたら鼻毛まで見える。
Y 見たないっちゅうねん、おっさんの鼻毛。お嬢さんのワキ毛なら見たってもええ。
K アホか。ほんで、釣り銭をこっちの手の平にぐっと押し付けよんねん。
Y こっちはカネ払う立場やのに、おっさん見上げて恐れ入ったりして、平成の御世に関所やないっちゅうねん。
K 関所!関所て、お前、関所知ってんのんか?いつの時代の人間や。
Y いや、実際、経験はしてないけどやなあ、ようテレビでやるやないかい。通行人止めて、大威張りで手形見せいちゅうて…。あれ信長やったかいな、廃止したんやで、人が自由に往来できひんようでは経済の発展を妨げる言うて。せやろ?
K ええこと言う。
Y 今、高速道路で関所が復活してるねやないかい、ボケ、カス、アホんだら。只にせい!只に。日本の経済のためや。世界一高いねんど、日本の高速道路。その分商品が高うなって、結局は消費者のところへしわ寄せがくるんねんど。信長みたいな総理大臣出て来いちゅうねん。
K しかし只やったら、みな高速乗って今より渋滞するやろな~。
Y 渋滞はあかん!渋滞は。只はええけど、渋滞はあかん。こないだも、めちゃめちや渋滞したねん。
K 高速道路やな。
Y 進むことも戻ることもでけん。
K それが頭来るねんな、高速道路は。一旦乗ったら下りるまで、ちょっと喫茶店で時間つぶそか…てなことができへん。
Y 見ると、みんなイライラしてるがな。
K 隣の車はもうこないしてタバコ吸いよるわなあ。
Y 前の車はあきらめて週刊誌読みよるわなあ。
K バックミラー見ると、後ろの車の運転手は、この辺、血だらけになって鼻毛抜いてるわなあ。
Y あれは、ストレスが原因なんやてなあ…。意地になって抜いてるやつ、おるおる。抜いてはふっと吹き飛ばすさかい、フロントガラスの内っ側、短い毛がびっしり生えてたりしてな。
K で、お前はどないしてたんや?
Y おしっこしたなったんや。
K おしっこ!
Y わし、昔からイライラするとおしっこしたなる癖があんねん。
K けったいな癖やなあ。まあ、解らんことない。うちのペスもそやった。
Y ペスって?
K 雑種の犬や。息子が拾うて来たんや。もう、散歩に行くと、早う行こ言うてイライラして、手当たり次第おしっこすんねん。
Y 雑種の犬と一緒にすな。
K ほんで、おしっこしたなったけど、渋滞してるがな。
Y 高速道路は下りるわけいかん。
K えらいこっちゃ。ほんで、どないしたんや。
Y お茶飲んだんや。
K お茶飲んだ!アホ。水分取ったら余計したなるやろ。
Y ちゃう。ペットボトルを空にしたんや。
K ペットボトルを空って、お前まさか…。
Y しゃあないやろ。背に腹は変えられへん。
K けど、ペットボトル言うたら穴が小っちゃいんちゃう?お前のん、そない小っちゃいんか?
Y なんぼなんでも直接入るかいな、そんなもん。うまいことおしっこだけ入れんねん。おしっこそのものの太さは、誰かてペットボトルの穴よりは細いがな。
K そらそうや。ペットボトルの穴ほど太いおしっこが、ここから出たら恐いわ。
Y 勢い良かったら便器は割れるやろうな。公衆トイレなんか、やかましいで、パリン、パリン、ガチャン。いっつも修理しとかんならん。
K あほ、そないなったら鉄の便器に変わるわ。ほんで、おしっこはうまいこと入ったんか?
Y 初体験や。緊張したでえ。
K そら緊張するわなあ。
Y 周囲の目も気になるしな…。
K そらそうや。隣の車から写真撮られたら週刊誌に載るで。カッコ悪いやろな、こんな格好載ったら、二度と町歩かれへん。ほんで、入ったんか入らんかったんか、早うしゃべれよ。こっちまでしたなるわ。
Y えらいもんやでえ、なみなみ、ぎりぎり、かつかつ、すれすれ、ペットボトルの口んところまで一杯や。キュキュッと白い蓋閉めたがな。
K よかったなあ。車の中には尿瓶、これからは必需品やなあ。
Y ほんで、次の日や。
K また渋滞かい。
Y ちゃうちゃう、夜、飲み会があったんや。
K またどこぞの女にお好み焼き食わせたんかい。
Y 誘ったけど、その日は女がついてけえへんかった。ちゃうがな、ついでがあって、カミさんが車で迎えに来てくれたんや。
K ええとこあるがな。離婚寸前や思うてたのに。
Y あほなこと言うな。3回も失敗でけへん。
K お前、バツ2やったんか?
Y 冗談やがな、冗談。希望を述べただけや。
K 希望!お前、結婚3回も望んでんのか?
Y お前は?
K 4回でもええ。
Y 同じやないか。あほか。男の夢や、まぼろしや、幻想や、妄想や。
K けど優しいとこあるなあ、酔うた夫を車で迎えに行く。なかなかできんこっちゃで。どうせべろんべろんやったやろ?いつものように。ちゃんとズボン履いてたんか?
Y 履いてた…おい、ちょっと待て。ほなおれは酒飲んだらズボン脱ぐんかい。下半身剥き出しで町歩くんかい。上は背広で、下剥き出しで。アホか。そんなことせえへんわい。知らん人が聞いたらほんまにしよるやないかい。
K 何も君が酔うたらズボン脱ぐなんて言うてえへんがな。ちゃんと履いてたんかて心配して聞いただけや。
Y 履いてた。
K ほなそれでええやないか。
Y ややこしい聞き方すな。どんなに酔うても最近はズボン履いてることが多い。
K ほな昔は脱いでたんやないか。まあええ。奥さん運転うまいんか?
Y もと暴走族や。
K 暴走族?奥さん確かマサイ族ちゃうかった?
Y やかましい!ほなうちのカアちゃんヤリ持ってんのんか?鼻の穴に骨刺してんのんか?毎晩月見て踊ってんのんか?こないして。
K マサイ族は今そんな生活してえへん。聞こえたら怒らはるで。背中にヤリが刺さるで。脳天に毒塗った吹き矢が刺さるで。
Y 君の方がきついやないかい。冗談や、冗談。うちのは暴走族やない。今やから言うけどなあ、山の手のお嬢さんや。ざあます言葉や。
K 嘘つくな。何がざあます言葉や、サーサイみたいな顔してからに。
Y ザーサイみたいな顔?どんな顔や、それ、え?ザーサイみたいな顔ってどんな顔や。
K まあええがな、世間の人はみなわかってる。
Y それどういう意味や。世間はみなおれのカミさんの顔、ザーサイや思うてんのか!おれはメンマかい!子どもはキムチかい!しまいに怒るで。
K 何もそこまで言うてえへんがな。ほんで車に乗っておとなしゅう帰ったんやな?
Y 喉が渇いたんや。
K わかるわかる、酒飲んだら誰でも喉渇く。
Y おい!自動販売機で車を停めい!喉が渇いた、言おう思うたら、お前、目の前にお茶のペットヘボトルが立ってるやないかい。
K ちょっと待てい!ペットボトルて、それ、お前、ひょっとして…。
Y 酔うてるがな。
K 喉、渇いてるし。
Y 白い蓋取ってやで。
K 白い蓋取って…。
Y 一気に…。
K 飲んだんか!
Y 飲んだ。飲んで、すぐに吐き出した。けど勢いで一口は確実に飲んだ。
K うわあ!前の日のおしっこや。自分のでよかったなあ。
Y ほんまや、君のやったら死んでるかもわからへん。けど、酔うててもはっきりわかったことがある。
K 何や。
Y あれはマズい。
K 飲んだことないから想像がでけへんわ。
Y それもこれも渋滞が悪いんやないかい。
K また人のせいかい、ええ加減にせい。
Y やめさせてもらうわ。
終