漫才(臨時講師)

平成29年10月14日

K どうも~!西川きよしで~す!

Y 横山やすしと申します。

K 何や、君、いつもと違うやないかい。調子狂うさかい、いつもの様にやってえな。

Y 横山やすしで~す、なんて、軽々しい挨拶はしてられへん身分になったんやがな、わしは。

K み、身分て何や、宮様のお屋敷の下足番にでも雇うてもろたんか?

Y アホ、宮様に雇うてもろたかて、下足番は下足番やがな、身分は変わらへん。

K ほな、君の身の上にどんな変化があったんや?

Y あれ?言うてなかったかなあ、君に。実はわしの甥がな、塾を経営してんねん。

K 塾!初耳やで。君んとこの親戚はみな自由業や聞いてた。黒いシャツ着て、赤いネクタイしめて、白いエナメルの靴はいて、顔に、こう…傷があって…。

Y アホなこと言うな、ほな、うっとこの身内は皆ヤクザか。甥だけはちゃんと塾をやってるがな。

K 甥だけ!やっぱり甥以外はヤクザやってんのやないかい。

Y やってえへんて、世間様が誤解するようなこと言うな、皆で話し合うて三年前に足洗うた。

K 足洗うた?石鹸でか?

Y 石鹸!アホ、足を洗うちゅうのんは、真面目になるいうことや、何にも知らんなあ君は。石鹸で足洗うてどないすんねん。

K ちょっと待て、何にも知らんのは君の方やないかい。犯罪は、手を汚す言うねんで。足より手を洗わんかい、手を。

Y 足は手で洗うがな。そやろ?足を洗うたら手も一緒にきれいになるがな、うるさいやっちゃなあ、細かいことをごちゃごちゃと。

K 立ったままで、こないして足と足をこすりつけて洗うたら、手は使わんでもええで。

Y そらまあ、そや。そんなやつもいてるかも分からへん…けど、この際どっちゃでもええやないかい、手でも足でも。要は真面目になったいうこっちゃ。君の話しは、いつでも話の本筋から逸れて行く。そういうとこ問題やで君は。目はごっついけど話しが逸れる。

K 目は関係あれへん。ほんで甥がやってる塾と、君の身分とどんな関係があるんや?

Y 入院したんやがな、甥が。

K 悪い病気でか?

Y それは君、プライバシーや、いくらコンビでも立ち入り過ぎや。本人も秘密にしておいて欲しい思うで、痔で入院したいうことは。

K 言うてしもてるがな、アホやな。

Y あ!しもた。

K 遅い、遅い、今さら口押さえても。ほんで、痔がどないしたん?

Y 甥の痔はな、手術はもう三回目やけどな、二回目の手術した医者の腕がヤブやったんやろな、手術後によけ悪うなってしもてな…何でやねん!痔の話しちゃう。塾の話しや。臨時に講師を頼まれたんやないかい、わしが。

K 講師!

Y そうや、講師いうたら先生やで、先生、正味の話しが。先生と呼ばれる身分で、横山やすしで~すなんてアホみたいな挨拶、言うてられへん。尊敬を失う。

K ひ、引き受けたんか、君、塾の先生!

Y 当たり前や、困ったときに助け合うのんが身内やないかい。先生でも警察官でも引き受けたるがな。

K 君には警察官は務まらんやろ、逃げるの専門やさかいな、昔から。

Y 捕まえる側を頼まれたらの話しや、弱いもんの味方やで、わしは。月光仮面や。

K 月光仮面!若い人は知らへんで、そんなヒーロー。

Y 白い覆面にサングラスかけてオートバイで犯罪現場へ駆けつけるんやないかい、50CCやで、50CC。

K 古すぎるて、君、せめて七色仮面にせな。

Y 七色仮面でもまぼろし探偵でも怪傑ハリマオでも何でもええ。とにかく、わしが警察官やったら、タクシーの運ちゃんとのトラブルだけは捕まえへん。見逃したる。

K えらい恨みが深いなあ、タクシーには。せやけど、そもそも塾の先生なんて君に務まるんかいな。

Y それやがな、相手は小学生や、務まる思うがな?

K 務まらんかったんか?

Y あいつら計算をひっ算でやんねんで、ひっ算で。分かるか?ひっ算て。暗算に対してひっ算や。紙で計算するやっちゃ。ここが分かりませんいうて持ってくるドリルがえらい難しいさかいな、これでやってみぃちゅうて、電卓貸したってん。

K 電卓!お前、それはあかんで。紙の上で計算すんのんが算数やないかい。

Y 何言うてんねん、人類は進歩してんねんど。紙で計算すんのんが不正確やさかい、電卓発明したんやろ?いまどき紙と鉛筆で計算してるやつはおらへんど。スーパーのレジが紙で計算してみ?並んだ客が怒りよるで。「こら、早うせんかい!」「まだできひんのかい!」「いつまでかかって足し算やってんねん!」

K えらいガラが悪いスーパーやなあ。

Y 計算遅いさかい腹立ててるんやないかい。ネエちゃんは焦るでえ。焦ると間違えるがな。間違えるともっと焦るやろ?おろおろになったそのすきに商品持って逃げるんや。

K せこい話しやなあ。

Y 何でもええ、とにかく電卓使うて、ちゃっちゃと計算したらええねん。今は君、バーコードちゅうの?あれをかざしたら、機械が勝手にピッて計算しよる。電卓も使わへんねやで、知ってるか?

K そら知ってるけど、塾は紙で計算せんとあかんやろ。学校のテストでは電卓使われへんさかいな。

Y それがわしはおかしい思うねん。便利な道具があるのに、それを使わせんちゅうのんは、いじめちゃう?わしは近目やけど、メガネがあるさかい黒板も見えた。電卓を禁止するのはメガネ使わせんのと同じや。掃除機があるのんにホウキ使え言うんかい?自転車があるのんにスーパーまで歩いて買い物に行け言うんかい?橋があるのんに泳いで向こう岸に渡れ言うんかい?ライターがあんのに火打石使え言うんかい?

K もうええ、もうええ、火打石て、いつの時代の人間や。君の理屈は分からんわ、ほんで、君、電卓貸したん?

Y 買うてきたがな、100円ショップで人数分。電卓は安いでぇ。掛け算も、割り算もできて、100円や、100円。信じられへんような値段や。消費税が入って108円。

K 確かに安うなったなあ、電卓は。昔は何千円もする電子計算機を買うた役所の職員が、計算したあと、算盤で確かめよった。

Y そんな時代、あったなあ…。ファックス送った先に電話して、「おい、こっちゃに原稿が残ってるけど、ちゃんと送れてるか?」なんてのもあった。

K 携帯電話かけたら、「ようここが分かったな」ちゅうのんもあった。

Y かつ丼食べ終わる間際に髪の毛入れて、「おい、ネエちゃん、髪の毛入ってるで、大将、呼んでんか」ちゅうのもあった。

K それは君たちの世界や。怖いわ。

Y ああ、そうか。

K 君、まさか、100円の電卓を子どもに配ったん?

Y 当たり前や、喜んだでえ、計算問題は全部満点や。スピードかて上がったがな。

K しかし、それ、親が知ったら大問題になるやろ。

Y きっちり言うてあるがな、親には絶対に言うなて。

K ええんか、君、子どもらに秘密を持たせて…。

Y 秘密が守れんで、どないすんねん。計算はうまくできても秘密の守れんやつと、計算は電卓使うけど、秘密はきっちり守るやつと、君が社長やったらどっちを雇う?

K う~む、そら秘密を守るやっちゃなあ。

Y そうやろ、今は内部告発の時代やからな、組織は口の軽いやつのせいで、内部から崩れて行く。せやから、わし、子供らに秘密守る訓練したってん。

K 訓練!…で、親にはバレへなんだん?

Y そこや、そこや、聞いてえな、君。どこにでもいてるなあ、口の軽いやつ。電卓使うやろ?いっつも悪い点取ってるやつは、満点取って親に褒められるさかい秘密守るけど、頭のええやつは、あかんなあ。アホとの差がなくなるのんが悔しいねやろな。先生が塾で電卓貸してくれてんて、ポロッと口を割りよった。ああいうやっちゃで、将来ええ学校出て、政治家の秘書かなんかになって、このハゲ~とか言われたん録音して、マスコミにチクるのん。

K それは、このハゲ~なんて言う方が悪いんやないか。ほんで?

Y えらい剣幕で親から抗議の電話が来たがな、塾では電卓で計算させてるてほんまですかって。修羅場やで、修羅場、わしの得意科目や。

K 得意科目て、ほんで君、どないしたん。

Y きっちり勝負したったがな。腕の見せ所や。

K どない勝負したん?

Y これからのお子さんは、勉強ができても、信用がなくては社会では通用しません。それはお分かりになりますね?言うて相手の返事を待ったがな。

K ふむふむ。声だけ聞いてたら塾の先生らしゅうなってる。お前、振り込め詐欺みたいなやっちゃなあ。ほんで?

Y だいたい抗議の電話かけて来る親はインテリや、自分は頭がええて、自信持っとる。

K そらまあ、そうかも知れへんなあ。

Y お分かりになりますね?と聞かれら、分かりませんとはよう言わへん。それにわしの言うことは正しいがな。社会へ出たら信用が大事や。そやろ?

K そら君の言うことは正しい。信用がのうては仕事にならん。僕はこれまで君とコンビ組んで、安心して漫才やった記憶がない。

Y ほな、わしは信用ないんかい!

K ほな、君は信用あるんかい!

Y そらまあ、色々あったさかいな、反省しとる。反省して立派に塾の先生やって、信用回復を図っとるんやないかい。協力せえよ、君も、そないわしの悪い過去ばっかりほのめかさんと。

K これは僕が悪かった。犯罪者の更生を邪魔したらあかん。せっかく真面目になろうとしてるんやさかいな。

Y 犯罪者!そのものの言い方が腹立つちゅうねん。だいたいわしがタクシーの運ちゃんともめたんはやなあ…あいつが先に…

K もおええ、もうええ、ほんで修羅場の続きはどないなったん。

Y そうや、そうや、修羅場の続きや。わし、電話で言うたったがな、声をこう…先生の声に変えて。この度、塾では、お子さまに対するご両親からの信用度を調査する目的で、先生が電卓を貸してくれたと嘘をつかせてみました。たいていの親は、そんなアホなことがあるかと、お子さんを信用しませんでしたが、さすがですね、こうして抗議のお電話を下さったのはお一人だけでした。ご両親が心からお子さんを信用されていらっしゃるということが、よく分かります。お子さんの将来は明るいですよ、うちの塾の模範です。

K うまいこと言うなあ、君。そんで親は信用しよった?

Y ちょろいでぇ、親なんて。あれ、自分の子はええ子や思いたいんやろな。そこが親の盲点や。私共はいつでも子供を信用しています言うて、手放しで喜びよった。

K やっぱ詐欺師やなあ君は。修羅場を切り抜けた…で、子どもはどないしたん。

Y もちろん、しばいたったがな。

K しばく!

Y おい、ちょっと顔貸せや!お前な、秘密にせい言われたことをチクるのんは、人間として最低の行為ねんど、塾やさかい、こんなんで済んだけど、これが組やったら小指が無うなるねんど、分かっとんのか!言うて睨んだったらな、あのガキ泣っきょった。久しぶりやったなあ、気に入らんやつトイレに呼び出すのん。

K 怖いわ、君とこの塾。

Y 何言うてんねん、怖いのは最近のガキやで。知ってるか君、最近の小学生の実態を。

K 小学生いうたら、可愛い盛りやないかい、高校生になると何考えとるか分らんようになるけど、小学生は可愛い。

Y 甘いなあ、君は。今の子は早熟や、昔の小学生と違う。既にニワトリやで、ニワトリ。

K ニワトリ?

Y ひよこのうちは愛くるしいけど、トサカが生えたとたんに憎たらしゅうなるやろ、ニワトリて。クァッ、クァッ、クァッ、クァッて、人のこと無視するか、敵みたいな目で見よる。今の子は、小学生でトサカが生えよんねやなあ。

K 例えば?

Y 小学校の二年生のガキがやで、塾へ来るなり、あ~、疲れた、疲れた。人生て、何でこない疲れるんやろ、言うねんで。

K 二年生でそんなこと言うのん?

Y それだけやあらへん。先生はええなあ、学校も塾もスイミングも、子ども相手にして給料がもらえる。ぼくらは、大人の社会ではまともに仕事ができひん人らの面倒見て、給料どころか、月謝を払わんならん、ほんま、疲れるわ~なんて、君、こんなこと言いよんねんで。

K 何!先生は、大人の社会ではまともに仕事ができひん人やてか!何ちゅう生意気なこと言いよんねん!そんなん言われて、君、黙っとんのかい!

Y ま、当たってるだけに反論し難いがな。

K 当たってるて、君が認めてどないすんねん。

Y わしは、先生いうてもピンチヒッターやから違うで。一応、芸能界みたいな油断できひん世界を知っとる。ボートレースの世界も知っとる。

K 確かに君は一般人が知らん塀の中の世界も知っとる。

Y うるさい、黙っとけ、何でも経験、社会勉強や。せやけどな、学校の先生はやで、中学校、高校、大学と、遊びたいのん我慢して、一生懸命勉強してやな、採用試験に受かって先生やってんねやろ。教わる側から教える側に回っただけで、社会には一度も出てえへん。大人の社会の厳しさ、汚さ、苦しさ言うもんを知らへんがな。せやろ?算数は教えられても、人生は語れん。

K なるほど、まあ、そういう面もあるかな。一般社会は利害で動いてるけど、学校は正義や道徳で動いてるさかいなあ、そういう意味では、先生はどうしても世間の常識からはズレてるかも分からへん。

Y そこでや、わしは子どもらに、塾で一般社会の厳しさを教えたろう思うてん。

K 一般社会の厳しさて?

Y 裏やがな、裏。裏の社会や。何にでも裏があるいうことを小学生のうちから叩き込んだるんや。強い人間にするために。

K 例えば、どんな裏や?

Y まずは、机と椅子を初めから人数より二つ三つ少のうにしておくねん。

K そんなんしたら座られへん子が出るやないかい。

Y 座りたければ早う来て席を取らんかい。うちの塾では遅刻したかて説教なんかせえへん。罰も与ええへん。その代わり遅れて来たら座る席がない。自己責任や。これが一般社会の厳しさや。どや?分かり易いやろ?

K 確かに分かり易いなあ。

Y 誰かに小遣いつかませて、席取ってもらうのもええ。力ずくで奪うのもええ。強いやつに取り入って、奪われんように守ってもらうのも社会に出るための大事な才覚や。もちろん席をゆずって恩を売るのんも有りや。

K そら鍛えられるわ。まるっきり大人の社会やな。

Y 鍛えられる思うやろ?わしも思うたがな。

K 違うのんか?

Y あいつら、わしらが思うてるよりずっと大人やで、やっぱり、もう立派なトサカが生えとる。

K 何でや。

Y 席を減らしても塾は穏やかなもんや。

K 何で?席は足りへんのやろ?奪い合いすんねやろ?

Y それがな、あいつら、談合しよんねん。

K 談合!

Y 上手に話し合うて、順番に立つやつを決めよる。

K そら大人や、日本人や、和の精神や、まだまだこの国も捨てたもんやない。

Y それは君、間違いやで、そういうやつらが日本をだめにすんねや。

K 何でや?協調性があるのんは、ええこっちゃないかい!

Y 君、何にも分かっとらんなあ、官僚が国の敷地を何億円も安うに叩き売るのんも、特定の法 人に獣医学部を建てさせるのんも、忖度言うて、行き過ぎた協調性、過度の和の精神やがな。問題になると、みんなで話し合うて証拠書類を全部処分しよる。これも談合体質や。

K なるほどなあ、君、たまにはええこと言うがな。これからの日本人は協調よりも主張が大事、言うこっちゃな。

Y せやせや、わしは主張するで、どこでも誰にでも主張する。これからの日本人や。

K ちょっと待て、君のは主張とは違う思うで。

Y 何が違うんや!ほなわしのんは主張やのうて何やちゅうねん!分かるように説明してもらおやないかい!納得でけへんかったら、コンビでも君、落とし前やで!

K それやそれや、最後に落とし前がつくのんは主張やのうて因縁やがな。

Y わし、落とし前なんて言うてないで。

K 今、言うたとこや、お客さんかてみな聞いてはったがな、しわのような目で、下から、こう…ぐっと睨んで、落とし前やで!て言うた。

Y 言うてない。君、とうとう耳まで悪うなったんか?目はごっついけど、耳はあかんなあ。ほなスローでいっぺん聞いてみよか?

K スロー?

Y コンビでも君は、お、と、こ、ま、え、やなあ…。おとこまえ言うたんやがな、アホやなあ。駅前の耳鼻科へ行け。

K やっぱり詐欺師や、やめさしてもらうわ。