クラスメート

『直樹、おれ、もう疲れちゃったよ』

 英明からメールが入った夜、直樹は夢を見た。英明が校庭の鉄棒で首を吊っていた。

 その紫色の唇が、な・ん・で・お・ま・え・ま・で…と動いた時、直樹は、わ!と叫んで目が覚めた。午前四時だった。

 直樹はその日、朝一番に英明の机と椅子を廊下に運び出す当番だったが、夢の中の英明の顔が怖ろしくて、どうしてもできなかった。

「てめえが当番だろうが!」

 塚本剛志が直樹の机を力任せに蹴る大きな音に、クラス全員が震え上がった。


 学校でどんな出来事があっても、家庭の日常は変わらない。

「もう…お皿の上で食べないから、パンくずがこぼれてるじゃない」

 佐和子は夫を睨んだが、

「またいじめで飛び降り自殺だぞ」

 浩介はテレビのニュースに夢中だった。

「自殺するやつは、いじめたやつの名前を書いて死ねばいいんだ。そうすれば学校も、いじめが直接の原因かどうか分からないなんて、とぼけたことは言えないし、いじめたやつは保護者もろとも社会的制裁を受ける」

「直樹は絶対に名前を書く側にも書かれる側にもならないでよ」

「…」

 直樹は返事をしないで靴を履いた。

 もういじめには加わらないと決めていた。小学生の頃からの友達が、夢の中で、死んで直樹に助けを求めている。毎朝、蝋人形のような顔で廊下から机と椅子を運び込む英明を、今日からは直樹が手伝ってやるのだ。

 教室に着くと、いつものように机と椅子が廊下に出されていた…が、それは直樹のものだった。

 戸惑う直樹を、英明が笑って見ている。