記者会見

 校舎の屋上から飛び降りた女子中学生のノートに、『これでいいんでしょ?さようなら』という遺書めいた走り書きがあったために、マスコミは記者会見を要求して学校を攻撃した。

「学校は自殺の理由をどう考えていますか?」

 という記者の質問に対し、

「担任が個別の対応をするのには限界がありますから、私どもは県下でもいち早くカウンセラーとソーシャルワーカーを設置しています。彼女のことはカウンセラーが対応していました」

 そうでしたよね?と校長は担任を見た。

「ええ、少し元気がない印象だったので、すぐに心理的支援を依頼しておきました」

 担任はそう答えて今度はカウンセラーを見た。

「カウンセラーは心理の専門家の立場で彼女と面接をしていかがでしたか?」

 マイクを向けられたカウンセラーは、手元の資料に目を落とし、

「心理テストの結果、自我が萎縮している感じはしましたが、病的な印象は受けませんでした。ただ、家族関係や交友関係については触れられるのを極端に避けていましたので、ソーシャルワーカーにその方面の支援を依頼しておきました。人は話したがらないところに問題を抱えているものですが、無理矢理聞き出すのはカウンセラーの役割ではありませんからね」

 カウンセラーはソーシャルワーカーを見た。

「…で、ワーカーはどう動かれたのですか?」

「デリケートな問題ですから、交友関係についての情報を慎重に集め始めたところでした」

「結局は遅きに失したということですね?」

 質問はソーシャルワーカーに集中して会見が終り、校長は小さな声で教頭にささやいた。

「君の言う通り、ソーシャルワーカーを配置したのは正解だったね」

「はい。一人の人間の問題は、学習、心理的支援、生活背景の調整などと、細分化すればするほど解決は遠のきますが、細分化しておけば攻撃の鉾先は鈍りますからね」

 教頭は得意げに胸を張った。