更生のステージ

 ステージに立って聴衆の注目を浴びながら、達也は、かつて暴走族仲間を率いて蛇行運転した時と同じ高揚感に浸っていた。世の中は正義などでは動いていない。達也が眉を剃り髪を染めて突出したワルになると、顔さえ見れば説教を垂れていた教員は関わらなくなった。暴走や窃盗や恐喝を繰り返し、十七歳の時に町のチンピラを鉄パイプで殴って失明させた。少年院から出て来た達也は、周囲が怯える分、肩で風を切って町を歩いた。

「誘われて暴力団に入り、薬物を売って荒稼ぎをしました。カネの払えない女には売春をさせました。この刺青はその頃に入れたものです」

 達也がステージ上で半身になって示す見事な昇り竜に、会場は固唾をのんだ。

「不倫現場の写真をネタにスーパーの社長を脅迫した事実が、自殺した社長の遺書でバレて刑務所に入りましたが、そんな僕をたった一人だけ、必ず立ち直ると信じてくれた人がいました」

 それは、おふくろです…という辺りから、いつものように会場の雰囲気はガラリと変わった。

「おふくろは一枚のタオルケットを差し入れてくれました。親父が女と逃げて、おふくろが働きに出た寂しさに、僕が片時も離さずに持っていたタオルケットです。いつもしゃぶっていたために端がボロボロになっています。ふいに真面目になろうと思いました。自分のして来たことをきちんと振り返るために書いた文章が、担当弁護士さんのお力で一冊の本になりました」

 福祉施設で働きながら、非行少年の更生ボランティアをしている達也は、今では家庭を持ち、こうして方々のテージに立っている。償うべき過去は印税と講演料になって、達也に同年の若者たち以上の生活を保障していた。

「どうか皆さん、立ち直ろうとしている少年たちに暖かい声援を送って頂きたいと思います」

 満場の拍手に送られて車に乗ろうとする達也に男が体当たりをした。達也の脇腹から見る見る真っ赤な血が噴き出した。男の右目は醜くつぶれていた。