報道写真

 容赦なくレンズに叩きつけては流れ散る大粒の雨がそのまま写り込んだために、写真はひどく鮮明さを欠いていたが、却ってそれがこの夏この地方を襲った豪雨の脅威を表していた。

 栄光の報道写真グランプリに輝いた俊行の写真がスクリーン一杯に映し出されると、会場はどよめきに包まれた。堤防の決壊で泥の海と化した町で、濁流に腰まで浸かりながら,懸命に電柱にしがみつく年配の男性の右腕は、幼い女の子をしっかりと抱きかかえている。そして女の子の腕の中では、ずぶ濡れの仔犬が不安な瞳を見開いていた。

「どうだい、こうして改めてスクリーンで見ると、雨の音まで聞こえるような迫力だなあ」

「あのお年寄りの険しい顔…。大きな責任を背負って運命と闘う男の目をしているわ」

「仔犬を抱いた女の子は、まるで母親のような表情じゃないか」

「二人が直面している恐怖を、仔犬の怯えるまなざしが見事に表現している」

「あれだけの豪雨の中で、これだけのチャンスとアングルを捉えるカメラマンの勇気と技術が人間の真実を伝えるんだね」

 集まった報道関係者の惜しみない称賛を遮り、表彰式に続いて俊行のスピーチが始まった。

「結局、現実という妥協の世界で生きる人間は、極限状態に置かれて初めて真実の自分と向き合います。濁流の中で男性は少女を救うために我が身の危険を乗り越え、少女は仔犬を抱いて離しませんでした。人間は決して利己的な存在ではありません。自分以外の命を優先させる力が宿った時、こんなにも輝くものなのです」

 …と、一人の老人がごく自然な動作でステージに上がって俊行と並んだ。被写体の高齢者だった。俊行は驚き、予定のサプライズイベントだと判断した聴衆は盛大な拍手で歓迎した。すると、両手で拍手を制した男性は、よく通る声で俊之にこれだけ言って会場を去ったのである。

「助けを求める私の目の前でシャッターを切り続けるあなたを見て以来、実は私は人間というものに疑問を抱いているのです」