茂治老人のダンス

 年に一度施設を開放して行うお祭りに、

「ロック?」

 スタッフは誰もが耳を疑った。

「お年寄りには普通、演歌か和太鼓でしょう」

「そうだよお前、地域ったって、参加するのはやっぱ、お年寄りが中心なんだぞ」

「どんなに素晴らしい演奏でも、田舎の爺さん婆さんにロックなんか聞かせてみろ」

「気絶するわよ」

「演奏する方は、ちゃんと相手がお年よりだって判ってるんだろうな」

「もちろんお伝えしましたよ。そうしたらリーダーが、亡くなった自分のお爺ちゃんに聞かせるつもりで心を込めて演奏しますって」

「本当にいいんですか?施設長」

 全員の視線が集まる中で、

「ま、せっかくの申し出だ」

 一つやってみようじゃないかと施設長が答えて、老人ホームを舞台にしたロックコンサートの準備が始まった。

 町にポスターが貼り出されると予想に反し、

「ロックですか…」

 と眉をひそめる人より、

「へえ!ロックなんだ」

 歓迎する声の方が多かった。

 当日は例年になくたくさんの地域の若者たちが加わって、ホールは不思議な熱気に包まれた。

 エレキギターとドラムが割れるような音を立てた。黒い革ジャンを着たボーカルの叫ぶような歌が始まると、若者たちは手拍子で反応し、老人たちは戸惑った様子だった…が、やがて、

「おい、見ろよ」

 スタッフたちは目を見張った。

 車椅子のお年寄りたちが不自由な体を揺らしてリズムを取り始めた。認知症のお年寄りたちが立ち上がって奇妙なダンスを踊り始めた。

 何よりもスタッフを驚かせたのは、楽しそうに踊るお年寄りたちの中に、日頃レクリェーションに参加したがらない茂治老人の姿があったのである。