財産管理

平成29年12月25日

「はい、おめでとうございます。125番台、フィーバーです。ジャンジャンバリバリ、ジャンジャンバリバリお楽しみ下さい」

 独特の口調のけたたましいアナウンスが店内に鳴り響き、隣りの台で足を組んでいた中年の男が、よし!とつぶやいて灰皿に煙草を押し付けたところで最後の玉が吸い込まれた。

 二回フィーバーしたところでやめておくべきだった。

 この台は出ると思うと離れ難くて、あんなに積み上げた出玉を全部注ぎ込んで財布が空になった。

「くそ!」

 パチンコ店を出てすぐ近くの牛丼店に向かおうとした和哉は、カネがないことに気が付いて、成年後見センターに自転車を走らせた。

 小林和哉の来訪に、

「え?またかよ…」

 うんざりした気持ちを押し隠して川崎社会福祉士が面接室のドアを開けると、緊張した顔で立ち上がった和哉が、

「一万円下さい。五千円でもいいです」

 と、いきなり右手を突き出した。

「小林さん、おカネは週に一万円ずつ渡してあるでしょう。昼は作業所の給食を食べて、夜は宅配の給食が届くのですから、一万円あればそんなに不自由はしないはずですよ」

「お、おカネ、落としてしまって、こ、困っているのです」

 和哉は嘘をつくとどもる。

「それはお気の毒ですが、月曜日にはまた一万円をお渡ししますから、あと四日、我慢して下さいね」

「い、今、牛丼が食べたいので、ご、五百円でいいから下さい」

「いいですか、小林さん、あなたの障害年金は月に六万円なんですよ。そこから光熱水費や保険料が落ちますから、月額四万円の生活でもぎりぎりです。給食費はお母さんが残してくれたおカネで支払っているんですからね」

「ぼ、ぼ、ぼくのおカネを、ど、どうしてぼくが、つ、つ、使えないんですか!」

 興奮すると和哉のどもりはひどくなる。

「センターは保佐人として小林さんの財産を管理する責任を負っています。それは小林さんも裁判所で説明を受けたはずですよね。入ってくるおカネを計画的に使って、ちゃんと生活ができるように、私たちはお手伝いをしているのです。今日は作業所を無断で休みましたね?連絡がありましたよ」

「…」

 何も言い返せなくなった和哉はこぶしを振るわせている。

「作業所も行けば行っただけ、わずかですが収入になります。無断でサボるとお昼の給食代が無駄になるんですよ」

 気まずい沈黙に耐えられなくて部屋を出て行く和哉の背中に、

「パチンコはだめですよ!」

 と声をかけたのがいけなかった。

 一時間ばかり残務の記録をし、駅に続く路地を曲がったところで、ふいに川崎の頭にビール瓶が打ち下ろされた。

 どさりと音を立てて転がった川崎を見て怖ろしくなった和哉は、血の付いた瓶を放り出して逃げ出した。

「ぼ、ぼくのカネだ、あいつが悪いんだ」

 興奮して自転車を漕ぐ三十五歳の若者は、パトロール中の警察官に自宅付近で保護された。