コンビニの巻き寿司

 コンビニで買い物をしていると、車椅子を押して、小柄なお婆さんが入って来た。椅子の上では痩せたお爺さんが、肘掛けを抱きかかえるようにして身体を大きく右に傾けている。

 言葉が不自由なのだろう、自由の利く左手でお爺さんが目当ての商品を指す度に、

「これですか?これは食べる時ポロポロ崩れて床にこぼれるから、あっちのパンにしましょうねえ」

「このあられは入れ歯では無理ですよ。もっと柔らかいのを探しましょう」

 にこやかに応対しながらゆっくりと店内を移動する老夫婦の姿はほほえましかった。

 介護する側もされる側も、終日家に閉じこもっていたのでは息が詰まる。してみるとコンビニという形式は、品揃えの豊富な便利な店という以外に、最も身近なバリアフリー店舗であるという意味で、もっと評価されていい…。

 そんなことをぼんやり考えている私の後ろを通り抜けて、二人はレジに向かった。

 私は二人の後ろに並ぶ格好になった。

 お婆さんが商品の入ったカゴをカウンターに置くと、お爺さんが無言で棒状の巻き寿司を一本差し出した。

「あれあれ、巻き寿司なんかいつの間に…。お寿司はまた家で作りますからね」

 受け取った巻き寿司をお婆さんが棚に戻そうとした時である。

「ワシノイウトオリニセンカ!」

 お爺さんの大声は確かにそう聞き取れた。

 レジの店員は棒立ちになり、店内の客たちは驚いて声の主を見た。お爺さんは車椅子を前後に揺らして別人のように興奮を隠さない。

「いつも穏やかな人が、巻き寿司一本ぐらいでどうしてまた…」

 はいはい買いましょう、買いましょうとあやすように言って、巻き寿司をレジに差し出したあと、お婆さんが小さな声でこう言った。

「我慢してるのはあなただけじゃないんですよ…」