七夕

 四十九日の法要が済むと弔問客も途絶え、

「お父さん、私たち、そろそろ帰るわね」

 不自由だろうけど、ちゃんと食べるのよと言いながら奈都子は荷造りを始めた。

「おじいちゃんも一緒に帰ろうよ」

 陽一にせがまれて啓介は相好を崩したが、いつの間にか一人娘が、実家に帰るのではなく、婚家に帰ると言うようになったことが寂しかった。

「俺は大丈夫だ」

 心配するなと二人を送り出すと、啓介は真新しい仏壇の前に座った。

(律子…)

 あの日、報せを聞いて病院に駆けつけた啓介の目の前に、律子は白い布で顔を覆われた姿で横たわっていた。死因は急性心不全だったが、元はといえば一昨年、胆嚢摘出のために入院した啓介に付き添ったときの過労が原因だった。

「痛む?」

 啓介の息遣いの変化を聞きつけて、心配そうに覗き込んだときと同じ目で、遺影が笑っている。

(おれが死なせたようなものだ…)

 通夜でも葬儀でも取り乱さなかった啓介が、初めて声を出して泣いた。やがて啓介は律子の夢ばかり見るようになった。

「痛む?」

 たいていは律子がそう言って啓介を覗き込むところで目が覚めた。これから啓介はこのマンションの一室で年を取る。病んでも付き添ってくれる人はいない。当てにしていたつもりはなかったが、失ってみると、突然行く手が暗い夜道になってしまったように心細かった。

 週に一度はかかってくる奈都子からの電話に、

「おれは元気だ。心配するな」

 いつものように嘘をついた朝、郵便受けに一通の封書が届いた。裏に大きな字で陽一の名前が踊っていた。中に折りたたまれた画用紙には青々と七夕の笹が印刷してあって、陽一の短冊が何枚も貼り付けてあった。

『おじいちゃんがいつまでも元気でいますように』