地域再生

 額に汗を滲ませながら集会場にやって来て、

「大崎さん、そっちはどうでした?」

 と水口は聞くが、棟が違うからといって、同じ団地の住人の反応に差があるはずもない。

「相変わらずみんな非協力的です」

「本当に地域は壊れたのですね」

「だからこんな活動が必要になったのですよ」

 三ヶ月前、戸数が二千余りのマンモス団地で孤立死が発生した。臨時の自治会が開催されたが、

「隣り近所が助け合うしかないでしょう」

 という意見は出るものの、具体的な解決策は見つからないまま、有志によるNPO法人が組織された。一人暮らしの高齢者を調査して定期に見守ろうという組織だったが、管理事務所は入居者の世帯構成を把握していなかったし、市役所は個人情報保護を理由に情報提供を拒んだ。

「この際、こうして手分けして全戸を訪問調査するというのも意味がありますね」

「ええ。近所付き合いなど復活する余地がないことが分かります。みんな近所にどんな人が住んでるか、知ろうともしないのですからね」

「まあ、そういう私も現役時代は地域には無関心でしたから、人を責めることはできません」

「この活動に加わって初めて地域の大切さを認識しましたが、再生するのは至難の業ですね」

「ところで、松沢さんはどうかされました?」

 そう言えば集まった二十人ほどのメンバーの中に松沢の姿がない。

「今、携帯電話をかけていますが、出ません」

「家の電話にも出ませんよ」

「奥さん亡くして一人暮らしでしょ?何かあったのかも知れない。部屋を見て来た方がいい」

 やがて救急車のサイレンがけたたましく近づいて、慌しく走り去った。

 数日後、病室を見舞った仲間たちに、

「早く発見して下さったお陰で、麻痺も残らなくて済みました」

 嬉しそうに頭を下げる松沢を見て、地域は再生に取り組んでいる側で再生してゆくものなのかも知れない…と大崎は思った。