鉢植え

 何かオヤジに送ってくれたかと昌樹に聞かれて、しまった!という顔で律子が舌を出すと、

「いいよ、明日、おれが適当に送っておくから」

 父の日に息子の嫁さんからプレゼントが届くという事実に意味があるんだと言って、昌樹は近所の花屋から鉢植えを送った。レジの店員に昌樹が無理を言って、女の字で書いてもらったメッセージを達彦はベランダで読んだ。

『一人は淋しいでしょうが、鉢植えの世話でもして元気でお過ごし下さい。夏に小さな花を見せて下さいね…律子』

 昌樹のやつ、いい人を嫁さんにした…。

 段ボールを片付けようとして肘が植木に触れた。砕け散った鉢植えを前に達彦はうろたえていた。いつか息子夫婦も自分たちと同じように別れるのではないだろうか。

「買い物も満足にできなくなったおふくろを一人にしてはおけないだろう」

「こんな都会のマンションに引き取ったら、もっと分かんなくなるわよ」

「だったらこっちが田舎に越せばいい」

「私は無理よ。NPOの役があるもの」

 結局、達彦が二度目の仕事を辞めて実家で母親を看終えたが、平然とボランティア団体の役員を務める妻との間には埋め難い溝ができて、二人は昌樹の結婚を待って離婚した。人生には節目節目に落とし穴がある。いつか達彦の存在が息子夫婦の関係を壊さないとも限らない。

 達彦はかけがえのないものを拾い集めるように、散乱した土をかき集めた。ありあわせのプランターに植えた木は、しかし、見る見る葉を落として二週間余りで枯れた。

 枯れ木と陶片を持って、達彦の花屋巡りが始まった。夏に息子夫婦が遊びに来たときには、花を咲かせていなければならない。四軒目でよく似た鉢植えが見つかった。大切に世話をして、白い小さな花がたくさんついた頃、鉢植えのことなどすっかり忘れた昌樹からメールが入った。

『夏は念願の沖縄に行ってきます。向こうから土産を送るので、楽しみにして下さい』