電飾花壇

 押入れを開けて探し物をしているうちに、自分が何を探しているのかが分からなくなった。

 代わりにプラスチックでできた黄色いクマの人形を発見したマツエの脳は、鮮やかに三十年前にタイムスリップした。

「ダメだよ、おふくろ、甘やかしちゃ」

 と険しい顔をする正行を無視して、大きな黄色いクマをレジに置くマツエの腰に、

「お婆ちゃん、大好き!」

 孫は抱きついて頬ずりした。

 それにしても正行は怖い顔をする。

「きっと後ろで嫁がうるさく言うんだわ」

 孫が私になつくのが悔しいのよね、と同意を求められて、

「子育てには親の方針ってものがあるからな、逆らうとこの家に寄り付かなくなるぞ」

 と答えた夫の言葉通り、長男一家の足は遠のいた。

 その夫も七年前に死に、一人になったマツエの脳は急速に現実処理能力を失って行った。

 マツエは黄色いクマを玄関先の花壇に置いた。それを見て、

「あ、プーさんだ!」

 母親に手を引かれた保育園児が、あの時の孫によく似た顔で笑って以来、マツエの奇妙な行動が始まった。

 家捜しをして、子共が喜びそうな人形と見ればせっせと花壇に並べた。平行して家はゴミ屋敷になった。拾っては並べ、購入しては並べしているうちに、不要になった人形をこっそり捨てて行く人まで現れた。

 マツエは花壇を色とりどりの電飾で飾って、夜になると電気を点けた。ゴミ屋敷の人形花壇は地域の話題になったが、玄関先の椅子に腰を下ろして光る花壇をじっと眺める老婆の姿を気味悪がって誰も声をかけなかった。

 ここ数日、昼間も電飾が点いていることを不審に思った町内の役員が、玄関の引き戸を開けたと思ったら転がり出て携帯電話をかけた。

 マツエが座ったままで死んでいた。