連休

 温暖化の影響だろうか、春はあっけなく通り過ぎ、ようやく五月に入ったばかりだというのに、陽射しはまるで夏日のように八十歳の痩せた体に照り付けた。

「ふう…今日はここまでだ」

 鈴子は手拭いで額の汗を拭って立ち上がり、取った雑草を畑の隅に勢いよく積み上げた。

 取っても取っても草が生える。

(私が死んだら、この畑はどうなるのだろう…)

 早咲きの菊を一束、カゴに積んで自転車を漕ぎながら、鈴子は、今年の連休も帰って来なかった東京の達彦を思った。

(ん?)

 町内に白いワゴンが停まっている。

「あれ、まあちゃん、来たんかね」

「連休はうちで過ごせって、息子がきかねえもんだから」

 電動のステップに乗って車椅子ごと路上に降りた正子の両脇で、達彦と同じくらいの年恰好の夫婦が控えめに会釈をした。

 鈴子は羨ましかった。

 元教員の正子の共済年金は、鈴子の国民年金の三倍近くの金額だった。地元の農協に勤めた息子夫婦は優しくて、折に触れては正子を施設から連れ帰った。それに引き換え達彦は、嫁に気兼ねして最近では正月も帰らない。

「これ、少しで悪いけんど…」

 仏壇に飾ってくれと菊を半分渡して鈴子は再び自転車にまたがった。

「いつも、ありがとなあ」

 後姿に声をかけながら、正子は鈴子が羨ましかった。

 夫に先立たれた同級生同士だが、片や自転車が漕げるのに、正子の左半身は全く動かない。長男からは、元気なうちに土地家屋を弟ではなく自分に残す内容の遺言を書いてほしいと依頼されていた。

「おふくろ、敷居またぐよ」

 と言われ、正子は慌てて車椅子のアームにしがみついた。