いじめの理由

　由美がふさぎこんで登校しなくなった原因が、複数のクラスメートからの無視であることを聞き出した亜希子は、

「あなた、これはいじめよ。何とかできないの？」

　仕事から帰った弘之に詰め寄った。

「無視？」

「仲良くしていたお友達が全然口を利いてくれないんだそうよ。可哀想に…」

「理由は？」

「解らないから手に負えないんじゃない」

　アルバイトの時みたいに野口先生にお願いしてみてよと言われて弘之は、早速手土産を持って野口を訪ねた。

　生徒指導の野口は、弘之の大学時代の同級生で、何人かの生徒のアルバイトが発覚した時も、保護者を呼び出しての校長訓戒ではなく、由美だけは反省文で済ませてくれた。

　訓戒か反省文かでは，大学進学時の推薦にも影響がある。

「私学ってとこは、案外俺みたいな古株の顔が利くんだ。任せておけ」

　頼もしく請合った野口は、翌日、由美と同じクラスの千夏をこっそり呼び出した。

　この種の問題はいきなり教員が乗り出せば、こじれるに決まっている。だから有能な生徒指導の教員は、生徒の実情を内部から探る、言わばスパイを何人か抱えていた。

「な？先生は由美が無視されている理由を知りたいんだ。いつものように上手く探れるか？」

「はい。そういうのは簡単に解ると思います」

　それから二週間とかからず、千夏が報告に来た。

「夏休みにアルバイトをしていたのがバレて、みんな校長訓戒を受けたのに、由美だけが反省文で済んだのが原因のようです」

　そして、処分の不公平はＰＴＡで問題にすべく、今保護者たちの間で話し合いが進んでいるらしいという情報を得意げに付け加えた。

終