ワイドショー

 いつものように無言で箸を運んでいた父親が、

「おい、テレビ消せ!」

 たまりかねたように大声を出した。

「警察官が恋人を撃って自殺しただの、政治家が不正を働いただの、母親がわが子を殺しただの、朝からそんな話ばっかり聞かされて満員電車に乗ってみろ。せっかく新しい一日を始めようとしてるのに、気持ちがトゲトゲしくなって人間に敵意を抱いてしまう」

 専業主婦のお前には解らないだろうと言われた母親は、

「そんな言い方しなくてもいいでしょ!」

 怒ったようにテレビを消した。

 信幸にとっては、そんな両親の会話こそトゲトゲしい。

 急に無言になった食卓が気まずくて、信幸は今日もいじめられている事実を打ち明けられないまま登校した。


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 同じ頃、俊彦はマンションを出るなり、勢いよく路上に唾を吐いた。

「あなた、またどこかの中学の校長が謝ってるわよ。いじめられた生徒が遺書書いて自殺したんだって」

「いじめるやつ、死ぬやつ、謝罪する校長…。要するに学校が崩壊しているんだぞ。いや、学校は一つの現象で、結局は政治が腐敗してるってことかもな。贈賄、収賄、隠蔽…。日本も下らない国になっちまったもんだ」

 朝のワイドショーを見ては繰り返される両親のやり取りが、俊彦の口中で粘着質の唾液になっていた。

 校門で出会った同じクラスの信幸が、慌てて目を逸らした。それが俊彦の癇に障った。

 何という卑屈なやつだ。成績がいいからって、見下すんじゃないという警告はこれまで何度もしたつもりだが、すればするほど無視を決め込む態度は許せない。

『またしても俺を馬鹿にしたな。慰謝料は五万円だ。金曜日の放課後までに下駄箱に入れておけ』

 信幸は携帯のメールを読んで密かにナイフを準備した。

 五万円はこれまでで最高の金額だった。

 俊彦の背後に忍び寄りながら、しきりに口が渇いたが、先日サスペンスドラマで見た通りに体当たりした。


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「何と中学生が同級生を刺しました。世の中をこんなにも殺伐とさせる原因は一体どこにあるのでしょう」

 早速、事件をおどろおどろしく報じたワイドショーは、

「一旦お知らせを挟んでスポーツです」

 洗剤のコマーシャルに変わった。