マル秘資料

 配布された資料には、森本達也の家族状況を詳細に説明したプリントの他に、細かく破られた紙片を丹念に復元した手紙のコピーが添えられていて、どの資料の欄外にもというゴム印が黒々と押されていた。

『先生助け くださ 森本くんにいじめられていま  ぼくはも 我慢ができま  』

 職員室のゴミ箱で発見されたという手紙は、所々が欠けてはいるものの、ぼくと書いてあるところから見て、明らかに男子生徒からのSOSだった。

「…という訳で、対処が後手に回らないために、いじめの兆しを発見した段階でお集まり頂いた次第です」

 校長は、設立されたばかりのいじめネットワークを早々と召集した理由を挨拶代わりに述べたあと、

「手紙はなぜ破いて捨てられていたのか、どうして職員室のゴミ箱なのか、謎だらけですが、事情は担任から…」

 陽子の発言を促した。

 零細なスーパーを営む達也の家族の状況と学校での様子を資料に基づいて説明した陽子は、

「慎重に事実関係を把握してご報告いたしますので、皆様もどうか、それぞれのお立場でご協力をお願いします」

 児童相談所、教育委員会、児童委員の意見交換の進行を担当してその晩は散会した。

 翌日、陽子は手紙の文字を生徒全員の作文と照合した。

 いくつかの筆跡が高木文彦の癖と一致した。

「これ、あなたが書いたのよね?」

 手紙と作文を並べて見せられた文彦は、頑なに身体をこわばらせていたが、やがて思いがけない告白をした。

「ごめんなさい。ぼくのいたずらでした」

 手紙が発見された後の反響が楽しみだったと言う。

 二回目の会議で陽子の報告を聞いた関係者は一様に驚きを隠せなかったが、三回目の会議はさらに衝撃だった。

「え?森本達也の母親から抗議を受けたのですか?」

「一応いたずらだと説明したのですが、いたずらの的にされること自体、達也は被害者だとおっしゃって…」

「しかし、手紙は先生が最初に発見したのでしょう?どうして森本の母親が知っているのですか?」

「確かにそこが不思議な点でして…」

 どうやら学校の情報管理は杜撰なものらしい。同じ学年に孫が通う山口児童委員としては、他人事ではない。

 山口は帰宅すると、いつものように会議の資料を居間のテーブルに置いて風呂に入った。

 それを嫁の和代が興味深そうに読んでいる。