近所付き合い

 美知子の通夜はにぎやかだった。

「何でこないええ人が先逝くんやろ」

「ほんまや。みっちゃん居いひんようになったら寂しなるでえ」

「みっちゃんの家がうちらのたまり場やったさかいなあ」

「けど、だんなはいけずな人や。うちらが来ると、挨拶もせんとぷいっと出て行っきょる。顔見るだけで気分悪いわ」

「しっ!来はったで。聞こえるがな、アホやなあ」

 隆造がトイレから戻ると、セレモニーホールの隅でひそひそ話しをしていた美知子の仲間たちは、そそくさと帰って行った。

 あの連中ともこれで縁が切れる。

 美知子の人の好さにつけこんで、まるで自分の家のようにやって来ては居間を占領する近所の主婦たちを隆造は大嫌いだった。

 ケーキまで用意してコーヒーを入れる美知子を、

「うちは喫茶店やないで!」

 怒鳴りつける隆造に、

「知ってる人もない団地に家買うて、ようやくできた友達やもん。大事にしたいんや」

 珍しく抵抗した美知子は、葬儀が済むと小さな骨になった。

「お父ちゃん、一人は不便やろけど、ちゃんと食べるんやで」

 長女が嫁ぎ先の岡山に帰り、

「親爺、力落とさんといてな?」

 長男が東京に帰ると、寒々と広くなった家に訪ねてくる者はなかった。

 気がつくと終日誰とも口を利かないで過ごしていた。

 やがて小さな庭に草が生えた。

 外食が増えた。

 たまった汚れ物を洗濯すると、物干し竿のほこりでタオルに黒い線がついた。

(美知子は竿を拭いてから干してたんや)

 雑巾で竿を拭おうとして隆造の足首に激痛が走った。捻挫だった。

 その場にうずくまったまま隆造は愕然とした。

 助けを乞う近所付き合いがなかった。