比喩

 比喩、つまり喩え話は、ものごとを単純化します。事態の輪郭をくっきりと解りやすくします。出来事の本質を衝いて印象深くします。

「手を伸ばせば青く染まってしまいそうな晴天」とか、「天空で巨大なダムが決壊したかと思うような大雨」とか、「洗面器ほどの鍋の中で油が煮えたぎるような拍手の音」などは対象を生半可な形容詞以上に生き生きと描写します。

 しかし、「黒山の人だかり」とか、「死んだように眠る」とか、「蜘蛛の子を散らすように逃げる」といった使い古された表現は新鮮さがありませんから、どちらかと言えば避けたい表現です。人ははっとするような思いがけない表現に出会った時、心揺れるのです。

「あの二人は、なめくじとかたつむりが並んで歩いているようなものです。何をするのもゆっくりしてますよ」とか、「買ったジーパンの裾直しが不必要なくらい長い脚」などと表現すれば、聴く者の胸には鮮やかなイメージが浮かぶことでしょう。

 さらに喩え話は、使いようによってはもっと高度な効果が期待できるのです。

「人間なんて考えてみたら糞尿製造機みたいなものですよ。食って出し、食って出しして死んで行くんですからね。ただ、他の動物と違って、食ったエネルギーで余計なことするから困るんです。戦争とか自然破壊とか」

「人は一冊の本だと思いませんか?必ずその人だけのオリジナルな物語が書かれている。ただ、本にもタイプがありますね。文学だったり週刊誌だったり漫画だったり…。いい悪いじゃないですよ。読みたいかどうかということです」

「人間関係はキャッチボールです。来た球は受けて投げ返す。この件に関して私は心から謝罪しました。球を受け止めて、許す許さないはもう私の問題ではなくて相手の問題です。許されなければ友人を一人失うだけです。友人を失うと言うと哀しい感じがしますが、関係が変質するのですからね。仕方がありません」

「過去って物語でしょ?事実だけで構成された過去なんてありません。あの時は嬉しかったとか、悔しかったとか、自分が与えた意味の連続として存在しています。つまり物語りなんです。削ることも付け加えることも、ひょっとすると書き変えることだってできるのですよ。それを一緒に行う作業がカウンセリングですよね」

 こんなふうに表現すると、冒頭に書いたように、論旨は単純化され、輪郭が明確になり、本質があらわになって、とても印象的になるでしょう?比喩を使用した効果です。

 様子や形状を形容する目的ではなくて、思想や考察を比喩で象徴させるテクニックは、少し熟練を要します。これもネタ拾いと同様に、日常の中で感性を研ぎ澄まして、「改札口から吐き出される背広軍団は黒い溶岩のようだ」とか、「文明なんてわずかな停電で止まってしまうのだから、電池で動くオモチャのようなものだ」とか、「おい、お茶って、わずか六文字でお茶持って来るんだから、言葉ってリモコンみたいなものだ」とか、とにかく訓練することです。効果的に比喩を用いること。これを今回のコツにいたしましょう。