反応時間とスピーチの速度
いろいろなところで講演という形式の長時間のスピーチを重ねて来ますと、気がつくことがあります。
まずは男は反応が鈍いということです。かなり感動的な話をしても、男は笑いません。泣きません。表情を変えません。まるでウンコでも我慢しているみたいな顔をしてじっと講師を睨みつけています。そこへ行くと女性は自由です。一度笑ったら最後、感情の失禁状態です。中にはハンカチ出して、メガネをはずして、一旦涙を拭いてから、そのハンカチでズズッと鼻かんだりする女性もいますが、そこまで感動していただけるのは講師にとって光栄なことであると同時に少し迷惑です。これが同じ女性でも若い女性になると、男とはまた違った意味で不自由な美意識に縛られているのでしょう。感情を表すのにはためらいがあるらしく、中年の女性軍に比べると反応は控えめになるようです。
ところが聴衆が高齢者の場合は大変です。反応があったら儲けものというぐらいのつもりで臨まないと、講師のプライドが保てません。もちろん年齢や、聴衆の集め方にもよるのでしょうが、無理やり動員されて、半分拉致のようにして連れて来られたお年よりなどは、席に着くが早いか顔を天井に向け、目を閉じ、口を開けて、ひょっとしたらあの世の入り口辺りをうろうろしているのではないかと思うくらい深い眠りに入ってしまう人もいます。ここで笑わなきゃ人間じゃない!という場面でも、たくさんのお年よりたちが、まるで遺体のような顔でぼんやりこちらを見つめていたりする時は、それでもめげないで話しを続ける修行の場が与えられたのだとでも思わなければステージに立ってはいられません。
反応の速度には地域差があるようにも思います。一般に都市部では速く、田舎ではゆっくりのような気がします。世の中が変わったとはいっても、やはり田舎の暮らしはのんびりしていて、それが頭の回転にも影響するのでしょう。面白い話をしても、面白いなあ…と解るまでに少し時間がかかります。あ!面白いぞと笑いのスイッチが入る頃には、既に哀しい話題に変わっていて、哀しい話だなあ…と解るまでにまた時間がかかるために、聴衆は笑いそびれ、泣きそびれ、常に感動のタイミングがズレたまま、話す側から見ると何の反応もない頼りない会場だったという結果になるのです。
つまりスピーチを効果的にするためには、聴衆の反応時間に合わせて速度を調節しなければなりません。反応時間はあらかじめ解るものではありませんから、話し始めて聴衆の反応がゆっくりであれば、話す速度もゆっくりにするのです。ところが、ゆっくり話すと予定の内容が与えられた時間内に納まりません。そこでスピーチは、別のところでお話したように、短いエピソードをつなぎ合わせて構成しておくと便利なのです。終了時間を考えながら、エピソードを省いてゆく技術は高度な技術に属するとは思いますが、大切なテクニックです。そのためにも、短縮自在な構成でスピーチを組み立てておくことと、聴衆の反応を確かめながら話を進めることを今回のコツといたしましょう。
終