意外性

 私たちの使っている日本語は、最後まで聞かなくては意味が解らないのが特徴です。

「明るいうちに家に帰って来るな」

 というのと、

「明るいうちに家に帰って来るよ」

 というのは全く違う意味になります。

 これをうまく使うと、意外性を演出して笑いを誘い出す大きな効果が得られます。

 たとえば、

「うちのカミさんはですよ、朝早く起きて犬の散歩を済ませると、牛乳を冷蔵庫にしまってですね、私が起きたらすぐに読めるように新聞をテーブルの上に置き、家中にざっと掃除機をかけて、手際よく朝食の準備を整えると、味噌汁の匂いの中から、あなた!あなた!そろそろ起きないと遅刻するわよ・・・というようなことを一切致しません。」

 「たいていは私が先に起きて、原稿か何かを書きながら、腹が減ってますからね、もう起きてくるかな、もう起きてくるかな…とやきもきしたあげく、我慢できなくなって玉子かけご飯をかきこんだところへ階段を下りて来ましてね、あら、先に食べちゃったの何かつくろうと思ったのにって言うのが、出勤十五分前ですからね」

 前段の、一切致しません…までのところに今回のテクニックが使われています。

「その時はさすがに腹が立ちましてね。目の前で弱い者がいじめられてるのですよ。そこで、そいつの腕をぐいっとつかんでですね、君、やめたまえという勇気が私にあれば、どんなにいいかと思いました」

「いい天気が続きますよね。こんな日には朝早くからお弁当をこしらえて、近くにある天王山という小高い山に登ってですよ、気持ちのいい汗をかくという人がいるようですが、私にはできません。この体でしょ?運動は苦手なんです」

「私の夢は、有名になってですよ、最初は県会議員ですが、やがては国会に出ましてね、この国のあり方に深く関わりたいなどという大それた夢ではありません。一度でいいからカミさんに起こされて目覚めたい…。ささやかな夢なのです」

 どれもこれも、聴く者の期待を裏切る意外性が特徴です。通常の話しの流れが、ちょっとした言い回しでクルッとひっくり返ることで、聴衆は目の前で手品を見たような新鮮な驚きを感じます。時折はこんな技術も駆使しながら、魅力的なスピーチを演出したいものですね。