ゴロあわせ

 同義語の多い日本語の持つ特色なのでしょうか、日本人は昔からゴロあわせが大好きです。お正月料理には昆布(喜ぶ~よろこンぶ)、黒豆(まめ~元気の意)、鯛(めでタイ)、たつくり(田作り~豊作)などがつきものですし、庭にはかりん(借りん)、棒樫(貸し)、南天(難を転ずる)がつきものです。反対に病院には死を連想する四号室はありません。飛騨高山では「めでた」という祝い歌を歌う時、「枝も栄える葉も茂る」の「しげる」に「死」が含まれているのを気にして、「葉もしゅげる」とわざわざ訛った発音をしています。みんなゴロあわせです。ばかばかしいとは思いますが、日本人は同義語に心をとめて、そこからの連想を楽しんだり恐れたりする感性を持っているのですから仕方がありません。否定するよりは利用する方が生活は豊かになるでしょう。

「今年の残暑は凄いですねえ。私んち、クーラーが壊れたのを機会に、あんな環境に悪いものはやめまして、扇風機にしましたから大変です。あ~つい、暑い。しかし、暑さ寒さも彼岸までと言いますからね。彼岸になれば涼しくなります。これひがんで言ってるんじゃないですよ」

 とか、

「日本列島が狭くなりましたよね。昔は連絡船で行き来していた本土と島が、ほとんどトンネルや橋でつながりました。青函トンネルでしょ、関門トンネルでしょ、瀬戸大橋でしょ、あとは佐渡ケ島ぐらいですか?船が通ってるのは…。便利になりました。しかし駆け落ちするカップルには船の方が便利だったみたいですよ。船に乗ってしまえばもう追いかけられませんからね、次の連絡船までは。本土へ着いて男がですね、おい、ご両親今頃心配してるから、駆け落ちしたこと電話しとけやと言ってもですね、絶対に連絡をしなかったそうですね。連絡船ですから」

 といったゴロあわせは、たいした意味はないのですが、何だか目の前がパッと開ける感じがしませんか?ちょうど悪意のないイタズラにまんまとひっかかってしまった時のような爽快感で思わず笑ってしまうでしょう?これをスピーチに利用しない手はありません。聴衆の緊張が高まって、そろそろ息抜きが必要かなと思うタイミングで、絶妙なゴロあわせを用いるのは、ちょっと高度なスピーチのテクニックといえるでしょう。