笑いを誘う想像力

 スピーチはどんなに内容がよくても単調だと退屈で、変化に富んでいる方が聞く者の心が揺れることは前に書きました。特に適度にちりばめられる笑いは、ふと緊張をほぐすのには効果的です。ゴロ合わせの技術については既に説明済みですので、ここでは笑いを誘う想像力についてお話ししましょう。

「いやあ、今年の残暑は半端じゃないですね。犬なんか毛皮着てますから大変ですよ。だら~っとして、はあはあ、はあはあ、やってますもんね。あれ、舌だけなんでしょ?汗かけるのは。気の毒です」

「しかし、ディズニーランドのぬいぐるみの中に入っているアルバイトも死にそうでしょうね。われわれはこうして部屋の中でクーラーつけて、それでも暑い暑いなんて言ってるんですが、彼らは炎天下でぬいぐるみですからね。しかも派手に動くわけでしょ?」

「ミッキー、写真撮ってえ!なんて言われて可愛くポーズとったりしていますが、中の人はもう、はらわた煮えくり返っているんじゃないですか。髪の毛なんか蒸れてワカメみたいな状態になっているでしょうしね」

「本当は木陰で寝ていたいんだと思いますよ。でも、変ですからね、ディズニーランドへ行ったらミッキーもミニーもドナルドもみんな木陰でドテッと寝てたりしたらね」

 といった調子です。

 暑いという状況を延長させて想像をふくらませると、こんな笑いを作り出すことができるのです。冒頭に適度にちりばめられた笑いは緊張をほぐすといいましたが、暑い寒いといった挨拶の段階ではなく、本題に入ってからも、会場の雰囲気が硬いなあ…と感じたら、この手法を使うとなごみます。

「やがて四人に一人がお年寄りという社会が来ます。さらにこの調子で高齢化が進むと、立場が逆転しましてね、四人に一人が若者なんて時代が来るかも知れませんよ。そうなったら大変ですよ。若者の方が肩身が狭くてですね、今はシルバーシートですが、若者を大切にしましょうというんでヤングシートなんてのが作ってあったりしてね、車内アナウンスが入るんです。若い人は疲れています。車内で若者を見かけましたらどうか席をお譲りくださいなんてね。デパートの売り場でも若者コーナーを探すのは苦労ですよ。ほとんどがお年寄り向けの服や数珠や、高級仏壇や、おしゃれな尿瓶コーナーなんてのばかりですからね。中古の入れ歯特選展示場だのシャネルのデザインオムツのコーナーなんかの横にひっそりと若者向けの売り場があるんですが、いらっしゃいませ!と相手してくれるのは八十歳のデパートガールですからね。何とかして出生を増やして、この辺りで高齢化を食い止めなければなりません」

 といった調子です。

「雪が降りましたね。外は真っ白です。しかしあれ、白くて助かってますよ。雪が赤かったら恐らく赤信号は識別できないでしょう。第一気持ち悪いですよ、世の中が真っ赤なんですから」

「私ね、動物がしゃべるアニメとかが嫌いなんですよ。ウサギがしゃべったりゾウがしゃべったりするでしょ?」

「でもね、本当に動物がしゃべったら困りますよ。犬の散歩の時なんか、もっと遠くまで連れてけよ…なんて言われますからね。魚釣ったりすると、釣れた魚がイテテ、イテテ、何すんだよ!なんて言いながらあがって来ますからね。食えませんよ」

 想像ですから自由自在です。

 リラックスしたスピーチにするために、笑いを誘う想像力を磨きましょう。