いびき

平成15年07月04日

 誘われて久しぶりにコンサートに行きました。

 巨大な会場は三階席まで埋まってしまい、たった一人の歌手の魅力が、こんなにも大勢の人間を集める力を持つことにまずは感動しました。しかも観客は一人七千円近いおカネを支払って入場しているのです。ええっと、三千人入っているとして、千人で七百万だから、その三倍で二千百万円!一晩で…いや正確にはわずか三時間で二千百万円!ということは、一時間七百万円、三十分三百五十万円、十分十五万円…一分が一万五千円…。一分で一万五千円!!!これはおいそれと眠る訳には行かないぞ…などと愚にもつかぬことを考えているうちに会場は暗くなり、コンサートが始まりました。ところが、静かになった会場の、ちょうど私の後ろあたりから、早速いびきが聞こえ始めたのです。

 いびきは時に思い出したようにガガガ!と大きな音になり、あとはゴワーッという低い呼吸音が規則正しく続きます。誰や、非常識な…と、複数の観客が後ろを振り返るのですが、暗くて音の主は判りません。いえ、たとえ判ったとしても注意する訳にはいきません。コンサートの最中に注意すれば、今度はその声が周囲の迷惑になるでしょう。それにしても歌が始まると同時に眠りこけるなんて、よほどお疲れのサラリーマンがお付き合いで参加したのかな?いや、これがお年よりであれば脳梗塞なんてことも考えられるぞ。それにしても隣りの席の人はどうして突付いて起こしてやらないんだろう…などど例によって余計な想像がふくらみ始めると、肝心のコンサートに集中ができません。その間も間断なくいびきは続いています。いずれにしても放っておくべきではありません。休憩時間になって会場に明りが戻って来ました。いったいどんなやつだ…と立ち上がってふり向いた私は、頭の中が真っ白になりました。十五、六才と思しき年齢の重度の障害児を抱えた母親が、本人のよだれをハンカチで拭いながら、厳しい表情で座っていたのです。