中国人の疑問

平成15年07月21日

 中国人の友人を加えてダム湖のほとりに一泊旅行をしました。窓の外には満々と水を湛えた緑の湖が広がり、生い茂る夏の山が、ふもとを見せないまま湖水に没しています。

「ここで泳いだら気持ちいいですね」

「ここはね、遊泳禁止です、解りますか?泳いではいけないのです」

「おお、遊泳禁止、解ります」

 漢字の国の人にとって四文字熟語は理解し易いのですね。

「しかし、なぜ禁止ですか?警察来ますか?」

「警察来ますよ。泳ぐと危険だからです」

 彼と話していると、こちらの日本語まで怪しくなるから不思議です。

「それ、ちょと変ですね。こんなところ、泳ぎに自信のある人しか泳がない。危険大丈夫、ああ?」

 ああ?というのは「そうでしょう?」と同意を求める時の表現のようです。

「過去に誰かが溺れて死んだんだと思うよ」

「ちょと待て、ちょと待て」

 そこ私、日本人理解できません・・・と彼は気色ばんで言うのです。

「交通事故、どうですか?たくさんの人が、ああ?死んでます。しかし、しかし、車の運転禁止しません。道路通行止めしません。泳いで溺れる人、ほんの少し。一人二人溺れるの恐れて、たくさんの人の楽しみ禁止するの変。そうでしょ?ああ?」

 ああ?と言われても困ります。

「日本はそういう国なんだよ」

 と答えながら私は、いつからこんな国になったのだろうと思いました。遊泳禁止の赤旗が登場したのは小学生の頃でした。通学路が決められたのも小学生の頃でした。そういえば、公園の遊具で子供が怪我をすると、一斉に遊具を撤去した自治体もありました。

 遊覧船乗り場に向かう間も、彼は自己責任の大切さをたどたどしい日本語で力説していました。確かにこんなことを続けていると、子供っぽい国になってしまいます。いや、既にこの国は、他の国に気後れを感じてしまうほど、十分に幼稚な国であるような気もします。と、目の前に古ぼけた桟橋が見えました。そして、張り渡したロープの中央で立入禁止の札が風に揺れていたのです。