露出狂の時代

平成15年09月09日

 おなかが空けば食欲を意識するのは本能ですから、それを非難する人はいないでしょう。しかし、空腹に苦しむ人の目の前にご馳走を見せ付けて食べることを許さないとしたら、彼はどうなるでしょう。にわかに禁を破って食べ物にむしゃぶりつくか、そっと手を伸ばして、見つからない程度に口に入れるか、あるいはひたすら欲望を封じ込めて無気力になるか、選択肢は限られています。いずれにしても、ご馳走を見せ付けた人は、むごいことをする人物として非難の対象になるでしょう。

 女性の肉体に対して男性が性的関心を寄せるのも本能ですから、これを非難するわけには行きません。しかし、その男性の目の前に露出した女体を見せ付けて触ることも見ることも許さないとしたら、彼はどうなるでしょう。にわかに禁を破って女性にむしゃぶりつくか、そっと手を伸ばして見つからない程度に接触を試みるか、あるいはひたすら欲望を封じ込めて無気力になるかのいずれかしかありません。

 ところがご馳走の場合と違って、肉体を見せ付ける女性は非難されるどころか、ますます増えているのです。

 肩まで露わになった腕、大胆にカットした胸、無防備に露出した背中・・・。最近では腹部を出し、しゃがむと下着の見えるパンツやスカートを身につけた女性も珍しくありません。それが満員電車で男性と密着して、あるいは周囲に警戒に満ちた視線を送り、あるいは被害者のように目を伏せて耐えているのです。乗り合わせた男性たちは大変です。誤解されないように両手でつり革につかまり、読みたくもない車内広告をにらみつけ、欲望の存在から目を逸らしながら電車の揺れに身を任せるしかありません。

 そう言えば昔、白いヘルメットを被ってスクーターにまたがった小川ローザというタレントのスカートが風にひるがえり、「おおモーレツ!」というコピーが流れるガソリンのコマーシャルがありましたが、男性の劣情を刺激する映像ではないかと当時問題視されました。しかし、昨今の若い女性のファッションは小川ローザの比ではありません。何も江戸の昔までさかのぼらなくても、小川ローザに胸ときめかせた時代に現代の女性たちが登場すれば、間違いなく露出狂と言われたことでしょう。

 時代は移り、いつの間にか露出狂の世になったのです。流行と言えばそれまでですが、露出する側は防犯ベルを忍ばせて不心得な男性を警戒し、見せ付けられる側はオスの本能を封じ込めることに躍起になっている世相は滑稽です。男性が女性の肉体から性的刺激を受けるのは人類の定理です。それを承知の上でことさら露出する女性は、無意識のレベルで男性の関心を引こうとしているのだと解釈すれば、露出度の高い女性ほど潜在的には好色であることになりますから、本能に抗しきれなかった男性の衝動に対しても応分の責任を免れないのではないでしょうか。逆に言えば、本能に抗しきれないで先に露出してしまったのは女性の側であるという見方も成立するように思うのです。