運が悪かった

平成15年10月26日

 暴走族というのは『暴走』だから、平気でスピード違反をする集団だと思っていたら、あれはゆっくり走るのですね。初めて臨場感のある場所で目撃しました。二台の乗用車に伴走されたバイクが十数台、三車線の道路いっぱいに広がって、ボン、ボン、ボンという爆音を立てながら、平然と信号を無視して行きます。当然後ろは延々とした渋滞です。時間までに荷物を届けなくてはならないのでしょう。トラックはクラクションを鳴らして目の前のバイク集団を蹴散らそうと蛮勇を奮うのですが、多勢に無勢、バイクは怯む様子はありません。不穏な空気を感じ取った私は、携帯電話で警察に電話しました。連絡してからどれくらいの時間でパトカーが到着するかということにも関心がありましたが、このままでは急ぐ車とバイクとの間で事故か事件が起きるような気がしたのです。

「わかりました。情報提供ありがとうございました」

 警察の応対は丁寧でした。正確に場所を通報したのだから先回りして一網打尽にすればいいと思うのですが、事態は信じられない展開でした。パトカーは逃げろ逃げろと言わんばかりにサイレンを鳴らして後方からやって来て、渋滞で立ち往生したのです。

 やがて恐れていたことが現実になりました。

「事故が発生しました。左車線は通行できません。右車線に移動してください」

 後ろのパトカーから絶望的なアナウンスがありました。

 暴走族との直接の関係は不明ですが、乗用車が二台衝突したのです。国道は一車線をふさがれ、渋滞を抜けるまでに相当な時間がかかりました。暴走族たちは意気揚々と走り去りました。

「ああいうの取り締まるのは大変だろうね」

 帰りついた私が言うと、

「一般道を制限速度以内で走るのだから法的には取り締まれないよね」

 こういうことに詳しい友人は平然と答えました。

 「信号無視は?」

 「無理やり交差点で取り締ったために、無関係な車を巻き添えにして事故が起きたりすると、警察の責任になるからなあ。慎重なんだよ」

 第一恐いしね…という一言が、私はとてもよく理解できました。警察官にも家族があります。妻や子がいます。職務とはいえ、逮捕覚悟で無茶をしている若者相手に体を張るのは恐ろしいに違いありません。

「まあ、あんな連中に出会ったのは運が悪いと思うしかないか」

 と自分の気持ちに決着をつけた翌日、私は仕事で高速道路を走行していました。

 急ぐ理由があって追い越し車線に移り、先行車を抜きました。抜いてすぐに走行車線に戻った私を、さらに一台の白い乗用車が追い抜きました。私の前に割って入った白い乗用車のリアウィンドウには『パトカーに従ってください』という赤いネオンが私を誘導していました。

 料金所の手前の広場に引き込まれて青い反則切符を切られました。罰金は一万八千円で、点数は五点でした。

「すぐに走行車線に戻られましたが、一応この道路は八十キロ制限ですからね。百九キロ出てました。間違いありませんか?」

 私は、はい、はい、と、ひたすら恭順の意を示しましたが、違反をしてしまった反省と同時に、まあこんな連中に出会ったのは運が悪いと思うしかないか…という不遜な気持がよぎったのは、昨夜の暴走族の一件がまだ記憶に新しかったからに違いありません。