持ち点

平成15年11月24日

 高速道路で覆面パトに捕まってしばらくすると、これまでの小さな違反が重なったのですね、30日間の免停処分が来ましたが、終日の講習を受講して、免停期間は一日に短縮されました。係官の説明によると、15点あった持ち点が免停一回の前歴ペナルティによって10点に減点されるため、これからは例えば一旦停止違反を2回、つまり4点相当の違反で再び免停処分になり、仮に前歴が二回になると、今度は持ち点が5点に減って、例えばシートベルトを着用していないところを2度見つかるだけで三度目の免停が来るのだそうです。これらの行政上のペナルティは一年間無事故無違反で経過すれば回復するようですから、持ち点制度の考案者の思惑どおり、運転は慎重にならざるを得ません。

 ところが、これが意外と危険なのです。

 今朝も所用で往復一時間ほどの運転をして来ましたが、制限速度を守る私にいらついて追い越しをかけた後続車が、パッシングしながら近づいて来る対向車を避けようと、慌てて私の車の直前に割り込みました。思わずブレーキを踏んで減速すると、さらに後ろでいらいらしながら車間距離を詰めていた後続車が危うく私に追突しそうになりました。

 それだけではありません。信号が黄色に変わるので減速して停止すると、黄色で止まるやつがあるかとばかり、今度は赤い乗用車が私の車を追い抜いて、怒ったようにクラクションを鳴らしながら交差点をすり抜けました。

 わずか一時間のドライブで二度も危険な目に会うのです。持ち点を気にした安全運転は、案外周囲の違反を誘う危険運転なのかも知れません。

 と、目の前の道路を一人のホームレスが横切りました。長い髪、伸び放題のひげ、汚れた服に身を包んでのっそりと歩く男の姿を見た時に、私ははっとしました。彼が、持ち点を使い果たした人生のドライバーのように見えたのです。恐らく彼にも周囲と同じ15点の持ち点を持って、意気揚々と生きていた時代があったに違いありません。ところが大きな違反をしたか、それとも小さな違反を繰り返したか、あるいは外部からの不可抗力が加わって、ある時人生の持ち点が減ったのでしょう。そうなると、萎縮すれば周囲からばかにされ、大胆に振る舞えばさらに持ち点が減って、とうとう彼の持つ人生の免許は取り消されてしまったのです。再度免許を取るための資金もチャンスも与えられないまま、水道とトイレだけは完備した公園にテントを張って、かろうじて雨露をしのぐ哀しい境遇になり果ててしまったのではないかと思うと、目の前の男が気の毒になりました。

 持ち点が減ると、それまでは何でもなかったちょっとしたつまずきが思いがけないダメージになるのです。

 それは健康も同じです。若さに任せて無理を重ねると、いつの間にか持ち点が少なくなった身体はめっきりと抵抗力を失って、ちょっとした病気が命取りになります。喘息発作に苦しみながら、この一年を慎重に暮らしてみようと思いました。窮屈でも、まずは持ち点を回復しなければなりません。

 物体の法則と同様、あらゆる転落には加速度がつくように思うのです。