車内の会話

平成15年01月16日

「今朝は何だか混んでますわね。いつもは座れることもあるんですよ」

「本当に、人いきれの中で立ってるだけで疲れてしまいます。会場まではタクシーを使いましょう」

「そうね、この上、地下鉄とバスに揺られたんじゃ、いい俳句なんてできませんものね」

「それにしても今度の教室は講座の半分近くまで進んだのに、何となくうちとけないような気がいたしませんこと?」

「受講生の中に特定のグループができてしまったのが原因じゃありません?」

「やはりあなたもそうお思いになりまして?先生もあの方たちに気をお遣いにならないで無視されればよろしいのに、おやさしいから」

「いえ、あの方たちが厚かましいのです。俳句をなさるなら謙虚な生き方を学ばれるべきですわ。あれじゃ詫びもさびもありません」

「これ見よがしに不思議なエルメスのバッグなどお持ちになるのもどうかと思いますよ」

「やはりお気づきになりまして?あれはよくできたコピーですわよね?」

「ま、距離を置いてお付き合いすることですね。ああいう人たちはどこの世界にもいるものですから・・・」

「私、教室の帰りはスウィミングで気分を変えることにしているのですよ」

「あら、そんな秘密がおありになったのね。私なんか運動が苦手でしょ?でも映画を見たりショッピングするだけで結構体力を使いますのよ。夜なんかぐっすり」

「あ、そうそう、中国旅行の案内がありましたでしょう?どうされます?」

「もう二度も行ってるでしょ?迷っているところなの。あなたは?」

「お友達がご一緒なら出かけてみようかなと思って・・・。子どもたちも手を離れたし、夫は相変わらず仕事仕事の働き蜂でしょ?私そんな夫を見ていると、もっと有意義に時間を過ごさなくてはと思うんですよ」

 平日の混雑した車内でこんな会話が交わされていました。私は声の主の、見も知らぬ夫に対し、働き蜂同士の奇妙な連帯を感じながら、背中を丸めて職場に向かいました。