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地殻変動
平成16年07月05日
岐阜行きの快速電車は混んでいました。
人込みに押されるようにして乗り込んだ私の目の前に、かろうじて座席が一つ空いていましたが、そこには大きな黒いバッグが置いてあって、座ることができません。
「あの、ここ、いいですか?」
のひとことをためらっていると、バッグの隣のサラリーマン風の男性が爽やかに言いました。
「荷物、網棚に上げましょうか?」
すると、向かい合って座っていた若い女性は、何を勘違いしたのか笑ってこう答えました。
「いえ、そのままで大丈夫ですから…」
「いや、大丈夫とかじゃなくて、立っている人が座れないでしょう?」
そう言われて悪びれる様子もなく、ああ…と慌ててバッグを網棚に上げたところを見ると、彼女は荷物で空席を占有することの迷惑にまったく気がついていなかったようです。
おかげで座ることのできた私の耳に、今度はドア付近で談笑する若者の会話が聞こえて来ました。
「…でさ、駅の駐輪場でケッタをパクろうと思ったら鍵がかかってやんの。適当な石で鍵をガン!ガン!叩いてぶっ壊してたら電車が着いてよお、若い女がやって来て、あの…その自転車、私のなんですけど…だって。おれ、マジ、ビビッちゃった」
「綺麗な女かよ」
「まあ、ちょっとイケてたかな?」
「ばか、おまえ、何でナンパしなかったんだよ」
見ると、ごく普通の十代の若者でした。
…で、駅に着くと例によって大胆に肌を露出した現代カンカン娘たちが、履物のヒールでカン!カン!カン!と床を叩いて、わがもの顔で階段を下りて行きます。
巨大な地殻変動が起きているのだと思いました。若者を中心に、人間関係の在り方が変化しているのです。これからの社会で生きて行くことについて、何やら深刻な覚悟を迫られているような気がして、肩を落として駅を出る私の目を気にする様子もなく、一組の高校生のカップルが抱き合ってキスをしていました。
終