クジラとホームレス

平成17年05月31日(火)

 中日新聞の発言欄に『迷いクジラの死亡痛々しい』と題した心やさしい文章が掲載されていましたのでご紹介しましょう。

『東京湾に迷い込んだクジラが定置網に引っ掛かり、死んでしまった。クジラを調べると、体中にたくさんの傷があったそうで、網から逃れようともがき苦しんだことが分かる。私は東京湾に迷い込んだときから、このようになるのではと心配していた。湾内にはクジラが生きていけるだけの餌がないからだ。このクジラも恐らく、おなかをすかして少しずつ衰弱し、最後には網に引っ掛かってしまったのだろう。なぜもっと早く湾の外へ出してやれなかったのだろうか。日本では珍しい動物が迷い込むと、遠くからも見物客が来て、写真を撮るなどして大騒ぎをする。今回もクジラが潮を吹いたり、尾びれが見えたりするたびに海岸に集まった人たちは歓声を上げていた。しかし、このクジラは知らない所に迷い込み、途方にくれていたのかもしれない。私は血を流して横たわるクジラを見て、かわいそうでならなかった。最近は異常気象の影響なのか、日本近海では見られない珍しい動物が迷いこむことがよくある。次回このようなことが起きた場合は、関係者はすぐに追い払うなどの適切な措置を取ってもらいたい』

 クジラに寄せる発言者のあたたかいまなざしはどうでしょう。

 ところが、ふっと、クジラより先に対策を急がなければならない対象がいるぞ…と思い当たって、文章中のクジラをホームレスに変えてみたら次のようになりました。

『公園に住み着いたホームレスの男性が病気になって死んでしまった。男性を調べると、体はたくさんの病気に蝕まれていたそうで、痛みから逃れようともがき苦しんだことが分かる。私は彼が公園に住み着いたときから、このようになるのではと心配していた。町には人間が生きていけるだけの食べ物がないからだ。この男性も恐らく、おなかをすかして少しずつ衰弱し、最後には病気にかかってしまったのだろう。なぜもっと早く公園の外に住居と仕事を見つけてやれなかったのだろうか。日本ではホームレスが住み着くと、誰もが見て見ぬふりをして知らん顔をする。今回も男性がうめき声を上げたり、おなかを押さえて転げまわるのを、公園に集まった人たちは無視していた。しかし、この男性は知らない人ばかりの公園で、途方にくれていたのかもしれない。私は体をくの字に曲げて運ばれる男性を見て、かわいそうでならなかった。最近は不況が深刻なのか、見たことのないホームレスが公園に住み着くことがよくある。二度とこのようなことが起きないよう、関係者は住居と仕事を斡旋するなどの適切な措置を取ってもらいたい』

 これはこれで、重い内容の発言になりました。