国家の縮図

平成19年10月22日(月)

 コンビニで万引きをした男を追いかけた店員が刃物で刺されて死亡するという事件が報じられました。痛ましい出来事は電波に乗って日本中を駆け巡りましたが、追いかけた店員を手放しで賞賛する声はなく、

「勇気ある行動がこのような残念な結果になってしまいました。亡くなった被害者のご冥福を心からお祈りしたいと思います」

 キャスターは沈痛な面持ちでそう結びました。恐らくその夜は、コンビニでアルバイトをする年齢の子供を持つ日本中の家庭でこんな会話が交わされたことでしょう。

「いいか、万引き見つけたって、安っぽい正義感出して追いかけたりするんじゃないぞ。殺されたんじゃ何にもならない」

「そうよ、菓子パンの一個や二個、盗まれたってどうってことないでしょう。犯人がいなくなってから警察を呼べばいいのよ。店員は商品を売るのが仕事、犯人を捕まえるのは警察の仕事。お願いだから危ないことはしないでね」

「そもそもパンを盗まなきゃならないような若者がいること自体が問題なんだよ。所得の格差が広がれば、盗みだけじゃない、ひったくりだって強盗だって増える。これは政治の問題だよ」

 もちろん私自身も含めて、そういう人々で構成される国家が平和活動に参加するに当たって、やれ戦闘地域だ、非戦闘地域だ、憲法違反だ、という議論に終始して事の本質に至らず、強行採決で曖昧な結論に達しました。菓子パンどころか邦人を拉致されながら摩擦を恐れてなす術もありません。

 伊勢の老舗の和菓子製造販売業者が、解凍日を製造日と表示したり、売れ残り商品を再利用していた事実が判明して営業停止になりました。知らないで食べ続けていた客こそいい面の皮ですが、長年欺かれながら解凍製品であるかどうかの区別もつかず、健康被害も報告されていないのもまた事実です。同じことを家庭レベルで主婦が行えばやりくり上手という評価を受け、企業が行えば犯罪になるのです。むしろ表示の方法を現実に合わせ、値段に段階を設けたらどうかとも思いますが、それは別の話しです。

 同じ手口を国家レベルで行えば、領収書の改ざんによる事務所費や年金掛け金の流用になるでしょう。製造日の偽装による解凍和菓子の販売が結果的に実害がなかったのと異なり、政治家や官僚や末端の公務員の間で常習化していた使途不明金の捻出は、血税が目的外使用されるという意味で罪は深刻です。その上、和菓子製造会社の責任者は、糾弾され、謝罪し、営業停止の処分を受けるのに対し、政治家は、法律にのっとって適性に処理していると言い張るだけで、あれだけ紛糾した事務処理について満足な説明もしないまま、何の処分も受けません。唯一国民が審判を下す機会である選挙で、あの顔面を絆創膏だらけにした議員が再び当選するとなれば何をか言わんやです。

 結局、個人は国家の縮図であり、国家はまた個人の反映であるのです。