過疎地の会議(路線バスの巻)

平成21年10月13日(金)

 過疎で財政的に逼迫した町が、経費節減のために路線バスの運行頻度を減らしたところ、使い勝手が悪くなってさらに利用者は減少し、

「一日数人の高齢者を乗せるために路線を一本維持するのは、税の使い道としてはいかがなものか」

 ということになって路線が廃止されると、たちまち乗客たちは通院の足を奪われました。

「わしらぁ、山の上の市民病院までどやって行ったらええんかいのう?」

 という声に応えて、以下は、路線バスに代わる高齢者の移動手段を確保するために開催された地域の福祉関係者の会議です。

「やはり高齢者世帯の場合、バスがなくなればタクシー使うしかないでしょう」

「しかし、市民病院までタクシーとなると、場所によっては片道五千円を越えますよ。国民年金だけのお年寄りには負担が大きすぎませんか」

「バス料金を越えるタクシー代金を補助するというのはどうでしょう?路線を一本維持するよりは絶対に安い」

「う~む、しかしそれだと通院を口実にタクシーを使う者が出ないとも限らないですよ」

「なるほど、町に出るために通院するんじゃ本末転倒ですからね」

「地域には、退職して暇ができたけど、何か世の中の役に立ちたいと思っている人はいるはずです。通院や買い物の運転ボランティアをしてもらうのは難しいでしょうか?」

「ボランティアというのは自分の都合で動く立場ですからね、当てにできないんじゃないですか?」

「ネットワークを作るんですよ、ボランティアの。都合が悪い時は責任を持って代わりを確保してもらうんです」

「ガソリン代の実費程度は負担してもらうんでしょ?」

「実費負担は当然ですが、問題はカネを持っている高齢者の依頼にも対応するかどうかですよね?」

「カネを持ってるったって、所得は年金ですから、たかが知れてるでしょう」

「それがね、あくまでも噂ですよ、噂ですが、何千万も蓄えがあったり、たくさん株を持ってる人もいるらしいですよ」

「そうそう、この前亡くなった一人暮らしのお年寄りのタンスから、三千万の現金が出てきたそうですよ。つましい生活をしていたようですがねえ」

「つましくしているから蓄えられたんですよ。そういう人は喜んで使うでしょうね、ボランティア」

「それに、例えば息子さんが都会に出て立派にやってる人なんか、助ける必要があるんですか?本人が亡くなれば財産を相続する訳ですから、金銭的な扶養をすべきだと思いますがね」

「立派にやってるかどうかをどうやって判断するんですか?ローンがあって、子供が二人いっぺんに大学なんていうと、普通は余裕はないですよ」

「立派に見えて、実は借金だらけという場合もありますしねえ…」

「それに、あなたは蓄えがあるからだめ、あなたは株持ってるからだめ、あなたは立派な息子がいるからだめなんて、実際には決められないと思いますよ。調べようがないでしょう」

「確かにそうですが…」

「誰でも使えるバスの替わりなんですから、やはり誰でも使えるものにしないといけないと思います」

「しかし皆さん、事故はどうするんですか事故は。善意でクルマに乗せてあげて損害賠償だ何だってトラブルになってはたまりませんよ」

「事故は保険で対応するしかないでしょう」

「保険までかけてボランティアする人いますかねえ…」

「ボランティアを募る以上は、万一のことまで想定して責任がとれるような体制にしないといけないと思いますよ。一応おおやけが募るんですから」

「冬なんか、市民病院の坂、凍りますからねえ…よくガードレールにぶつかってます」

「ま、怪我をしてもすぐ病院ですけどね(笑)」

「あなた、冗談言ってる場合じゃないですよ、そもそも何であんな山の上に建てたんですかねえ…」

「土地が安かったからですよ、町にはカネがないんです。だから路線バスも廃止した」

「しかし、確かに事故の心配はつきまといますねえ」

「保険はあくまでも金銭的な補償ですからね。あんな人のクルマに乗せてもらうから、こんな目に会ったなんて言われたのでは善意の運転手が気の毒です」

「結局、リスクのあるボランティアをおおやけが組織するのは無理ということですかねえ」

「あくまでも個人的な好意で取り組んでもらうしかないということですか…」

「個人的な好意となると、頼む方は頼み難いですよ。第一、誰が好意を持っているかがわからない」

「それに、ボランティアが乗せてくれるということになれば、タクシー会社が何を言い出すか」

「なるほど、タクシー会社ですか…」

 発言はここで途切れました。

「では、よい案があれば、申し出て頂くということにして、来月は雪の問題を話し合うことにいたしましょう」

 参加者たちは口々に、難しいのう、難しいのう、とつぶやきながら散会したのでした。